抗コリン薬リスクスケール
抗コリン薬とは、神経伝達物質であるアセチルコリンがアセチルコリン受容体(ニコチン受容体またはムスカリン受容体)に結合するのを阻害する薬物のことを言い、治療効果の主作用として抗コリン作用を有する薬物もあれば、主作用とは別に抗コリン作用を持つ薬物もあり、とても広い範囲で使用されているお薬ではないかと思います。
では、現在服用中のお薬の中で、抗コリン作用による負荷がどれくらいあるのかを測定するにはどうしたらいいでしょう。その方法としてはthe Anticholinergic Drug Scale (ADS)、the Anticholinergic Risk Scale (ARS)、およびthe Anticholinergic Cognitive Burden Scale (ACB)などの尺度がいくつかあり、ただこれらの尺度には一貫性はなく、また同じ尺度をうたっていても参照先ごとにスコアが違うなどの問題もあることが懸念されています。*1
例えば、クエチアピンなどは、ある尺度では抗コリン活性が高く、別の尺度では中等度、他では低いと評価されているものもあり、標準化が難しいことが挙げられています。*2
また、これらのスケールを使用して検証されている臨床試験のシステマティックレビューでは、使用するスケールにより臨床結果は異なり不均一性が際立っている結果も出ています。*3
2021年には、高齢者における抗コリン作用、鎮静作用に関しての利用可能なスケールの統合を試みたレビュー研究もあります。*4 この文献では合計13件のスケール(抗コリン薬11件、鎮静薬2件)を特定し、それぞれ高い、中程度、低い、全くないに分類分けをおこなっています。全体では合計642種類もの薬剤を分類分けしておりました。高い抗コリン活性を示しているのは計44種類、高い鎮静作用を示しているのは計31種類あり、642種類は大変ですので、高いリスクに分類されているものだけでもまずは参考にしてみると良いのかもしれません。
日本では、高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)に抗コリン薬のリストがまとめられております。*5 日本で承認されている薬に絞られている点などを考えると、実務上はとても使いやすい指標であるかと思います。
また、日本老年学会では、これまで日本独自の抗コリン薬の尺度が作成されてこなかったため、「日本版抗コリン薬リスクスケール」を開発しています。*6 こちらでは、日本に流通している薬品の中で、坑コリンリスクスコアの平均点を算出しデルファイ法などを用いてリスト化してくれています。
また使い方としては、各薬剤での評価、期間なども統合した総抗コリン薬負荷の指標としての活用が挙げられています。
現状、日本で抗コリン薬の評価などに使用する場合は日本版抗コリン薬リスクスケールが一番有効なツールになるのではないかと思います。また、FRIDsなど鎮静作用まで波及して調べておきたい場合は、他のツールも併せて参考にしておくと良さそうな印象です。
薬一つ一つでは、リスクが低くとも、複数になることでリスクの程度は変わってくる可能性があり、現状、エビデンスも限定的かと思います。今飲んでいるお薬、それらを総合的に見たときに実際抗コリン作用がどれくらいありそうなのか、ただ漫然と飲み続けている状態でしたら、今の薬物治療を定量的に考えられる一つのきっかけになるかもしれません。
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【参考資料】
*1:Unax Lertxundi,et al.2013;PMID: 23551407
*2:Mohammed Saji Salahudeen,et al.2015;PMID: 25879993
*3:Angela Maria Villalba-Moreno,et al.2016;PMID: 26518612
*4:Sweilem B Al Rihani,et al.2021;PMID: 34751922
*5:厚生労働省.高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)(2024年6月11日参照)
*6:日本老年薬学会.日本版抗コリン薬リスクスケール(2024年6月11日参照)
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