偶発性低体温症の予後予測モデル
この記事では偶発性低体温症に対する予後予測モデルの研究を紹介したいと思います。
偶発性低体温症とは
偶発性低体温症は意図せずして深部体温が35度以下となった状態です。
以下のような臨床のパターンがあります。
雪山で遭難して発見された。(若年、アウトドア関連)
公園で深酒してそのまま野外に倒れたまま朝を迎えた。(都市部、屋外)
独居の高齢者が家で骨折して動けず3日間経過した。(高齢、屋内)
この偶発性低体温症で特に怖いのは、深部体温が32度以下になった状態で、血圧低下、徐脈、致死的な不整脈の発生を伴い、心停止することもあります。
また敗血症や多臓器障害を併発していることも多く、集中治療室で高度な治療を必要とすることも多いです。
海外の偶発性低体温症の研究は多くがアウトドアに関連した若年者を対象としたものである一方、日本の都市部の偶発性低体温症の患者は高齢者に多いです。
高齢者の場合、侵襲的な治療や集中治療を行うかどうかは慎重に考える必要があり、本人、家族とよく話し合う必要があります。この高度な治療の適応を考える上で予後予測は重要です。
多くの家族は「助かる確率が高いなら治療して欲しいが、助からないならしんどい治療は回避したい」と考えているように思います。
偶発性低体温症に対しては体温で重症度が分類されているものの、体温と生命予後には関連がないという報告もあり、救急外来で予後を簡易的に推定する方法が必要だと感じていました。
そこで5A予測モデルを紹介します。
The development and validation of a “5A” severity scale for predicting in-hospital mortality after accidental hypothermia from J-point registry data. j intensive care 7, 27 (2019).
研究の要約
背景
偶発性低体温症は重篤な状態であり治療方針を決定するために直ちに正確な予後予測、重症度評価を行う必要があります。偶発性低体温症は深部体温と臨床所見を用いたスイスの重症度分類で評価されていますが、都市部では深部体温が生命予後と関連しないという報告もある。そこで我々は,日本における都市部の偶発性低体温症患者の院内死亡率を予測するための予測モデルの開発、検証を行った。
方法
本研究は多施設共同レトロスペクティブコホート研究である。対象は,救急部門に搬送された偶発的低体温症患者とした。各施設の所在地に基づいて、開発コホートと検証コホートに分け、開発コホートを用いて院内死亡率を予測するロジスティック回帰モデルを作成し,ブートストラップ法を用いてその内部妥当性を評価した。その後、検証コホートを用いて、モデルの外部検証を行った。
結果
最終的に532名が対象となり、開発コホート(N=288,6病院,院内死亡率22.0%)と検証コホート(N=244,6病院,院内死亡率27.0%)に分けられた。開発コホートでのロジスティックモデルの変数のβ係数に基づいて、年齢(Age)、日常生活動作(ADL)、切迫心停止(near Arrest)、アシデミア(Acidemia)、血清アルブミン値(Alb)に基づく5つの「A」スコアリングシステムを開発した。
年齢(Age)
60-69歳:1点、70-79歳: 2点、80歳以上: 3点
ADL
自立生活困難: 1点
切迫心停止(Arrest)
血圧測定不可or心停止: 2点
アシデミア(Acidemia)
pH:7.2-7.35: 1点、<7.2: 2点
アルブミン(Albmin)
<3mg/d: 1点
検証コホートで識別性能、較正能が維持されていることを確認した。
検証コホート院内死亡予測
3点以下: 7%程度
4-5点: 20-35%
6点以上: 67%程度
結論
偶発性低体温症患者の院内死亡リスクを予測できる5Aスコアを開発、検証した。
まとめ
今後、このスコアが他の地域でも使えるのかさらなる外的妥当性の検証が必要ですが、このスコアが治療の意思決定の参考になれば幸いです。
参考文献
The development and validation of a “5A” severity scale for predicting in-hospital mortality after accidental hypothermia from J-point registry data. j intensive care 7, 27 (2019).