絶版になった自著を買い取って販売してみた
こんにちは、宵というペンネームでボーイズラブ小説を書いていますが、2016年にデビューしたもののデビュー元が2017年に休刊し、既刊二冊が2020年いっぱいで絶版になりました。
それでタイトル通り『絶版になるから在庫を買い取ってBOOTHで通販してみた』わけです。
私のように絶版になる自著を買い取って手売りしてみようと思う方がいらしたら、参考になるかもしれないので、書き残しておこうと思います。
決して「電子書籍ではなく紙の書籍を買え」という話ではありません。
たまに読み違える方がいらっしゃるので、ここに明記しておきます。
あくまで「紙の書籍」を巡るお話です。
■何故、在庫を買い取ろうと思ったのか。
デビューしたのが2016年なのに翌年レーベル休止です。新人に世間の荒波がつらく当たりすぎです。
次も仕事あげるよと言われていたので意気揚々とプロットたくさん作っていた上、書き始めていた私涙目です。それらは全部Kindleなどで個人出版したので機会があったら読んでやって下さい(宣伝)
絶版になるのは紙の書籍だけで、電子書籍版は出版社にこのまま預ける事も、引き上げる事もできました。
私の場合、出版社から『今年(2020年)いっぱいで絶版になるけど、電子書籍どうする? 引き上げる? このままうちに預ける? 連絡ちょうだい(意訳)』という手紙が来ました。
預けるのも引き上げるのも可能です。
私は改稿し新装改訂版を個人出版したかったので、引き上げました。
※個人出版にした理由は色々あるのですが、今回のお話には全く関係無いので割愛します。
絶版になった書籍の在庫がどうなるのか、ご存じでしょうか。
廃棄処分になります。
断裁されたり溶解されたり、なんらかの『廃棄処分』をされてしまいます。
自分の本が廃棄されてしまうは、あまりにつらいです。
まして、思い入れのある大切なデビュー作です。
そこで私は思い切って出版社の社長さんにメールを出しました。
※いきなり社長と交渉なのは、私の担当編集者がレーベル休止に伴い退社してしまったので、連絡窓口が社長直結というハードモードになっていたためです。
『在庫を買い取ってBOOTHで販売したいんだけど可能か』というのを包み隠さず直球で聞いてみました。ものの数十分で返事がきました。
結果は『いいよー! 在庫確認して連絡するね』でした。
言ってみるものです。
まず、本が好きな方なら皆そうだと思いますが、本が裁断されたり溶解されたりして処分されるのを考えると、しのびないです。
まして自分の本、更に思い出のデビュー作なら、もっとしのびないです。
廃棄処分されてしまうくらいなら、自分で買い取って、時間がかかってもいいから自分で販売し、読んでもらえる可能性にかけたい。
そう思ったのです。
■買い取る価格と量
私の場合、他の出版社から同じメインタイトルを使ったスピンオフを出版するオファーがあったので、『メインタイトルを他社で使用しても問題ないか』を休止レーベルに問い合わせなければならず、この時(2019年)に、現在の在庫数を教えて頂けました。
この時点で300冊程度というお話だったので、絶版になる(2020年)連絡が来た時に「これなら全部買い取れそう」という算段がありました。
※レーベル休止ならもう重版はされないので、これより在庫が増える可能性はゼロです。
実際、買い取った時には二種類あわせて200冊ちょっとくらいしかありませんでした。
この時の買い取り価格ですが、出版社と書籍を出す時に契約書を交わすと思います。その契約書に「著者が自著を出版社から購入する場合の金額」の項目があるかと思います。
私は二社としかお取引がなかったのでよそが全部そうかは分かりませんが、だいたい『定価の7割』で購入できると思います。
これが在庫の買い取り価格になります。
私の場合残り少なかったのでさくっと全部買いましたが、在庫の数次第で出版社と買い取り価格の交渉ができるのではないかとも思います。(確証はありませんが)
処分するのだって保管するのだって、お金がかかる事です。
なので出版社にとってもそんなに悪い話ではないと思います。多分。
買い取るにあたって問題になるのは、買い取りの費用だけではないです。
買い取った在庫の置き場です。
私は文庫本を二種類買い取ったのですが、そのうち一種類が400ページ越えと普通のBL文庫の二倍近い厚さがあり、結構場所を取りました。ついでにいうとものすごく重いです。
金銭的にも保管場所的にも、家族の理解が必要になるのではないかと思います。
BOOTHの『倉庫サービス』を使えば保管は問題ないかもしれません。
それもお金のかかる事ですが。
何にせよそれなりの資金が必要になります。
それから、とても重要な事ですが、買い取る在庫は、だいたい「一度は書店に並び、返本されてきたもの」です。
刷り立てのピカピカ美品ではないので、帯がなかったり小さなキズ、汚れがある可能性が。
これは注意点ですね。
■販売する手段
私は抱えた在庫数が200冊以下と同人誌レベルだったので、BOOTHの自家通販(匿名発送)を選びました。
この時私は「あんまり売れなさそう。欲しい人はもう持っているだろうし、時代は電子書籍だし」と思っていたので、在庫を売りさばく場所を求めていました。
BOOTHだけではたりない。ならば同人誌即売会はどうか。
ここでも図々しく、同人誌即売会の運営に問い合わせメールを出しました。
『絶版になっちゃった商業書籍売ってもいい? シリーズで続けたいやつなの(意訳)』
返ってきた答えは
『商業書籍は禁止だけど、絶版書籍は考えてなかったわ。ちょっと会議してくるから2週間くらい待ってて(意訳)』
私もそんなもの売ってるサークル見た事ないです。
主催さんの困惑もよく分かります。
で、2週間みっちり考えて下さったようで、メールのお返事がきました。
『ごめんね、絶版して間もないし、ダメ。でも読者にも利がある案件だから、なんかそういう場がもてないか模索もしてみるね(意訳)』
本当にすみません、変な事言い出して。とても丁寧に親身に考えて下さって、恐縮です。
というわけで、同人誌即売会に絶版書籍を持ち込み販売は難しそうです。
未確認情報ですが、コミティアで絶版になった自著を販売していた方がいたとか。
先駆者がいた……!
やっぱり自分の大切な本は、読んで欲しいですよね。断裁処分されるために頑張って書いたんじゃないですもん。本は読んでもらってこそで、物語は読んでもらえないと、忘れ去られて消えてしまうものです。
もうひとつ、同人誌委託販売会社ですが、そこは問い合わせませんでした。その前に在庫がなくなってしまいそうで、問い合わせていいよって言って頂いたのに、現物がないというのも失礼な話だと思い、問い合わせできませんでした。
■そもそも売れるのか? 問題
正直、私も売れないと思っていました。
欲しい方はもう入手済みだろうし、予算があまりないけど可愛い購入特典でも手作りして、何年もかけて売ろう、と思っていました。
が、『絶版になった自分の本を買い取ったよ! 販売してみるよ!』とTwitterで呟いたところ、900弱のRTと1500弱のいいねを頂きました。
このプチバズでフォロワーさんが一気に400人くらい増加し、書籍に興味を持って下さる方々が出てきました。
更に『今まで探していたけど見つからず、買えなかった』という人も。
レーベルが休刊になったと知ると、本屋さんは返本を始めます。新刊がでないなら、埋もれて行くばかりのレーベルですからね……。貴重な商品棚を空けた方がいいと判断するのでしょう。
そうなると本屋さんで買うには取り寄せるしかありません。
あとはネットの書籍が通販できるサイトになりますが、これも出版社側の在庫がなくなってくると、取り扱いを停止してしまいます。
こちらもまだ受けつけているショップを探すしかないです。
未確認ですが、Twitterのフォロワーさんが「もう書店で取り寄せができなかった」というような事を仰っていたので、返本のタイミング次第で出版社側に在庫がないとそうなるのかもしれません。
で、実際に販売してみたところ、飛ぶように売れました。
プチバズったおかげで増えたご新規さんや古くから応援して下さった方や電子書籍版持ってるけど紙で欲しい方だとか、色々な方がご購入下さいました。
意外とご新規さんが結構いらした模様で、ここで思ったのが
『毎月40冊かそこらくらいはでているBL小説なんて、すぐに埋もれてしまうのでは?』
出版社はそれほど宣伝をしてくれません。せいぜい発売前後にTwitterで呟くくらいでしょうか。
あとは著者が宣伝するしかないです。
そうすると、新刊におされてすぐに埋もれちゃいますよね。よほど大人気でファンがたくさんいる先生以外は。
そうやって埋もれて日の目を見ることがない名作がたくさんあるんだろうな……と思った次第です。
私の場合、2016年にデビュー→翌年2017年に休刊というコンボで、書店に並べてもらえる期間がとても短かったのではないかと思います。
そうなるとあまり周知されないわけです。特にBL読者のコア層は40代以上なので、ネットに疎い人も結構います。書店に並ばないのは致命的でしょう。
その上、レーベルが休止になれば、当然フェアもセールもやってもらえません。
ますます埋もれて行ってしまうわけです。まさに休刊=死ですね。
デビューしてすぐそんな現実突きつけられるなんて、思ってもみなかった私です。
少しくらい夢みさせてよ!
■絶版本を販売した結論
真っ先に思ったのは「買い取って販売して、よかった」です。
初めましての方々にも買って頂けて、興味を持って頂けて、私が書いた物語を読んで頂けて、とても嬉しかったのです。
このまま断裁処理や溶解処理をされてなかった事になってしまうより、こうして誰かに読んでもらえる方が嬉しいです。
もしかしたら、必死でみっともない! って思う方もいらっしゃるかもしれません。
でも、やってよかった。
少しでも多くの方に、私の作品を、私に声をかけて下さった編集さんのお力添えを、素敵なイラストを描いて下さったイラストレーターの先生のご尽力を、皆様にお見せしたかった。
在庫を買い取るのは、安易には勧められません。
お金もかかるし、保管場所も考えなければならないし、販売する手段も考えなくてはならないし、家族の理解も必要になります。
そこまでして、売れるかどうかも分かりません。
でも、販売する楽しみもあります。
自分で色々な特典を作ったり、小ロット安価で小物を印刷してくれる印刷屋さんを探したり、通販に添えるカードを考えてみたり。
これが私はとても楽しかったのです。
私の本は文庫だったので、クラフト紙でブックカバーを作ったり、素材集を駆使して小説内の文章を抜粋して載せたしおりを作ったり、発売当時の販促用のSSを全部のせた小冊子を作ったり。
こういうのもまた、創作の醍醐味ですよね。
■最後に
ここで言いたいのは「作家は辛いから応援してね!」ではないです。
本との出会いはまさに今、一期一会の状況なので、気になったら是非買っておくべきです。
これが言いたかった。
これからますます電子書籍へと世の中がシフトしていくので、紙の本のサイクルは激しくなると思います。
だから気になった本は買っておきましょう。
でないと、手に入らなくなってしまいます。
電子書籍になるからいいや! と思っていても、著者の意向・事情で電子化されなかったり、配信停止になる事もあります。
一度購入した電子書籍は、配信停止になってもストア側にデータが残っているはずなので、再度ダウンロードが可能だと思いますが、ストアが閉鎖されればもう手に入りません。
電子書籍であっても、紙の書籍であっても、『ずっと一緒に』はいられないかもしれませんね。
そう考えると、本との出会いは『一期一会』なのだなって痛感します。
そして、絶版になる自分の本を買い取って販売するのは、とても楽しかったです!
もしも誰かが迷っていたら「負担にならない程度に買い取って、販売して、読んでもらえる可能性にかけよう」と応援したいです。
最後まで読んで下さってありがとうございました。
小説は書けますが説明はとても苦手なので、うまくお伝えできたか不安です。
あとで後悔するよりは、断然行動に移した方がいいですよ!
その方が、きっと色々な可能性が広がります。