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ヘルスケアとAIについて考えてみる(全体版)


はじめに

最近、AI(人工知能)の急速な発展は、毎日のようにニュースに溢れ様々なことに応用されつつあるかと思います。ただ、巷ではAI、AIと言われていても僕もあまりよくわからずに使っている部分も多いため、頭の整理のため今更ではありますが、少し自分なりに整理してみようかと思いました。今更な部分や荒削りな部分は多々あると思いますが、まずは自分の現在地を知るためにも少しトライしてみようと思います。

AI進展の経緯

まずは、AIについて、これまでの流れなど、総務省の令和6年版情報通信白書をベースにChatGPTと対話しながら教えてもらいました。*1

総務省.令和6年版情報通信白書

AI技術は、推論・探索の時代から生成AIの時代に至るまで、飛躍的な進化を遂げてきました。この進化は、コンピューティング能力、アルゴリズム設計、そしてデータ利用の進展とともに進化しています。

AIのこれまで

第1次AIブーム:推論・探索の時代
推論・探索の時代の研究は、主に記号処理と論理推論に基づいていました。人間の知的行動を模倣するために、ルールベースのシステムや効率的な探索アルゴリズムが開発され、「明確なルールと条件に基づく問題解決」に焦点が当てられていました。例えば、A*アルゴリズムやミニマックス法は、問題解決やゲーム理論の分野で重要な役割を果たしました。
しかし、この時代のAIは、現実世界の複雑さには対応できませんでした。研究が進むにつれて、ルールだけでは不十分であることが明らかになり、知識の体系化とデータの活用が求められるようになりました。
第2次AIブーム:知識の時代
「知識ベースの時代」では、「特定分野での意思決定支援」としてエキスパートシステムが登場しました。医療や製造業の分野で大きな成果を上げました。
しかし、この時代にも限界がありました。知識の獲得と更新には膨大な手間がかかり、柔軟性を持つAIを構築することは困難でした。
第3次AIブーム:機械学習の時代
機械学習の時代では、大量のデータとGPUを活用した高性能な計算リソースの進化によって支えられました。教師あり学習、教師なし学習、強化学習、深層学習などの手法により、画像認識や音声認識の分野で飛躍的な進歩がもたらされました。
また、AlphaGoがプロ棋士に勝利したことは、AIが人間を超える可能性を世間に印象付けました。

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第4次AIブーム:生成AIの時代
2020年代に入り、「生成AIの時代」が到来しました。生成AIは、Transformerモデルや自己教師あり学習の技術を基盤とし、テキストや画像、プログラムなどを生成する能力を持つAIです。
これにより、AIは単に認識や予測を行うだけでなく、創造的な活動においてもその能力を発揮するようになりました。

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Stratecheryでは、「アイデア伝播のバリューチェーン」として「創造・具現化・複製・配信・消費」について説明されており、生成AIにより、創造と具現化がアンバンドリングされつつあることが言及されています。*2
個人的には、完全には対応していないとは思いますが、アイデア伝搬バリューチェーンとリンクして、AIブームの進歩に伴いそれぞれのボトルネック部分でのユースケースの幅が広がってきてるように思います。以下にこれまでのことをまとめた表を付けておきます。

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ずれている部分は多くあるかと思いますが、個人的には少し理解が進んだ気がします。

AIの課題

前項では、AIが進歩するにつれ、どのような変化があったかを自分なりに整理してみました。さまざま期待値が上がる一方で、生成AIの時代に突入しても、課題は出てきているかと思います。
​今回は生成AIの時代の​課題として​もChatGPTが挙げていた、コスト面、倫理面、説明可能性面の3点について学んでみようかと思います。

コスト面

AI技術の進化、とりわけ大規模言語モデル(LLM)の発展が大きく貢献しています。しかし、その影響力の裏には、コスト面の増大があるかと思います。
LLMのトレーニングには、高性能GPUやTPUが必要不可欠であり、その導入と運用コストは莫大です。膨大な電力消費などの要因も重なり、AIモデルのトレーニングコストは年々上昇していることが指摘されています。*3

Ben Cottier,et al.arXiv:2405.21015.The rising costs of training frontier AI models

このような背景から、AI市場では性能向上とコスト削減のバランスを取る動きが進んでいるかと思います。さまざまなサービスが増え裾野が広がっていく一方で、OpenAIでは、O1 ProやO3のようなハイエンドモデルも登場しつつあります。*4
使用する側としては、適切なモデル選択やトークン削減、推論効率化技術の導入によるコスト最適化なども必要になってくるのかもしれません。*5
また、AI導入には「ラストマイル」の問題もあります。AIのコストは上がる一方で、導入や活用モデルはまだ確立しきれていない現状があるかと思います。*6 特にハイエンドモデルになっていけばいくほど、その傾向は上がってくる可能性があるかと思います。
AIのコスト問題は、コスト効率を向上させるだけでなく、あらゆる規模の組織がAIの恩恵を享受できる仕組みの構築、新たなUXが求められているのかもしれません。*4

倫理面と説明可能性

AIは膨大なデータをもとに学習し、意思決定や提案を行いますが、そのプロセスは必ずしも倫理的な基準や人間の価値観を反映しているわけではありません。そのような中、AI倫理という分野も2014年頃から確立されてきました。*7 AIの自律性が進むにつれ、AI倫理の必要性も増しています。例えば、生成AIによる偽情報の拡散や知的財産権の侵害など、新たなリスクが表面化してきており、実際に目にする機会もあったのではないでしょうか。*8
また、AIが複雑なアルゴリズムを用いて意思決定を行う一方、そのプロセスが「ブラックボックス化」していることが信頼性を損なう要因となっています。ヒトの場合社会規範など決まったルールをベースに学習しますが、AIの場合、ニューラルネットワークシミュレーションごとのルールで学習する可能性があり、例えば、道路標識の細かな変更で機械学習アルゴリズムが混乱をきたした事例などが報告されています。*7 このような事態を避けるためにも、透明性と説明可能性を確保することは、AI技術が社会に広く受け入れられるための基本条件となるかと思います。

AI事業者ガイドライン*8

日本では、安全安心なAIの活用のための望ましい行動につながる指針として「AI事業者ガイドライン」を策定しています。「AI事業者ガイドライン」は、AI開発者、提供者、利用者それぞれの役割と責任を明確にしています。このガイドラインは、リスクベースアプローチとアジャイル・ガバナンスの概念を取り入れ、AIの進化やリスクに柔軟に対応できるよう考慮されています。

経済産業省.2024年4月19日.AI事業者ガイドライン(第1.0版)

AI開発者の責任として、データのバイアスを最小限に抑え、安全性とセキュリティを徹底的に検証することが求められます。また、学習データやアルゴリズムの透明性を確保し、トレーサビリティを強化するための各工程の文書化などが重要です。
AI提供者の責任では、AIシステムの利用範囲を明確にし、適切なサービス規約などを提供することが強調されています。特に、AIが想定外の用途で使用されることでリスクが生じないよう、利用上の留意点を利用者に分かりやすく伝える必要があります。
AI利用者の役割としては、意図された範囲内で適切に利用することが推奨されています。そして、AIが提供する出力を過信せず、その限界を理解しながら活用することが求められています。

経済産業省.2024年4月19日.AI事業者ガイドライン(第1.0版)を参考に作成

Ethics and governance of artificial intelligence for health*9

WHOでは主にヘルスケア分野でのAIの利用に焦点を当て、大規模マルチモーダルモデル(LMM)の潜在的な利益とリスクを明確化し、倫理的かつ安全な利用を促進するためにガイダンスを作成しています。
AIを健康分野で利用する際には、まず患者の尊厳と自律性を尊重することが基本です。患者がAIの利用について十分な情報を得た上で選択できるよう、インフォームドコンセントを仕組み化する必要があります。また、AIの恩恵を全ての人々に平等に届けるために、社会的弱者や情報弱者を含む多様な背景を考慮した公平性と包摂性を確保することが求められています。
特に、近年注目を集める大規模マルチモーダルモデル(LMM)は、汎用性の高さから多様な医療タスクに対応できる一方で、特有のリスクも抱えています。透明性に欠けるデータセットによる誤診や不適切な治療提案や虚偽情報を生成する「ハルシネーション」のリスクが懸念されます。医療現場では、これらのリスクがそのまま患者の健康に直接的な悪影響を及ぼす恐れがあるため、AIによる診断や提案を慎重に評価し、必要に応じて人間の判断を補完することが重要となります。
また、日本の「AI事業者ガイドライン」と同様に、AIのバリューチェーンを設計・開発、提供、展開の3段階に分け、それぞれで注意すべきリスクや各ステークホルダーの役割についてもまとめられております。

World Health Organization.18 January 2024.Ethics and governance of artificial intelligence for health: Guidance on large multi-modal models

AIのヘルスケアでの応用が期待される中、倫理的な課題に対する取り組みは、技術革新の信頼性と持続可能性を支える柱となり得ます。AIのリスクを最小限に抑えつつ、患者ケアの向上や医療従事者の支援につなげていくためにも、これらの取り組みやガイダンスを参考にしていく必要性がありそうです。

EU AI規則*10

EU AI規則(EU AI Act)は、AIシステムの開発、提供、利用に関する初の包括的な法的枠組みとなります。この規則では、リスクベースアプローチにより、AIの多様性を尊重しながら、人々の健康、安全、基本的人権を守りつつ、イノベーションを促進することを目的としています。*11

欧州連合日本政府代表部.2024年9月.EU AI規則の概要

例えば、EU AI規則では以下の点などで構成されています。
まず、内部市場の調和を図り、EU域内でAI製品やサービスが自由に流通できる環境を整えます。また、人間中心のAIを原則とし、AIは人々の福祉を向上させるためのツールであるべきとしています。特に、健康や安全、基本的権利に重大な影響を与える高リスクAIシステムについては、統一ルールを設け、差別のない公平な運用を求めています。
規則ではさらに、透明性の向上に重点を置きます。特定のAIシステムに対しては、AIが生成したコンテンツを明示し、ユーザーがその性質を正しく理解できるようにします。
データ保護にも厳しい基準を設けており、個人データを扱うAIシステムはEUのデータ保護法に準拠することが義務付けられています。また、倫理的に問題のある特定のAI慣行、例えば、人間の行動を不当に操作するシステムや感情認識技術、無制限の顔認識データベースの作成を禁止しています。
これらのことにより、EU AI規則は、AIの恩恵を社会全体に広げると同時に、そのリスクを最小限に抑えることを目指しています。
以上のことから、特にヘルスケアでは、透明性と説明可能性が求められ、作る側だけでなく、提供者・使用者にも周知徹底されておく必要があり、それにより倫理面の対策につながったり、リスクを回避できることにつながるのかなと思います。

AIの導入事例

いくつかのAI導入事例を見ていきながら、より実践的な学びに変えていければと思います。

Tesla

Teslaは電気自動車(EV)を中心とした再生可能エネルギーマネジメント企業として知られる一方、AIの活用においても注目されているかと思います。今回は、電気自動車の自動運転に焦点を当てていこうかと思います。
TeslaがAIを扱う目的の一つに、完全自動運転技術「Full Self-Driving(FSD)」の実現があります。TeslaのFSDは、従来型のプログラミングから脱却し、「Software 2.0」と呼ばれるデータ駆動型開発手法を採用しています。*12 Teslaは、世界中で稼働する膨大な数の車両から収集される運転データを活用し、AIモデルを絶えず改良しています。これにより、AIが道路状況や運転パターンを自ら学習し、複雑な状況にも柔軟に対応できるよう進化しています。*13
さらに、Teslaは現実世界では稀なケース(エッジケース)を学習するためにシミュレーション技術を駆使しています。これにより、現実のデータだけではカバーしきれないシナリオにも対応できるAIモデルを構築しています。*14
Teslaは、これらの膨大な運転データ収集からのデータ駆動型の開発の実現やハードウェア、ソフトウェア、データ収集を一体化した垂直統合モデルの採用により技術開発のサイクルを迅速に回すことが可能であり、優位性を構築できているのではないかと思います。*15

Hims & Hers

Hims & Hersは、オンラインD2C(Direct-to-Consumer)モデルを採用し、個人に最適化された医療サービスを提供するプラットフォームです。男性向けには薄毛やEDの治療、女性向けにはスキンケアやメンタルヘルスなど、性別や多様なニーズに特化したサービスを展開しています。*16 その中心に位置するのが、AIを活用した診断支援システム「MedMatch」です。
MedMatchは、Hims & Hersのプラットフォームに蓄積された数百万件の匿名化データを分析し、医療提供者が患者一人ひとりに最適な治療法を特定する支援を行います。*17 このシステムは、機械学習を基盤とし、過去の診療データや患者属性、治療結果をモデルにトレーニングしています。*17
Hims & Hersには、他にも独自に開発された技術スタックがあります。電子カルテ(EMR)システムは、SOAPノートの自動化を実現し、診療記録の一貫性と診療の連続性を高めています。*18 一方で、「クレバー・ルーティング」システムは、患者の問い合わせ内容や症状に基づいて適切な担当者に迅速に振り分ける仕組みです。*18 この効率化により、体重管理分野では平均待機時間が40%以上短縮されるなど、具体的な成果が報告されています。*18
これらのシステムは、初回治療から継続治療まで一貫して支援しているかと思います。MedMatchは初回治療を最適化し、治療効果を継続的にモニタリング・調整します。EMRは患者情報を一元管理し、主に医療者の支援を行います。さらに、クレバー・ルーティングは患者の様々な「不」を解消しています。これらが連携することで、患者は安心して効果的な治療を受けられる仕組みが構築されているのかと思います。

Palantir

Palantirは、AI市場で独自の地位を築く企業として、AIモデルそのものの開発ではなく、AIインフラストラクチャとプラットフォームの提供に注力しています。*19 同社の「Artificial Intelligence Platform(AIP)」は、防衛分野の「Gotham」や医療分野の「Foundry」の機能を拡張するものとして、企業が自社のビジネスニーズや倫理基準に基づいてAIを活用できるオーケストレーションレイヤーとして設計されています。*20
Palantirは、AIモデルを「電球」、データインフラを「電力網」に例え、AIモデルの性能を最大限に引き出すためには、堅固なデータ基盤が不可欠であるとしています。*20 AIPは、複数の大規模言語モデル(LLM)を組み合わせ、特定の業務プロセスの自動化を目的としたAIエージェントの開発・管理をするためのプラットフォームとして機能します。*20
その中心となる役割として、計算アルゴリズムであるAIモデルのライフサイクル全体を管理し、ビジネス目標との整合性を確保するAIシステムとしての「Modeling Objectives」機能や*21、LLMの自然言語処理能力をデータ分析に活用するための「AIP Logic」があります。*22 他にも、データクレンジングの半自動化などがあり、これらの機能が組み合わさることで、AIモデルの開発から運用までを効率的に行うことが可能になり、組織全体のAI活用を促進することができます。*23 FoundryやAIPは、これらの機能を通じて、AIが単なる技術ではなく、組織の価値創造と継続的な改善に貢献できるように設計されています。
また、Palantirは英国の国民保健サービス(NHS)と連携し、医療提供の効率化と質の向上に貢献しています。具体的には、患者の待ち時間短縮や治療プロセスの迅速化、手術スケジュールの最適化などを実現しました。*24 例えば、チェルシー・アンド・ウェストミンスター病院では、入院患者の待ちリストが28%削減され、手術室の利用率も73%から86%に向上するなどの成果を上げています。*24
Palantirはデータガバナンス、リスク管理、記録保持といったEU AI 法などの規制対応に必要な機能を提供し、データプライバシーと透明性を維持し、規制遵守を徹底できるよう企業が安心してAIを導入できる環境を整えています。*23 Palantirのビジネスモデルは、個人データの収集、使用、販売には関与していないのも特色かと思います。*25 また、透明性と倫理を重視したアプローチに関しても、患者向けガイドの作成による患者のリテラシー向上への寄与など、患者や医療従事者からの信頼を獲得しています。*26

AIの今後:進化と展望

AIの今後についても学び考えていきたいと思います。

生成AIの5段階レベル

AIの今後の進化としては、OpenAIが提唱する5段階モデルで体系化されています。*27

レベル1:対話型AI(Conversational AI)
レベル2:推論型AI(Reasoners)
レベル3:エージェントAI(Agents)
レベル4:イノベーターAI(Innovators)
レベル5:組織AI(Organizations)

現在主流の「対話型AI(レベル1)」は、自然言語処理を活用し、ユーザーとの対話や日常的な問題解決を支援します。次の「推論型AI(レベル2)」では、単純な推論やタスクの自律的な遂行が可能となり、「エージェントAI(レベル3)」では、複数のタスクを継続的に管理する能力が発展します。さらに、「イノベーターAI(レベル4)」は新しいアイデアを創出し、「組織AI(レベル5)」は企業全体の運営を担う次世代のAIとして期待されています。

エージェントAI

今の段階ですと、推論型AIやエージェントAIの領域が少しずつ開拓されてきている印象があります。エージェントAIが当たり前の社会になってくるとき、様々なものが変わってくるかと思います。
従来のRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は厳密に定義されたプロセスなどの単純な操作を模倣しておりましたが、エージェントAIは目標設定だけで複雑なタスクを自律的に実行することができ、柔軟性が向上します。*28
そして、その兆候としては、バーティカルSaaS領域で大きくなる可能性が指摘されています。*29 特定業界に特化した「バーティカル型AIエージェント」は、特に、ルーチンワークや反復作業が多い業務において、導入効果は大きくなることが予想され、医療業界や物流業界での可能性が期待されています。*30 またそのような既存のタスクの置き換えだけでなく、今までの手法では高コストでできなかったようなこともソフトウェア開発の民主化により、付加価値向上にもつなげていける可能性もあるかと思います。

コンピューティングパラダイム

AIは、次世代のコンピューティングパラダイムを形成する中核としても期待されています。ウェアラブルデバイスの進化に伴い、生成AIはオンデマンドでパーソナライズされたUIを提供し、ユーザーが必要な時に必要な情報にアクセスできる環境を構築することが予想されています。*31 ユーザーごとのデジタルプロキシとして、アイアンマンのジャーヴィスのようなサービスが生まれてくる可能性があるのかもしれません。*32
また、小規模なLLMの開発も進んでいることから、デバイスごとにLLMが搭載され、オフラインでも利用できるようになると、より広範な使用用途につながる可能性も考えられるかと思います。*33 IoTの広がりと同じように、AIoTの技術面は整いつつあり、AI-nativeなサービスやプロダクトの需要が増してくる可能性が考えられます。

CognicosとSimulation as a Service

「Simulation as a Service (SaaS)」と「Cognicos」という二つの概念が紹介されていたため、理解が追いついていない部分もありますが、個人的な理解としては、上述の組織AIに近づいてきた時の概念にも繋がるのかなと思っています。
Simulation as a Serviceは、AIがユーザーの状態や目標を理解し、未来のシナリオをシミュレーションして最適な戦略を提案する技術です。LLM(大規模言語モデル)の低コスト化によって、AIは無数のシナリオを同時に検討し、意思決定の質を飛躍的に向上させることが期待されます。*34
一方、CognicosはAIを中核とした次世代型組織の概念です。ここでは、データと計算能力を最大限に活用し、AIが組織運営の中心となる一方、人間は設計や調整といった役割を担います。この構造により、従来の人間中心の効率重視型組織とは異なる柔軟性と効率性を実現できます。Cognicosは、業務遂行をAIが担い、人間がそれを統括する新しい組織モデルとして、AI時代の可能性を象徴しています。*34
また、こうした高度なAIシステムが社会に広く受け入れられるためにも、透明性と信頼性を支える標準化が不可欠になってくるのかと思います。モデルカードやエージェントカード、データカードといったフレームワークが考えられており、AIモデルの性能や安全性、データの透明性を保証し、AIの適正な利用を支える基盤が整備される必要があるのかもしれません。*35

ヘルスケアとAIについて考えてみる

では、最後にヘルスケアとAIについて振り返り少し考えてみようかと思います。
まず、これまでのAIからの学びから、当たり前ではあると思うのですが、一言でAIといっても、グラデーションがあることがわかりました。個人的な理解としては、AI=生成AIのような気持ちになってしまっておりましたが、そうではなく、用途に合わせた活用が必要であり、データの量や持ち方も重要であるのかなと思いました。
また、AIの課題としては、今後も新しい法整備などが増えてくる可能性はあると思いますが、現状として、透明性や説明可能性、データ保護の観点が大事であると感じました。また、早熟なテクノロジーであるからこそ、サービス提供側は、AIのリスクと限界を説明できるようにし、利用者側にもきちんと伝えるオンボーディングの重要性が強調されているようにも感じました。
AIの導入事例としては、TeslaやHims & Hersは、ビッグデータの活用と機械学習の組み合わせがうまい印象を受けました。Teslaの「Software 2.0」事例は、AI-nativeなプロダクト開発かと思います。Hims & Hersは、自社の強みをよく理解した上で、強みとなるデータををどう収集できると、さらに強みが増していくかのサイクルをよく練り、そこにAIをうまく組み合わせているのがとても参考になった理解です。Palantirはあまり理解しきれなかったですが、企業とAIを繋ぐ役割​、​それこそAIXを開拓していっている認識でいます。そのため、今後AI-nativeなサービスを作っていくときに、Palantirのようなプラットフォーム上で行うのか、自分でやるのかは考えなければいけないところかと思いました。ただ、構造化されていない複数ソースを自動でデータクレンジングすることや、ヘルスケアのような機密性の高い情報を用いた際の法律遵守をカバーしたAIシステムである部分などは、医療でのニーズは非常に高いと思い、NHSで導入されつつある部分も納得してしまいました。
最後のAIの今後の部分としては、未知数なところが多いながらも、すでに変化は進行しており、バーティカルな領域で起きつつあるのはとても納得し、SaaSの時とは違った流れで普及しつつあるのは面白いなとも思います。日頃の業務でも、何も考えずに黙々とこなさなければいけない作業は大なり小なりあると思いますし、それに生きがいを感じているような人も少ないかと思います。「AIが仕事を奪うのでは?」というネガティブな印象もある中、このようなみんなが嫌がるタスクから徐々にシフトが起こるだろうという点でも、バーティカル領域での展開は進んでいくのかもしれません。
また、日本では、DXすらあまり進んでいない背景がありますが、今回のAIによる社会への刺激で、リープフロッグ的にAI-nativeな会社が増えていくのか、また同じような道を歩んでしまうのか、ドラえもん好きとしてはAI-nativeを期待したいです。
AIの活用をしていくにあたって、効率性の方向性であれば、今のシステムにどうAIを組み込んでいくかという観点でもいいのかなと思います。ただ、AIにより付加価値を向上させたい場合は、AI-nativeな設計が必要ではないかと思い、TeslaやHims & Hersのように、どのようなビジョンがあり、そのための中核となるデータは何なのかをよく考えた上で、それをベースにAIでなければ出せない価値とはなんなのだろうというのをよく考えていかなければいけないのかと思います。個人的には、医療と予防のはざま、肥満領域がこれだけ注目されてきている中で、病気になる手前の領域でAI-nativeなサービスとはなんなのかに興味があります。AI-nativeなデバイスが普及して行った時には、マルチモーダルな情報を収集できる可能性があるかと思います。そうなった時には、細かな生活習慣の情報が記録できるようになり、タイムリーな支援や予防のソリューションが提供できるようになるかもしれません。活用できていない非構造化データが溢れている中、その活用性の可能性が出てきた今、全てを網羅するというよりはどの部分にフォーカスを当てていくのかも大切になるのかなと思います。
また、あらゆる領域で多職種協働は必要になってきますが、そういった部分でも、AIエージェントを組み合わせることにより、チーム医療の選択の幅が広がり、現状高コストでカバーできない予防領域でも展開できる可能性があるのは面白いなと思います。LLMが搭載されたデバイスが普及していくことで、パーソナライズされた医療チームがポケットの中に存在する世界も案外遠くないのかなと思いました。
まだまだ考えがまとまっていないものも多いですし、現状ミスリードや誤解に近い解釈も多いかもしれませんが、引き続きAIに関してはたまに振り返り学んでいきながら深めていければと思います。

ヘッダー画像:generated by DALL-E
【参考資料】
*1:総務省.令和6年版情報通信白書
*2:Stratechery.September 12, 2022.The AI Unbundling
*3:Ben Cottier,et al.arXiv:2405.21015.The rising costs of training frontier AI models
*4:コッカラSaaS.2024.12.21.クリスマスAI商戦ダイジェスト
*5:Shivanshu Shekhar,et al.arXiv:2402.01742.Towards Optimizing the Costs of LLM Usage
*6:Brookings.Martin Fleming,et al.August 29, 2024.The last mile problem in AI
*7:Di Kevin Gao,et al.arXiv:2403.14681.AI Ethics: A Bibliometric Analysis, Critical Issues, and Key Gaps
*8:経済産業省.2024年4月19日.AI事業者ガイドライン(第1.0版)
*9:World Health Organization.18 January 2024.Ethics and governance of artificial intelligence for health: Guidance on large multi-modal models
*10:Council of the EU.21 May 2024.Artificial intelligence (AI) act
*11:欧州連合日本政府代表部.2024年9月.EU AI規則の概要
*12:Medium.Andrej Karpathy.Nov 12, 2017.Software 2.0
*13:X.phil beisel.The Magic of Tesla FSD(2024年12月28日参照)
*14:The Daily Upside.November 4, 2024.Tesla Synthetic Data Patent Could Improve Self-Driving Models
*15:Medium.Yarrow Bouchard.Feb 21, 2022.A Simple Calculation About Tesla’s AI Data Advantage Over Waymo
*16:Hucky.2024年11月21日.ヒムズ・アンド・ハーズ・ヘルス($Hims)レポート
*17:Hims.November 6, 2023.Hims & Hers Introduces MedMatch, The Next Generation of Intelligent Diagnostic Services
*18:Hims.November 4, 2024.How Our Technology Powers a World-Class Customer Experience
*19:Palantir.April 7, 2023.Our New Platform
*20:Arny Trezzi.2024/04/18.Why Palantir will DOMINATE AI
*21:Medium.Palantir.Jun 10, 2023.Making AI and ML Operational: The Modeling Objective
*22:Medium.Palantir.Dec 17, 2023.Navigating the Future of Data: A User’s Perspective on Palantir’s AI-Enhanced Foundry Platform
*23:Medium.Palantir.Dec 21, 2024.AI Systems Governance through the Palantir Platform
*24:Medium.Palantir.Jan 13, 2023.Accelerating Patient Care with the NHS
*25:Medium.Palantir.Nov 22, 2023.Palantir and the NHS
*26:Medium.Palantir.Oct 7, 2024.Introducing a Patients’ Guide to Foundry
*27:Medium.Albaneto.Jul 17, 2024.OpenAi’s 5 Levels of Artificial Intelligence
*28:Andreessen Horowitz.November 13, 2024.RIP to RPA: The Rise of Intelligent Automation
*29:Y Combinator.2024/11/23.Vertical AI Agents Could Be 10X Bigger Than SaaS
*30:Andreessen Horowitz.September 20, 2024.Vertical SaaS: Now with AI Inside
*31:Stratechery.December 2, 2024.The Gen AI Bridge to the Future
*32:simple.ai.Dharmesh Shah.December 30, 2024.3 Predictions for the Future of AI Agents in 2025
*33:The Daily Upside.December 16, 2024.Why Small AI Models Are Winning In Enterprise
*34:next big thing.Nikhil Basu Trivedi.Dec 31, 2024.The next big thing in 2025 will be...
*35:Medium.Jason Tamara Widjaja.Dec 31, 2024.Ten Predictions for Data Science and AI in 2025


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