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ゆのか香る街

#阿賀北ノベルジャム  後取材記4

起き抜けに朝湯に入った。誰一人いない湯船にゆったりと浸かる。
温泉に泊まる一番の楽しみはこれかもしれない。
「木もれびの宿 ゆのか」はHPを持たない小さな温泉宿で、村上市のHPには「新潟初 加水なし・源泉かけ流しの温泉宿」とある。
クモハたちがここに決めたのも「源泉かけ流し」が決め手だった。

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昨夜、たどり着いた時はヘトヘトだった。巡回バスの中でも気を張っていて、「〇〇病院」というバス停名を聞くたびに反応していた。降りなければならない駅名は「瀬波病院前」で、ボタンを押した時は心底ホッとした。旅館の外観は「宿」という言葉からすると、ちょっとモダン過ぎたけれど、部屋のしつらえは心地よく温泉も最高だった。

朝食も品数が多く心づくしがなされていた。朝食前に、それを口にしたのはちょっとした気まぐれだった。
「村上を舞台にした小説を書きました。その取材に回っているのです」
観光案内所での体験もあった。自分にとって大きなことでも他の人にとってはどうでもいいことだ、というのは身に染みている。何も期待したわけではなかった。
まず奥様が最初に反応した。若い頃から文章に親しみ、小説をずっと書きたかったのだという。即座に「阿賀北ノベルジャム」への参加を勧めていた。こういう方が応募するようになったら、阿賀北の文芸は一層深みを増す、と思ったからだ。続いて調理場からおじ様が出てきた。若い頃印刷業をされていて、今は息子に譲っている。退職してからこの宿を始めたとおっしゃった。素敵な出会いではないか。人生はこれだから面白い。
「バッテンガール」と新潟日報の記事を渡した。チェックアウトするまで持っていて欲しかった。

さて朝食後、チビ土偶に二つの選択肢を出した。
1、村上市街に戻り、臥牛山を登って城跡に行く
2、目の前にある丘を登る
クモハが宿の人たちと話をしている間も黙々と朝食を食べて、焼き鮭の美味しさに感動していたチビ土偶が選択したのは2であった。
そうだよなあ。「That's 実践」のティーンエイジャー。目の前の刺激に反応するのは自然。
チェックアウトし、リュックを預けて宿を出た。昨日の教訓からMacbook Airはなし。持ち物は水筒と糧食とウィンドブレーカー、それに折り畳み傘!!! Let's go!

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目の前の丘は「鱸が池」を廻るハイキングコースらしい。ところが登り始めた途端、細かい雨が降ってきた。すかさず折畳み傘を開くクモハ。傘もささず先を歩くチビ土偶。人っ子一人いない草の生えた道を歩くのが、この二人は大好きだ。春休みに帰省すると、いつも人気のない山道を歩いている。どこかの前世で旅芸人か木地師か托鉢僧であったに違いない。
村上も三条もこの季節に咲く花は同じ。ほら、フキノトウ。

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ショウジョウバカマ(猩猩袴、ってタヌキの袴)

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その時は名前がわからなかった「ヒメカンスゲ」

雨の止む気配はなかった。さすがのチビ土偶も傘をさした。鱸が池を右手に見ながら尾根道を進む。思っていたほどの倒木はない。むしろ、池から吹き上がる風に乗って叩きつけてくる雨を防ぐために、折り返しごとに傘の方向を変えるのが手間だ。チビ土偶は時々「国土地理院地図」装備のスマホで道を確かめる。バスの時間もある。万が一にも逃さないよう余裕を持って帰り着きたい。

尾根筋からようやく湖畔に降りた。今日は池を一周はしないと、チビ土偶に約束させてある。ところが湖畔の道の方が厄介だった。時々軽く崩落している。泥土だから滑る心配もある。ま、我々は探検隊だから大丈夫だけど。

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最後は神社から戻る道を選び、ようやく温泉街に戻ってきました。

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「越後国一之宮である弥彦神社(新潟県弥彦村)の分霊が勧請された伊夜日子神社」だそうです。よく遊びに行ってる弥彦神社にご縁があったのね。

濡れねずみの身体で宿まで戻る。乗る予定の12時台のバスまで小一時間。宿のご主人はチェックアウト済みのクモハたちに、ロビーのストーブをつけて歓待してくれた。ありがたき。服が乾く間に話も弾み、なんとご主人はお知り合いにも拙著を勧めてくださるとか! メアドも交換し(スマホですすす〜とはいかないのよ)、濡れた靴だけ我慢してにこやかに手を振り、隣のバス停「瀬波温泉病院前」に。
時間は充分に取った。決して遅れてはいないはずだ。
しかし、なぜか……バスが来ない。遅れてるのかも。でも、来ない!
うろうろ歩き回って、バス停の看板を見る。
あれ!? あれ!?? クモハの見た時間より早く書いてあるんだけど。
ということは、バスは行っちゃった!!! 次は……二時間後……。😂

冷静に時刻表を見直したチビ土偶が言った。
「『〇〇病院前』と間違えたんじゃないの?」
が〜〜〜〜〜〜ん!!! そういえば来る時も間違えそうになった!
宿に戻ってタクシー呼んでもらおうか?
でも、格好良くサヨナラしたのに?
「歩くか」とチビ土偶。
「え〜何キロ?」とクモハ。
「3キロ」
ええい、歩いちまえ!
「歩くと地形がわかっていいよな」って、チビ土偶はいいなあ〜。

そしてちょうど跨線橋を渡った時、新潟行きの特急「いなほ」が駅に到着。走り去る「いなほ」をパチリ。
いなほちゃ〜ん、クモハはここだよ〜。

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どうなる土偶たち。次回が最終回です。

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