悪魔のいけにえ 公開40周年記念版の話

視聴場所・ネットフリックス

視聴を始めてまず映し出されたのは砂嵐とともにドクロを組み上げた墓標と、墓荒らしを告げるラジオのニュース放送。それが徐々にスタッフロールに移行していくのだが、早くも私はこの映画すげえ!と思った。チョロい。いや私がすぐ面白がる癖はあるのだけど!作品において開始10分は観客を引き込むのにとても重要だし(だと思ってるけど実際どうかは分からん)、この映画通して見てもこの導入はものすごく引き込まれたのだ。
予算の関係で映像が粗くなってしまったらしいのだが、それがかえって薄汚さ、リアルさを感じる。BGMがノイズ混じりの淡々としたラジオというのも恐怖を煽った。これから何かが始まるのか、もうワクワクが止まらなかった。

あらすじを書くと、主人公のサリーが、ドライブ先で立ち寄った一軒家であたまおかしい一家があたまおかしいことしてる現場に遭遇するという話だ。えっ雑?見たならきっと分かってくれる!……と思う!
が、さすがに怒られそうなので真面目に書こう。
冒頭のニュースを知ったサリー・ハーデスティは兄フランクリンと共に大学の友人らと墓の確認を兼ねたドライブに向かった。途中でヒッチハイカーの男を拾うが、男は支離滅裂な言動を繰り返し、しまいにはフランクリンからナイフを借りたかと思えば自分の手を切りつけ、そしてフランクリンの手を切った。車内は騒然となりヒッチハイカーを降ろして去る。
夕方、ガソリンがなくなり停車した一行は廃屋に足を踏み入れ、友人の一部はガソリンを分けてもらおうと近隣の家に向かう。だがその家は、至る場所に人骨、異臭を放つという異様な光景。一体何がと言うところで迫り来るのは、皮膚を被った大柄な男だった――

この映画の見どころは、なんといっても恐怖描写と映像美にある。ホラー映画で美というのもおかしな話なのだが、背景から建造物や小物に至るまで非常に細かく、前述の画面の粗さと相まってまざまざと恐怖を煽るのだ。
例えば、あたまおかしい一家の四男、もう一人の主人公レザーフェイスことババ・ソーヤーは先天性の皮膚病と梅毒から人皮を剥いで素顔を隠している。この人皮が本当にリアルで、映画序盤で彼のアップと共にギザギザの歯で歯ぎしりをするシーンがあるのだが、これがもうリアル過ぎて背中がぞわぞわするような嫌悪感。ちなみにババ君は知能こそ子どもだが家事や家具作りが好きな家庭的な子である。かわいい。すんげえ走ってチェーンソー振り回すけど。家具も人骨だけど。

この映画で好きなシーンはというと、一家の楽しい晩餐会とか、夕陽をバックにチェーンソーダンスとか色々浮かぶが、個人的に一番好きなのはサリーがバーベキュー店に逃げ込んだシーンである。
レザーフェイスから逃げまどい、這々の体で近くのバーベキュー店に逃げ込んだサリーは店主の男に助けを求める。男は血まみれで錯乱するサリーに大丈夫だからと優しく声をかけてやり車を取りに行く。その間にサリーは息を整え、周囲を見渡す…と、サリーのすぐそばで串刺しの肉が焼けていた。視聴者的には意味深なカットで「ん?」となるが、すぐに車がやってくる。サリーが入り口に視線をやると――男は、麻袋を持って近づいてきた。そう、彼もまたソーヤー家の者、彼らは人間を襲いその肉を食う恐ろしい一家だったのだ……
ホッとした矢先に、というシチュエーションもさることながら、男が麻袋を持って尚先程と変わらぬ口調で大丈夫、大丈夫と言いながら近づいてくる様が本当に恐ろしかった。自分たちのしていることに何の疑問も持っていないのである。俳優の演技も相まって一家の異常性が際立っていた。
この異常性というのが映画のキモだと思う。それはサリーを含めた被害者が「普通の人」だからだ。と言うとサリーの兄フランクリンは半身不随で車椅子じゃないかという話だが、フランクリンも外見だけで、自身が車椅子であるがゆえに疎外感を感じるような普通の人なのだ。いやまあ…ヒッチハイカー(後にわかるがこいつもソーヤー家の一員)が使ったナイフにやたら執着したりするけど…逆を言うとそれだけで、そのナイフを使ってどうこうしたりしない。そしてサリーの友人も、フランクリンを露骨にイジメたりはしていない。もちろんのことサリーもだ。
普通の若者たちが、たまたま通りがかったために、異常な一家によって理不尽に殺される。この終始一貫した理不尽さが恐怖そのものだと感じた。

ストーリーを求める人には物足りなさがあるかもしれないし、私もどちらかといえばストーリー重視のタイプだが、この作品に限ってはそれらを補うどころか溢れる、噴出するぐらいの勢いで楽しかった。
一つ、たった一つだけ不満があるとすれば、邦題はもうちょい何とかならなかったんだろうか…!悪魔がレザーフェイス一家でいけにえがサリーなのはわかるけど一体誰目線なのか…でも当時としては普通のタイトルなのか。さすがに生まれる前のことは知りようがないである…
とにかくこの映画、ホラーの入門的に見始めたのは大正解だった!本当に面白怖かった!はやいとこDbDで強化してあげてくださいババ君がうずくまって泣いてしまいます!!

まとめ・ストーリー性は薄めながら恐怖描写、映像美が最高
・一家のキチ具合が特に見応え
・グロは弱め、そのかわり音による脅かし多め
・レザーフェイスはかわいい
・っていう話を母(ホラー詳しい)に振ってみたら「あんた頭おかしいぞ」って言われた

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