スタディツアー後夜 「誇りを持ってこころを満たし合う」
岡山のデニム工場をめぐるスタディツアーが終了しました。
工場の方々のツアーに対する姿勢、参加者の方々のツアーへの意識、そして、その両者とぼくたち企画側との交流。全てが刺激に溢れ、ぼくにとっては夢のような日々でした。
まず驚いたのは、工場側が、このツアーのために中を改装したり、動画を制作したり、若い職人さんと話す機会を設けてくださったこと。
事前に弟から話は聞いていたものの、社員総出でぼくたちを迎えてくださった工場のみなさんの真心に、改めて熱い思いがこみ上げました。
構造として一般の方を受け入れる体制にない産地の各工場において、大勢の人を迎えるためは、さまざまな調整が必要だったり、会社が一丸となる必要があったり、大変だったことは想像に難くありません。
だからこそ、ぼくたちの役割は、まずその大変さをしっかりと認識すること。そしてそれでも、大変さを上回る喜びを工場の方に感じていただくことだと考えています。
「作る人と使う人の距離が縮め、顔の見える関係性を作っていきたい。」ツアー前日にそう書きました。この言葉には、互いが互いの関係によって、心を満たすことができたらという願いが込められていました。
いざ終えてみて、この言葉の意味するところを、より一層、真剣に考えさせられたのです。
簡単にいえば、ものの使い手視点において、「生産者を知っていること」と「生産者とつながっていること」は全然違うと、そう感じました。
極端な話かもしれませんが、生産者(作り手)のことを「知る」だけなら、ぼくたち製造や売り手側に立つ人間が、生産のプロセスを明らかにするだけでいいでしょう。
webサイトに記載したり、販売の際に説明できれば、少なくとも、お客さん(使い手)の方は「知る」ことはできます。
ただ、「つながっている」となると話は違う。やはりそこには「知る」ことから1歩踏み込んだ価値があると。
「作ってくれてありがとう」と言える、顔の見える存在として作り手とつながることは、使い手にとって、こころを満たすための大きな要素を占めると。
そして、作り手と使い手が互いにこころを満たし合う時、そこで果たす役割は本質的には同じなんじゃないかと考えました。
使い手が作り手に感謝の気持ちを述べることは、作り手にとって仕事に対する誇りつながると思っています。「自分の仕事が誰かを喜ばせている」ことに対する感動を、ぼくは職人さんから何度も聞いてきました。
では、作り手が使い手に感謝の気持ちを述べることも、同様に、使い手の誇りにつながるとは考えられないでしょうか。「大事に使ってくれてありがとう」と言われることで、使うモノに対する誇りが持てる。
消費に対するいろんな後ろめたさがつきまとう今の世の中で、自分が誇りを持って使えるモノを持つことは、めちゃくちゃ素敵なことなんじゃないかと。使うことが誇らしくなるようなモノは、こころを満たしてくれるんじゃないかと。
ステイタスの象徴でもない、うんちくのためのツールでもない、極めて個人的な、自分とモノの関係性。心を満たしてくれるモノとそれを届けてくれた人たちとの誇らしい関係性。
そんな関係性を築くことができれば、洋服にも新しい命を宿せるんじゃないかと考えました。
高度に複雑な現代のサプライチェーンは、見えづらすぎて、それゆえ、想像で補うしか仕方ないところがあります。そして、想像すればするほど、自分の消費行為に対して、どこか後ろめたさを感じてしまう。
理屈を究極に突き詰めれば、「自分の存在が誰かを傷つけている」「自分なんていなくなった方がいいんじゃないか」という結論に至ってしまいます。でも、本当は、自分1人がいなくなったって、なにも、変わらない。
だったら、まずは消費という行為を通じて、自分のこころを満たし、それを近くの人に伝え、共感してもらうこと。自分なりの基準を、大切にすること。
昨年夏、EVERY DENIMとの対談で、鎌田安里紗さんはエシカルの暫定の定義は「生産プロセスを、誇りを持って語れるかどうか」だと言いました。
この言葉が、ツアーを終えて、改めて腑に落ちています。
作る人が、「どうやって作っているか、誇りを持って語ってくれる」ことで、使う人が、誇りを持って使える。
使う人が、「どうやって使っているか、誇りを持って語ってくれる」ことで、作る人が、誇りを持って作れる。
エシカルというのは、どちらか一方の意識で成り立つんじゃなくて、互いがこころを満たし合う、共同作業の上に成り立つんだと。
それに気づいたとき、やっぱり自分は「作る人と使う人の距離を縮めたい」と素直に思えました。
距離が縮まった結果、垣根がなくなったり、一体化するんじゃなくて、1番お互いの、こころを満たし合う距離を探っていく。そんなところにぼくたちEVERY DENIMの価値もあるんじゃないかと。
今回のツアーは多くの方の尽力によって成り立っています。受け入れ側、参加側、企画側はもちろんのころ、サポートしてくれたスタッフの活躍も欠かせませんでした。
これからも、ツアーは続いていくと思います。ぼくたちの提案するツアーが、関わる全ての人のこころを満たすのを目的に、これからも、誇りを持って生きていきたいです。
山脇、毎日。