気管挿管の体位、Ramp vs Sniffing
はじめに
このページでは以下の気管挿管の姿勢についてのシステマティックレビューとメタ解析の論文を紹介します。
Ramped versus sniffing position for tracheal intubation: A systematic review and meta-analysis.
Okada Y, Nakayama Y, Hashimoto K, Koike K, Watanabe N. Am J Emerg Med. 2020 (論文リンク)
この論文では、気管挿管の姿勢としてRamp positionとSniffing positionを比較したランダム化比較試験のシステマティックレビューとメタ解析を行っています。
余談ですが、この研究は「泣くな研修医」などベストセラーで有名な小説家の中山裕次郎先生との共同研究です。
気管挿管とは
気管挿管は、気道確保の手技で全身麻酔、人工呼吸器管理のために行われます。麻酔や救急では必須の手技です。気管挿管を失敗すると重大な合併症を招くために、できるだけ初回で成功する確率をできるだけ高くすることが必要です。
気管挿管の成功のためには、もちろん術者の技術や経験のほか、機材や薬剤の準備などが重要ですが、「患者の体位」というのも気管挿管成功のための重要な要素といわれます。
Sniffing position とRamp position
気管挿管のための患者の体位で最も一般的なのがSniffing positionです。下位の頸椎を屈曲、上位頸椎を伸展させ喉頭展開を行います。
一方、 Ramp position (Ramped position, Head elevated Laryngoscopic position, HELP position)としても知られていますが、頭位を25度程度挙上し外耳孔を胸骨の高さに一致させ、頭部を後屈するという体位です。
Ramp positionは声帯の視野がよくなるとか、前酸素化がよくなるなどのメリットがあるようにいわれていますが、一方、個人的な臨床の感覚では少々やりにくいなと感じていました。過去の研究ではいくつかランダム化比較試験があるものの、その評価は定まっていないように感じていました。
そこで、Sniffing positionとRamp positionのランダム化比較試験のシステマティックレビューとメタ解析を行いました。
結果
最終的に3文献 (513人)が対象となりました。これらの研究のデータをメタ解析で統合したところ、初回の気管挿管成功率、成功までの試行回数2回以上、声帯の視野良好(Cormack Grade1 or2)では差がありませんでした。
初回気管挿管成功
統合リスク比 0.96 [95%CI: 0.86-1.07]
試行回数2回以上
統合リスク比 1.08 [95%CI: 0.88-1.31]
声帯の視野良好
統合リスク比 0.86 [95%CI: 0.69-1.07]
まとめ
該当した文献が少なく、検出力不足の可能性、セッティングの異質性などの限界はあるかもしれませんが、少なくともRamp体位を推奨する確実性の高いエビデンスは不足しているようです。
現状は個々の術者の好み、経験、患者の状態に合わせて体位を選択するのが良いように思います。
また肥満患者や呼吸不全の患者のみに対象を当てると結果が変わってくるかもしれません。この辺りも今後検討が必要そうです。
論文内容スライド
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