
ホームの向こう
遮断機が降りる直前に
君に手を振る
小さな手のひらだけひらっと翻し
こちらに顔も向けずに
「いってきます」と呟く
足早で渡る学生とサラリーマンの間で
なんで君だけ
浮かび上がるように
見つけられるんだろう
選挙の街頭演説の人は
立ち尽くす僕にも「おはようございます」
、と声をかける
変わらずに
上がったり下がったり
変わってく
君は
僕を当たり前のように「ママ」と呼び
名付け親の僕はそうなんだと
じぶんを納得させたり
ときに躊躇したり
睡蓮の船着場みたいに
まだ大人になりきれていない部分がふよふよ空に浮かんだ
どこから切っても同じなのに
ただ呼び方ひとつで
女優のように
それなりの振る舞いができてしまう
自分の「不思議」を受け入れながら
いつまで
この後ろ姿を眺めて
君のことを見送れるんだろう、と
締め付けられる胸を抑えた
もう冬に手が届きそうな朝
鰯雲眺めて
今日の晩御飯は君の好物の魚を焼こう!と決めた。
たぶん
「しあわせ」って
この冷たい空気の中
むきゅっと締め付けられる痛みを指してるんだな