閏閏閏前日記
*第2回小鳥書房文学賞に応募したものです。求められていたのは日記ではなく、日記文学だったのではないだろうかと今さら気づく。そんなもんです。
2024年2月26日(月)
ついに奴らが来た。追いつかれちまった。今年は大丈夫と高を括っていたのに。「高を括る」ってどゆ意味? 調べてみたら、「石高」の高だってよ。「石高」って何? またググる。コトバンクによれば「その土地の農業生産力を米の量に換算して表示したもの」。なんだ、結局オレら農民思考かよ。米に縛られてんの、オレの頭の中。
ぐしゅんっ、ずるずる。ティッシュに手を伸ばす。ティッシュもオレの方に手を伸ばす。ティッシュの野郎の腰が重いな、と思ったら、最後の一枚が裾に絡まって一緒に出てきた。その下には何もない。最後の二枚だ。あっという間にしっとり濡れて、ゴミ箱行き。短い人生だ。おいおいおいおいおい、それどころじゃない。買い置きあったっけ。箱ティッシュだよ、箱…。
2024年2月27日(火)
今日は朝から不安に苛まれる。不安だよ、不安。どうしようもねえ、自分の書くものが面白くないんじゃないかと言う不安。エゴサしても、有名作家ではないから決まった文言しか出てこない。いや、ありがたいんですけど。一皿あると、もっともっとと求めるあさましさに自分ながら嫌になる。心の中では「お前なんかどうせだめだぁ〜」と言うハルピュイアの大合唱。ハルピュイアこと、ハーピーが自尊心をつつき、クソを撒き散らす。
何を恐れているんだね、と自分自身に問う。根底には恐怖がある。作品を無視され、否定され、読んでもらえない恐怖だ。読んでもらえない恐怖が一番強いかもしれない。虚空に向かって球を打つような。いやなにね、書かなきゃ、でしょ。恐怖に震えている間に、まず書かなきゃ、だよね。書かなければ、無視もされない、酷評もされない、がもちろん読んではもらえない。
書いてみなよって、下手くそでも失敗作でも、書かないより書いた方が数千倍えらい。これはほんとだよ、数万倍えらい。
はいはい、それでは書きましょうか、失敗作を。失敗? いやいやそれは挑戦の証だよ、と自分を慰めて執筆に戻ります。
2024年2月28日(水)
小説書きたい。小説。
小説書きたい。小説。
でもさ(あ〜使っちゃいけない接続詞)仕事の準備しなきゃ。
三月上旬に大きな仕事がある。十二月から準備してきた大切な仕事だ。マジで。個人事業主さんだよ。動かなきゃまるでゼロなんだよ。一人で仕上げたわけじゃない。たくさんの人に助けてもらっている。それは事実。でも(あ〜また使った)、最初のパッションは自分だ。今そうですねえ、どの辺かといいますとですねえ。プリンは仕上がったので、あとはカラメルかけるだけ、の状態。いや変だよそれ、カラメルまず流し込んでそれからプリンじゃなかったっけ?
7日前にやることのリスト一覧。
AmazonPrimeで先方に荷物を送る。配送料なし。えらいね、オレ。
損害賠償保険をチェックする。あ、二年前の書類残ってた。この時まで、きちんと書類整理しているじゃないか、えらいぞ。
自分はまめに褒める。上司がいるわけじゃなし、同僚がいるわけじゃなし、相方はいるけど逐一相談するわけじゃない。困った時はするよ。
結局配送はまだ早すぎるので取りやめ、見積もりの依頼書を保険会社に送る。朝一番にやらなければならないことをやって、執筆時間を作る。そういえば、午後に一件資料を届けなきゃいけないんだった。やらなきゃいけないことはある。それを着々とは言わないが、訥々と。
小説、とにかく形だけでも最後まで作っておかないと。明日は午前の仕事でそのままランチだから、きっと夕方まで使い物にならないな。
できたん。ん〜ん、できない。ん〜でも、昨日外食権発動しちゃったし、昼飯はほうとうと約束したし、作る。かぼちゃの入ったほうとうは、旅行に行った時のお楽しみだったが、スーパーで売っているもので十分美味いことがわかってからハマっている。必ずカボチャを入れる。根菜の補給にもなる。根菜がさ、好きなんですよ天才だから。はっ、言ってみただけ。だって誰も言ってくれないでしょ、天才だなんて。ある意味、皆授かってるんだから、その才を精一杯発動したら天才ってことにならない? なるなる。
自褒めは大切。
ほうとうは少し煮込み不足だった。ほんの少し。仕事に打ち込むと、やはりどこかで手を抜くことになる。本当はほうとうづくりも全力でやりたい。そのためには朝ごはん終わった時に根菜を仕込んでコトコト煮る必要がある。余熱で奴らはすっかり柔らかくなる。カボチャはいい具合に煮えたところで取り出しておく。あとは麺を二つに切ってパラパラと入れる。が、朝の時間もったいなくてさ、切るところまでしかしなかった。
昼飯後は少し眠い。その時間を資料の配達に使う。これには二つの仕事が含まれる。
一、イオンに行ってコピー用紙を買う
二、サポートセンターに行って、印刷し資料を渡す
実はイオンで溺れた。これウソじゃないから。駐輪場が思うように空いていなかった。それも少しずつ詰めればなんとかなるタイプ。詰めましたよ。〇〇高校のシールが貼ってある自転車を最低限動かして、愛車を停める。久しぶりに鍵をかけないきゃいけないのが面倒臭い。最近知り合いの店しか行ってないし、鍵なんてかけたことないし、少なくともこんな混んだ駐輪場に止めたことは半年以上ないかな。次、三階まで登るのが面倒くさい。売り場に並んでいる商品にまったく興味持てない。文具売り場だったはずのところが子どもの服で埋まっている。行けども行けども、目指す文具売り場はない。文具売り場があってもコピー用紙が見つからない。しかたない。聞きましたよ店員さんに。ようやく辿り着いたここは最果てコピー用紙売り場。
よかったのはWAONカードにポイントが貯まっているのを思い出せたから。でも、あれ絶対ワォンじゃないから。キャインだから。神かけて誓うよ。
帰りに刺身を買う。切ってあるやつ。これを執筆への誓いとなむいいける。いとおかし。
小説? 小説どうだったんだっけ。まあいい線まで書けたと思う。でもラストは明日のオレに任せる。頑張れ、明日のオレ。そして閏日。
本当は日記としてはここで終わるはずだ。しかし、明け方に見た夢があまりに面白く、特別にこれを28日の範疇に収めることにする。するったら。
夢メモ
クロヒョウをのぞいている。地下に大きな場所があって、そこに何頭ものクロヒョウがいる。息子がクロヒョウの檻に物を落とす。ホチキスの針だという。 ばか。クロヒョウが踏んだらどうするんだよお。クロヒョウが凶暴になることを恐れる。息子は檻の中に降りていく。いつしかそこは水槽になっていて、息子の落としたものは箱ティッシュに変わっている。その上に背泳ぎで乗っかって、スーイスーいと泳いで淵まで辿り着く。クロヒョウたちは大人しく見守っている。 黒犬がプールの淵に寝ている。
大きな、栗くらい胴体のあるスズメバチが窓から出ていく。慌てて窓を閉める。大きなスズメバチはいつの間にか繁殖していて、窓にぶつかってくる。窓の外は凶暴なスズメバチが飛び交っている。窓ガラスにも当たる。私たちは室内にいるから安全。 という夢。
箱ティッシュ…。