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包容的な未来を築くためのAge-Friendlyな社会とは①
Age-Friendlyとは何か?
「Age-Friendly」という言葉をご存知でしょうか?
Age-Friendlyとは、高齢者だけでなく、すべての世代が共に恩恵を受けられる、住みやすい社会を目指す考え方です。 *1
僕は昔文献を漁ってた時に知り、昨今DEI疲れも出てきてはおりますが、ヘルスケアではこのような概念はより重要になっていくのかなと思っています。そのため、改めてアップデートしようと今回自分なりにまとめてみることにしました。
Age-Friendlyが生まれた背景
ではなぜ、Age-Friendlyが重要なのでしょうか?
以前、「ヘルスケアとエンタメについて考える」でも触れておりましたが、世界では高齢化が急速に進んでおり、特に都市部での高齢者人口の増加は顕著です。国連の予測によると、2050年までに世界の60歳以上の人口は2017年の2倍以上に増加すると予測され、その80%は低・中所得国に集中すると言われています。*2,3 このような状況下で、高齢者が安心して暮らせる環境整備は喫緊の課題となっています。また、高齢者の地域社会からの孤立も深刻化しており、社会的なつながりを維持することも重要です。*4
このように、Age-Friendlyという概念が生まれた背景には、世界的な高齢化の進展と、それに伴う社会的な課題への対応が主な理由として挙げられます。
Age-Friendlyの基本理念と構成要素
Age-Friendlyの理念とその広がり
Age-Friendlyの考え方の根底には、2002年にWHO(世界保健機関)が提唱した「Active Ageing(アクティブエイジング)」があります。Active Ageingとは、高齢になっても健康、社会参加、安全の機会を最適化し、生活の質(QOL)を高めるプロセスを指しています。*5
さらに、Active Ageingを支える概念として「Healthy Ageing(ヘルシーエイジング)」があります。Healthy Ageingとは、加齢に伴う機能低下を最小限に抑え、健康的な生活を送ることを目指す考え方であり、機能的能力と内在的能力に分けて捉える必要があります。*5
以下に用語の定義をまとめておきます。
Healthy Ageing
高齢期におけるWell-beingを可能にする機能的能力を開発・維持するプロセス
機能的能力(Functional ability)
人々が価値を認める理由のある存在となり、それを行うことを可能にする健康関連の属性で構成され、それは、個人の内在的能力(Intrinsic capacity)、関連する環境特性、および個人とこれらの特性との相互作用で構成
内在的能力(Intrinsic capacity)
個人のすべての身体的および精神的能力の複合体
Healthy Ageingの実現には、機能的能力を維持・好ましい方向へ導くことが必要です。そのために内在的能力を高め維持していくのを支援すること、機能的能力が低下した人々が自分にとって重要なことを行えるようにすることの2点が大切になります。*5 生活が多様化する中で、個人のライフコースにおける変化と、それに対応した介入が重要となってきます。
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Active Ageingは高齢期のQOLを高めることであり、そのためには、健康的に年齢を重ねていくためのHealthy Ageingが必要となり、両者はAge-Friendlyを実現するための補完的な要素となります。
Age-Friendlyなアクションのための8つの分野
Age-Friendlyな社会を実現するためには、具体的な行動が必要です。WHOは「Age-Friendlyなアクションのための8つの分野」を定義しています。*1,6
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・物理的環境
1. 屋外空間と建物 (Outdoor Spaces and Buildings)
安全で快適に移動できる歩道や公園、公共施設を整備します
2. 交通機関 (Transportation)
高齢者も利用しやすい公共交通機関や、安全な道路環境を整備します
3. 住宅 (Housing)
高齢者が安心して暮らせる住宅を確保し、バリアフリー化を進めます
・社会環境:
4. 社会参加 (Social Participation)
高齢者が地域活動や趣味活動に積極的に参加できる機会を提供します
5. 敬意と社会的包容 (Respect and Social Inclusion)
年齢による差別(エイジズム)をなくし、高齢者を社会の一員として尊重します
6. 市民参加と雇用 (Civic Participation and Employment)
高齢者が社会に貢献できる機会(ボランティアや就労)を創出します
・自治体サービス
7. コミュニケーションと情報 (Communication and Information)
高齢者が必要な情報を入手しやすい環境を整備します
8. 地域サポートとヘルスサービス (Community Support and Health Services)
高齢者が利用しやすい保健・医療・福祉サービスを提供します
これら8つの領域は、Active Ageingの重要な要素である健康、参加、安全の決定要因を包括的にカバーし、主要33都市の高齢者への聞き取り調査を基に作成されています。*1
また、これら8つの領域は独立して存在するのではなく、互いに連携し合いながら社会全体を支えるよう設計されています。*1,7 たとえば、柔軟な働き方は社会参加を促進し、移動手段の利用しやすさは外出を促し健康で安全な生活につながっていくかと思います。
今回はここまでとして、次回は、具体的な事例などについて紹介していければと思います。
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【参考資料】
*1:World Health Organization.5 October 2007.Global age-friendly cities: a guide
*2:Stefanie Buckner,et al.2018;PMID: 30166937
*3:World Health Organization.15 February 2018.The Global Network for Age-friendly Cities and Communities
*4:Anna Zisberg,et al.2024;PMID: 39344476
*5:World Health Organization.29 September 2015.World report on ageing and health
*6:World Health Organization.19 April 2023.National programmes for age-friendly cities and communities: a guide
*7:World Health Organization.1 January 2016.Creating age-friendly environments in Europe: a tool for local policy-makers and planners