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まるぞうくんのこと

2021年は恐ろしく劇的な始まり方をした。
帰省している娘の解説で見る紅白。終わってからのジャニーズ番組。
相方は寝てしまい、子どもたちとの時間。
その時、それは起きた。
2021年が始まって数分のことだったと思う。
醤油差しをしまおうとしたクモハは、食器棚の扉に誤ってそれをぶつけた。
転がる醤油差し、辺りにまき散らされる醤油。
あ〜あ、またやった! という娘の声。
新年早々なんてこった!
かなり大量の醤油を皆でぬぐい、部屋はきれいになったのだが
醤油差しも無傷では済まなかった。
差し口が大きくかけ、醤油差しとしては使い物にならなくなった。
家族一同気に入っていた醤油差しだった。
クモハもガックリしたが、別な思いもあった。
ようやく、「あれ」の出番だ。

それは、バブル期の終わりにどこかの陶器屋で購入した醤油差し。
それなりに高価なはずだったが、長い長い年月、箱の中で眠っていた。
使おうかと思ったこともあるが、なにしろ先代がキュートで
なかなか交代の時が来なかった。
今しかない!
クモハは箱から醤油差しを取り出した。
待っていたのさ、と醤油差しは言った。
名前をつけなきゃね、とクモハは言った。
我が家ではお気に入りのものには、大抵名前がついている。
例えば、庭の木になっている柚子はすべて「ゆずる」と呼ばれる。
果たして、数日後名前がついた。
「まるぞうくん」だ。

続いて三ヶ日のある日、時計が遅れだした。
これもざっと20年使っているお気に入りの目覚まし時計だ。
りんりん鳴る古いタイプの目覚まし。
止めようとしたクモハに、何度ベッドから叩き落とされたろう。
電池を入れ替えてみた。揺すってみた。
けれども遅れは止まらず、ついに時差は2時間を超えた。
ありがとう! そしてさよなら、とクモハは言った。
何かが大きく変わるんだ!

思えば、ここ数年おみくじで「大吉」を引いていない。
ある時期「大吉」しか引かないことがあった。
おみくじ箱に手を入れ、かき混ぜれば「大吉」が吸い付いてくる魔法の手。
その時の高揚感をよく覚えている。

今年は「末吉」だったが、特にガッカリ感はない。
「大吉」は就職して頑張っている娘や
来年受験の息子や
新規就農している娘のBFや
その他、必要な人のところに行けばいい。

「末吉」のみくじには、およそこう書いてあった。
「袋の大きさに見合ったものがやってきます」
さあ、楽しみじゃないか。
クモハの袋の大きさはどのくらいなんだ?

おそらく今年変わるのは、クモハではない。
クモハを含む大きな輪、家族・親戚、冒険遊び場グループ、アーティスト仲間、他には?

新しい時代。
お前の役目は「大吉遺産」を周りに循環させること、と
砕けた醤油差しと、歩みを止めていく時計が
今年の初めに語ってくれた。


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