気候変動を知る:地球温暖化、気候変動、気候危機のつながり。カーボンバジェットという砂時計的考え方。
若き気候活動家、グレタさんの映画を観ました。気候の問題をひとりで背負うのは大変なこと。自分もできることをしたいと思いました。
その一歩として、まちのカフェギャラリーで勉強会をさせていただけることになりました。その準備のために整理したことをまとめます。
今回のテーマは①地球温暖化、気候変動、気候危機のつながり、②カーボンバジェットです。
「カーボンバジェット」は、英語でCarbon budget、日本語では炭素予算といいます。気候の問題を知るうえで、とても重要な考え方で、グレタさんもたびたび引用しています。カーボンバジェットとは、大気の温度上昇をある水準に抑えるために、全世界・全世代で分け合うことになる「残された排出量」のことです。
気候変動はどうやって起こる?何が起こる?
カーボンバジェットの前に、気候変動について。
気候変動は次のように起こります。
人類の活動に伴い温室効果ガス(二酸化炭素など)が排出される
大気中の温室効果ガスが増加
地球から宇宙へ逃げていく熱を温室効果ガスがキャッチして、大気があったまる。大気・海などを介して地球上のあらゆるところに熱が配られる。これが地球温暖化です。
温暖化により気候が変化。これが気候変動です。
最近は、「気候危機」という言葉も聞くようになりました。気候危機とは気候変動に伴って「危機的なことが起こる」ことを言います。「コロナ危機」と同じように人の命が失われたり、生活を営む上で大事なものが失われたりします。
この関係を簡単に書くと、「人間活動 → 地球温暖化 → 気候変動 → 気候危機」です。この関係を、2021年10月に発表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書から詳しく見ていきます。
地球温暖化:人間によって引き起こされる大気の温度上昇
下の図は、過去の世界の気温の変化を表したものです。どちらの図も横軸に時間の経過を表しています。左の図は過去2000年間、右の図は1850年から2020年までを表しています。「縦軸が1.0」ということは「1.0℃気温が上昇した」ことを意味します。
右の図をみましょう。黒線は観測値です。1850年ごろと比較すると、2020年では1.1℃くらい温度が上がっています。緑色の線は「人間による温室効果ガスの排出がなかった場合の温度変化」の予測値を表しています。ほとんど変化していません。
このことから報告書では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。」と結論付けています(気候変動 2021:自然科学的根拠 ヘッドライン・ステートメント A.1)。
報告書には次のことも書かれています。
気候変動:地球温暖化によっておこる気候の変化
地球温暖化が進むと「気候」が変わります。具体的には、次のことが起こるとされています。
極端な高温(熱波を含む)や大雨が起こりやすくなり、その程度も強くなる
強い熱帯低気圧の発生が増加する
干ばつ・火災が発生しやすくなる
海面水位が上昇する(海の水が膨張すること+大陸の上の雪や氷が溶けて)
北極域の海氷、積雪及び永久凍土の縮小
このような気候変動について、次のように記述されています。つまり、気候変動として起こることの変化の多くは、元には戻せない(←不可逆的)ということです。
気候危機:気候変動がもたらす危機
気候変動の影響を理解するうえで重要なポイントは、「気候変動の影響は、地球上の各地で異なる」ということです。例えば、海抜が低い国は、少しの海面上昇で沈む危険があります。
もう一つのポイントは、「平均1℃の温度上昇のように、平均値で考えてはいけない」ということです。どうすればよいか?それは「悪条件が重なったとき」を考えることです。
起こる確率は低くても、危機的な状況は「悪条件が重なったとき」に起こります。大きな事故が起こったときに聞く「こんなはずじゃなかった」というやつです。
悪条件が重なった時、命を奪われる危険にさらされる人がいます。例えば、夏に起こる「熱波」で亡くなる方は年々増加しています。命の危険はなくても、生活の礎になっていた土地や住まい、水や食料、生計や収入を失う危険にさらされる人がいます。
生き物も長い年月をかけて環境の変化から守るすべを身に着けてきましたが、それを超えて環境が変化すると、絶滅という危険にさらされます。
二つ、ビデオを紹介します。
このように、少しの温度上昇・気候変動でも危機的な状況に陥る危険性を持つ人や地域のことを「脆弱」といいます。脆弱な人は、死や生まれ育ってきたところの喪失と隣り合わせです。少しの温暖化が、危機につながります。そのこと想像する力が大事だと思います。
目標として定められた「1.5℃の地球温暖化」
このような状況に対して、さまざまな取り組みが行われています。その中でも大きな役割を果たしたのが、世界のリーダーが集まって締結した「パリ協定」です。詳しくは資源エネルギー庁のページに説明されています。パリ協定は次のことを定めました。
このように2℃、1.5℃という地球温暖化について具体的な目標が定められるようになりました。そして、2021年に行われた会議、COP26では、「地球温暖化を1.5℃までに抑えるように努力すること」が決まりました。その根拠は、2℃と比較して、1.5℃の方が気候変動の影響が小さいことです。
1.5℃と2℃での気候変動影響の違いはIPCCによる「1.5℃特別報告書」にまとめられています。国連のプレスリリースでは次のように書かれています。
カーボンバジェット:1.5℃目標までに排出できるCO2を表す数字
いよいよカーボンバジェットです。下の図は人類が産業革命以降排出してきたCO2の排出量と気温の上昇の関係を表しています。横軸が排出量、縦軸が温度上昇です。
まず、左下から始まっている黒線をみましょう。黒線は1850年から2019年までの「過去」を表しています。黄色の〇印を付けたところが2019年です。人間はこれまでに、約2400Gt(ギガトンと読みます)のCO2を排出し、その結果、1.1℃くらいまで温度が上昇したことを表しています。その先のカラフルな線は予測値です。
この関係を見ると、排出量が増えると温度が上昇する関係があることがわかります。比例、というやつです。この関係を前提にすると、地球温暖化を1.5℃までに抑えるために、人間が排出できるCO2排出量を知ることができます。やってみましょう。
① まず、縦軸上で1.5℃の点(温度上昇の目標値)に線を引きます。緑色です。
② 次に、温度上昇と交わるところを探します。
③ 横軸の数字を読み取ります(ピンク色)。だいたい2900くらいですね。これが、1.5℃の温度上昇まで出してもOKな排出量です。
④ これまで人間が出してきた排出量(黄色の〇の位置の横軸の数字)を引き算します。
そうすると、これから人間が排出することができるCO2を求めることができます。だいたい500Gtくらいですね。これが、カーボンバジェットです。正確には「残余カーボンバジェット」といいます。
IPCCの第6次報告書では次のようにまとめられています。要約は次の通りです。
過去に人間が排出してきたCO2は2390 Gtを中心に±240 GtCO2(正確にカウントできないものを範囲で表しています)
これから先に500 Gt排出すると、50%の確率で1.5℃温度上昇する
これから先に1350 Gt排出すると、50%の確率で2.0℃温度上昇する
1年間に世界で排出されるCO2はどれくらいかご存じですか?
約40 Gtです。予算500に対して、毎年40使い続けるとどうなるか?
10年もたてば予算はなくなってしまいます。その意味で、これからの10年はとても大事な10年なのです。
カーボンバジェットは、全地域・全世代で配分するもの
カーボンバジェットは、排出してよいCO2の上限を定めるものです。つまり、あとは、これをどう配分するか?を考えればよいということになります。「上限を決めて配分を考える」、お金の話に似てますね。そういう意味で、予算(Budget)という言葉が使われています。
配分のポイントは二つです。
CO2はだれが排出しても等しく温室効果をもたらします。カーボンバジェットは、全世界の全員で配分する数字です。独り占めは×。
排出量は「累積量」で考えます。今の世代が排出できるCO2を表すものではありません。将来世代、つまり、私たちの子供、孫の世代も含めて考えるべき数字です。
図にしてみましょう。色分けしたのは国・地域のイメージ。全世界で配分します。今の世代がたくさん出したら、後の世代が出せる量が減ってしまいます。
2021年に行われたCOP26という会議では、国のリーダーが集まり、次のことを決めました。ここに書かれている排出量の削減を、どのように実現するか?興味を持つだけではなく、具体的な行動が求められています。