東大日本史の攻略術
初めに
前回の記事では多くのスキをいただきありがとうございました。拙作ではありますが、多くの方に読んでいただけてありがたい限りで励みになります。
東大日本史の概要
様々に記事になっているので簡単に触れますが、東大日本史は例年大問4問構成で、それぞれの大問はA,B,Cという小問群によって構成されています。また、それぞれの小問は2〜3行以内であることが一般的です。
そして何よりも問題文が特徴的です。歴史的な資料や、時系列順の史実が(1)〜(5)まで羅列され、これらの問題文の情報をいかにして答案に活用できるかが合否を分ける鍵となります。
東大日本史についての個人的私見
大手予備校の模試
東大模試といえば駿台と河合塾が実施するものが主に挙げられます。どちらかの日本史で好成績を収めた人は本番でも良好な成績を収められる点(私がそうでした)では、東大対策としては素晴らしいものだったと認識していますが、周囲の意見を総合すると各模試について次のような課題もありました。
1.駿台は暗記偏重。問題形式が近年の出題に沿っていないのでは?
2.河合塾は要約ゲー。日本史の知識量は差に直結せず実質現代文では?
まず、駿台については、点数が「用語」や「用語について説明」に振られており、「頭を使う」のではなく「記憶の引き出しを開ける」作業を繰り返して解答を作ることが多かった印象です。つまり知識量がものを言う出題で、時には教科書レベルを優に超える用語に配点が振られたりしていました。またA,Bのような小問構成ではなく「6行以内で記述せよ(用語指定あり)」というような当時あまり出題が少なかった形式で出題されることもあり、知識量が十分ではない現役時には8/60点を取ったりしていましたが東大入試本番では42/60点も取れており「冠模試とは?」と拍子抜けした記憶があります。ただ、知識が十分に蓄えられた浪人期には安定して駿台の東大模試では35/60点を取れるようになっていたので、得意な出題形式ではあります。(浪人時の入試は45/60点)
次に、河合塾ですが、こちらはいかに問題文(1)〜(5)の内容を解答に利用できたかという内容に配点が振られており、日本史力というより要約力が点数に直結していた印象です。出題形式は近年の東大入試に沿ったものであり、解答に際して面食らうことはありませんでした。ただ記憶力があまり求められない河合塾の東大日本史は周囲に差がつけられないため、個人的には苦手でした。
しかし、東大日本史はただ暗記力があればいいわけではなく、問題文の内容を教科書レベルの知識に組み合わせて解答を作ることが重要な要素だと思っているので、駿台河合塾双方をハイブリッドして解答を作れる力こそが必要だと思います。そのために一度は双方を受験していただくか、駿台と河合塾が出している東大日本史用問題集を解いてみることをお勧めしたいです。
東大日本史の対策術
総論
ここからが本題になります。
以前東大日本史には独特な対策が必要だと述べましたが、国語の次に合格者不合格者の差がつきにくいのは地歴だと個人的には思います。年にもよりますが地歴は75/120点あれば合格するためには充分ですし、共通テストレベルで9割の点数が取れるのであれば日本史で35点程度取るのはさほど難しいことではありません。また、地歴で差をつけたい私も東大模試では偏差値80程度取れていても本番では45点でした(やらかしがあったのでミスがなければ50点程でしょうか)。ですから正直合否を分けると言われている数学英語ができるのであれば、問題文を要約し、最低限の教科書レベルの知識を加えて記述する(河合塾形式の解答)をすることで35点程度を取ることは可能だと思います。困ったら題意から外れないように要約することを意識してください。(地歴で差がつきにくい採点にしているのは知識量に差がある現役生と浪人生で有利不利が生じないようにするためだと在学中に噂で聞いたことがあります)
さて、私は先に東大日本史の特徴は問題文であると述べました。そして東大日本史は「問題文を一切使わない問題」と「問題文を使う問題」に二分されると考えています。
その「問題文を一切使わない問題」の例は2017年第2問A,同年第4問Bのような問題であり、「問題文を使う問題」の例は上記2017年第1問のような問題です。
以下それぞれについて論じていきます。
「問題文を一切使わない問題」
問題文を一切使わない問題の特徴としては記述の難易度が比較的低いことが挙げられます。つまり書けなければ合否に影響を及ぼしかねません。
例えば上記の2017年第2問Aでは、「承久の乱の結果、朝廷監視のため京に六波羅探題が設置され西国や朝廷が支配していた武士層にも支配領域が拡大したこと」を書けば充分なはずですし、同第4問Bも「欧米に親和的な平和主義的協調外交の推進が背景にあり、統帥権干犯問題による政府批判の最中浜口首相が襲撃され、退陣したこと」をより説明的に書けば良いはずです。
このような問題は共通テスト、記述問題でも頻出のものばかりで、前の記事でも述べたように頻出トピックについて教科書太字部分を中心に要約するという一般的な日本史論述の対策が有効だと思います。(これらは現役生が点数を取れるようにするために置いているもので、現役生が対策できているだろう第4問の近代史で出題されることが多いと噂で聞いたことがあります。)
そして問題文を使う問題か否かの見分け方は、問題文(1)〜(5)を読んでみて解答に問題文の要素を使えるかどうかにあります。例えば、前述第2問Aでは京都で裁判を行うようになった経緯、第4問Bでは条約締結背景やその結果の国内の反応は問題文に記載されておらず、読み取ることも困難です。
「問題文を使う問題」
こちらが東大日本史においては一般的でしょうか。
一般的な日本史論述では教科書の同一ページに集中的に記載された該当部分を要約して論じるというミクロ的な解答の仕方が求められることを前の記事では述べましたが、こと東大日本史に関しては異なるページから該当する部分を抜き出して論じ切るというマクロな解答の仕方が求められるため問題を読んだ時に解答の道筋が浮かんでこないという難点があります。
そこで問題文(1)〜(5)を読んで記憶の引っ掛かりを探すのですが、解答を作る上で意識すべきことが3つあります。それは
① 俯瞰的に日本史を見て
② 問題文(1)〜(5)の全てを利用し
③ ①②に教科書レベルの知識を補充して
解答を作ることです
①について具体的にいうと、論述の頻出トピックのような教科書の特定の一箇所を思い出そうとする姿勢ではなく、曖昧で構わないので設問に関連する事項として周辺諸国との関係性、政治権力者や制度の変遷など記憶喚起する範囲を時的及び地的に広げるということです。
例として2017年第1問を使って説明していきます。
Aについて、問題文の「律令国家」が鍵となります。律令国家とは律令制度に基づき支配を行う統一国家ですが、古代において律令国家といえば中国であり、中国は夷狄とみなした諸外国と朝貢関係を形成していました(倭の五王は中国の南朝に朝貢していましたよね)。日本はこれに倣おうとしていたと考えれば、東北地方に居住し中央政府に従っていなかった蝦夷を支配下に組み込む中華帝国を形成しようとしていたと考えられます。(新羅に対しても属国と扱おうとして緊張が生じていました)
これがAの解答の軸となり、さらに当時の入試本番で私は”百済高句麗滅亡や白村江の戦いによる唐との緊張関係から、まず内憂たる蝦夷を断つ必要があったこと”に触れて解答を作成しました。
以上の解答への道筋は時的観点から言えば古墳時代〜奈良時代、地的観点から言えば東アジアについて教科書に点在している部分を総合してできたものです。
また②について、Aにおいて東アジアへ視点を広げたのは問題文(1)の「東アジアの国際関係の変動の中で」という記載を踏まえたものです。
さて以上の考え方を踏まえてBですが
まず、①に関して、時的範囲は問題文に「7世紀半ばから9世紀」とあるのでそれに従い、地的範囲については問題文の「国家と社会」という文言や問題文(2)〜(5)の中には外国についての記述がないことから対象を国内に限定します。そこから②も踏まえ教科書レベルの知識を補充して考えると
問題文(2)(3)より"東北への移住民(柵戸)"や農民の疲弊が肉体的経済的に進んだことから"軍事力として健児が導入されたこと"、"逃散などにより税収が滞り公地公民制ひいては律令制の崩壊が進んだこと"
また問題文(4)から"東北と都の間で交易が進み、柵戸の存在も重なって東北と諸国の文化交流も進んだこと"
問題文(5)から、"律令制度の崩壊により中央政府が軍事力を有しなくなった平安時代には、その後征夷大将軍として武士全体の棟梁となる源氏や平氏という武家の棟梁を中心とした武士団が権力者の軍事力として機能し、武士の中央政界進出の足掛かりとなった"
ことが想起できるので、これらを時系列順に要約することで解答としては充分だと思います。(試験当日は似たようなことを記述したと記憶しています)
最後に
これまで東大日本史を解く上での私なりの方法論について述べてきましたが、これは日本史で他の受験生に差をつけるためのものであって、英語数学でアドバンテージを有している方は題意から外れないように問題文を要約する基本姿勢を忘れなければ日本史で大ケガすることはないと思います。また、このノウハウもあくまで個人的なものなので拘泥はせず「国数英の主要三教科で優位に立つこと」、「最低限日本史は共通テストで9割を安定して取れる実力を有しておくこと」を意識すればいつの間にか合格しているはずです。
皆様の今後の成功をお祈りしています。長文ですが、ここまで読んでいただきありがとうございました。