大学院に入ったらやるべき10のこと
もうすぐ大学院も卒業です。この4年間の大学院生活を振り返って、臨床医が大学院に入って臨床研究を実施するのにあたって、研究のこと以外でやるべきことについて書いてみます。
1. いいパソコンを買う
臨床医の生活だとあまりパソコンを使うことはないかと思います。少なくとも一日中パソコンに向かうのは、学会前に慌ててスライドを作るとか、抄録作成の時くらいではないでしょうか。
しかし大学院生の生活のほとんどはパソコンと向き合うことです。授業の課題もパソコンでの作業必須、Google docで共同編集作業して課題を完成させるなんてことが毎日あります。パソコンが生活の基盤です。ぜひお金をかけて良いスペックのパソコンを買いましょう。
同様に、パソコン周りのものにもお金をかけてもいいと思います。Dual screenの方が作業効率は上がりますし、いい椅子を買ってもいいかもしれません。長時間机に向かうことのできるベストな環境を整えたいものです。
2. 統計ソフトを扱えるように勉強する。
大学院に入ったら、RかStataといった統計ソフトを扱えるように勉強しましょう。機械学習に特化して研究したい人はPythonを勉強するのがよさそうです。JMPやSPSSといった初心者にとって勉強しやすい統計ソフトも便利ではありますが、この先ずっと研究していくつもりなら、RやStataを回避することはできないと思います。
僕は大学院入学して最初の一年までは主にJMPという統計ソフトを使っていました。JMPもいろいろな解析ができるのですが、解析手法は日進月歩、どんどんいろいろな手法がでてきて、JMPではできない手法もあります。一方でRは常に新しいパッケージが更新され、簡単に新しい手法を実施することもできます。また、グラフの作成なども自由自在にできるのがRのメリットです。僕は大学院2年目の頃から本格的にRを勉強し始めました。今思えば、もっと早くからRについて集中的に勉強して習熟しておくべきでした。
Rの勉強の仕方としては大学院の授業などがあれば、それをベースに勉強するのもいいと思いますが、Udemyなどのオンラインコースや解説本を写経するのもいいかと思います。大事なことは、模擬データでもいいので実際に手を動かすことが大事です。
参考までに僕がやってみたオンラインコース)
3. Academic writing/presentationを勉強する
研究をすると研究結果を広く世の中に発表する必要があります。結果を公表することで、多くの人に研究を興味をもってもらえますし、論文や国際学会での発表は学術的な業績になります。なので英語論文作成も国際学会発表も重要です。
当たり前ですが、英語論文を書くための基本的な英文作成能力が必要です。また国際学会で研究について学会発表するためにも、英語でのプレゼンテーション能力が必要です。これらのために基礎的なAcademic Writing能力、Presentation能力もどこかで修練しておくと良いと思います。
大学院に入ると、こうしたAcademic writingやEnglish presentationの夏季集中講習などショートコースがあることがあります。(京都大学にはありました。)こうした授業でまとまって勉強するのが良いと思います。Academic writingについては参考書もたくさんあるので、それらを読むのも一案です。もしお金に余裕があれば英会話に通ったりするのもいいと思います。
4. 診療ガイドライン作成に参加する
最近は学会が診療ガイドライン作成を行う時にシステマティックレビューを手伝ってくれるメンバーを公募することがあります。もし機会があれば是非応募しましょう。診療ガイドライン作成の過程やシステマチックレビューについて勉強することができます。コクランハンドブックを読んだり、GRADEについて勉強することは診療ガイドラインについて理解するのは非常に重要です。また論文作成のチャンスになることもあります。
それ以外にも他の施設の経験豊富な先生方とコラボレーションの機会や研究のネットワークが増えます。募集があれば経験がなくてもぜひ応募すると良いでしょう。
5. 普段と違うセッティングで診療してみる
大学院生の間は非常勤の仕事で生計をたてることが多いと思います。非常勤の仕事は今までの経験を活かした効率の良い仕事を選ぶのも一つですが、あえて普段と違うセッティングで診療をしてみるのも一つです。
僕は研修医の時から比較的大きい地域の中核病院で働いていました。しかし医療はこうした「大きい病院」だけで完結するものではなく小さい病院、田舎の病院もあります。同じような病院ばかり働いていると、その病院ならではの視点や思考に凝り固ってしまうこともあります。
大学院生は比較的自由に仕事を選ぶことができると思いますので、普段と違う環境やセッティングでの非常勤の仕事に挑戦し、どのような医療が行われているのかを体感するのも勉強になるかもしれません。それがまた研究のアイデアにつながることもあると思います。
6. 講義やカンファレンスでは必ず質問する
大学院の授業、実習、研究室でのカンファレンスでも必ず質問するといいです。質問をするためには相手の内容をきちんと理解して批判的に検討する必要があります。これが思考のトレーニングとして非常に有用だと思います。授業を真面目に聞くと言うモチベーションを作るためにも、自分は必ず質問をするんだと言う縛りをつけてみてはいかがでしょうか。
質問をすることで授業やカンファレンスでの議論も盛り上がりますし、質問される方も準備しなければいけなくなります。結果として議論全体の質が向上します。
つまらない質問かなと思っても「勉強不足で恐縮ですが」と最初につければOKです。
7. 異なる診療科/領域の研究者と交流する
僕が所属していた臨床研究者養成コースでは各診療科(内科、外科、麻酔科、眼科、小児科、産婦人科、泌尿器科、救急などなど)など様々な診療科の出身の大学院生と研究のディスカッションを重ねてきました。また、他の研究室や他の学年の大学院生とも(コロナ前は)積極的に交流の機会をもつようにしていました。
異なる領域の視点からの批判はとても勉強になります。また、異なる診療科の研究者に研究の重要性や必要性を理解してもらうためには、過度に専門的にならずに研究の背景を上手に説明する必要があります。
また同じ研究室のメンバーはどうしても研究手法なども同じような方法をとることが多くなってしまうのですが、違う研究室の文化や研究手法を学ぶ機会にもなって非常にいい経験になると思います。
8. 家事、育児の中心的役割を担う
臨床中心の生活では、緊急の呼び出しや主治医として残業で家事や育児に貢献できないことがあると思います。その結果、「できない→やらない→できない」の悪い習慣になることもあるかと思います。
しかし大学院生は非常勤の生活と研究がメインなのである程度自分で時間をマネジメントすることができます。積極的に時間をマネジメントして家事や育児で中心的な役割を発揮し、育児家事の習慣を身につけるのはどうでしょうか。
僕は次男が生まれたあと保育園に入るまで、育休のような状態で家で在宅ワークをしながら子供のケアをしていました。赤ん坊を抱いていることの不自由さ、常に泣かれたりケアをしないといけない束縛と責任、日中に意思疎通もできない赤子と2人で過ごし社会から隔絶したように感じる孤独感も学びました。
当直明けに3ヶ月検診に連れて行き、保健師さんに何か困っていることはないですか?と聞かれた時に、寝不足の顔で「夜泣きと夜中のミルクの対応がとても辛いです・・。」と白状すると、とても心配されて、色んな対策を提案されたこともありました。ワンオペ育児の困難さも学びました。学年があがり、管理職になるようなことがあれば、こうした辛い経験を職場としてできるだけサポートできるようにしてあげたいと思うようになりました。
9. 運動習慣をつける
大学院生はデスクワークとストレスの毎日です。あっという間に太ります。ストレスが溜まるとデスクワークや勉強も辛くなり効率も悪くなります。
定期的に運動習慣をつけるといいと思います。コロナ前は自転車で大学に通い、大学のプールで水泳したり、大学周辺の鴨川を散歩したりしていました。コロナ後は在宅ワークが主体になったので、家の周りや保育園の送り迎え前後にウォーキングなどの運動を取り入れるようにしました。当直の疲れでついついカップラーメンを食べたり研究のストレスで不摂生をしてしまうところをなんとか運動で解消したいところです。
10. 研究助成金獲得に向けて自己PRや研究提案の練習をする
研究をするのにお金が必要です。そのために研究の助成金にもっと応募しておけばよかったと今さらながら後悔しています。チャンスがあれば是非応募すると良いでしょう。
もちろん落選ばかりでなかなか採択される事は少ないのですが、応募にあたって自分の推薦文、自己PR文を書いたり、自分の履歴書を書いたりcareer statement(キャリアにおける目標)などを書く練習になります。またResearch proposal (研究の提案書)を書く過程で、自分の研究計画をを見直すいい機会にもなります。
京大では科研費の書き方のレクチャーや実際の科研費の申請書のフィードバックなどがあって、とても勉強になりました。大学生同士でもお互いに助成金の申請書を書く練習をしてみたりしました。もっとこれも時間のある時にじっくり取り組めばよかったです。
まとめ
研究に関連する事から私生活まで、まとまりなく10項目あげてみました。大学院生活は良くも悪くも自分次第なので、大学院生活を考えるきっかけになれば幸いです。