愛知県と東京の進学校の学力レベルの比較(直近5年)
愛知県出身で東京在住の私にとって、子供の受験で最初に困ったことは「首都圏の高校の名前を聞いても、どれくらいの学力レベルの高校なのか感覚的にわからない」ということでした。それなら、大学の合格実績を見て比べてみようと思い、いくつかの高校を調べたのですが、そこには比較する上での落とし穴がありました。
その落とし穴は、「地帝(名古屋大)>早慶の愛知県」と「早慶>地帝の首都圏」のギャップです。すごく感覚的に言うと、愛知県で「東大D判定、京大C判定、早慶B判定、名大A判定」なら名大を受験して進学する感じです。ところが、首都圏だと東大チャレンジ+早慶を複数併願で受験して、東大ダメでも早慶はどこかに合格して早慶に進学(または浪人)するギャップ感です。
では、東京一工+国立医学部+地帝+早慶の合格者数を合算したら、愛知県と首都圏の高校の学力レベルを比較できるかというと、そうではありません。早慶は複数併願できるので、合格者数ではなく進学者数で比較する必要があります。ところが、現役浪人合計の進学者数を公表している高校は数えるほどしかなく、十分な比較ができないのです。
それなら、早慶の進学者数を何らかの方法で推定して、愛知県と首都圏の高校を同じ基準で比較しようと試行錯誤してきました。ここ1ヶ月くらいで早慶進学者数の推定ロジックも、ある程度良くなったはずなので、今回は私にとって本丸の「愛知県と首都圏の高校の学力レベル比較」を記事にしてみます。
0. まとめ
愛知県の旧制中学の進学校と都立の進学指導重点校は、ほぼ同じ学力レベルの3階層の構造になっており、首都圏は更にこの上の階層に筑駒や私立御三家などが君臨している。
旭丘・岡崎・東海の尾張・三河・私立の3トップは、首都圏の公立トップ校(都立トップ3・横浜翠嵐・浦和・千葉)や浅野・武蔵・豊島岡などと同等の学力レベル。このクラスは、難関大学進学率が50%を超えて、学年の上半分が地帝(名大)・早慶以上に進学する。
明和・一宮・時習館などの愛知県公立の2番手校は、都立の公立2番手校(戸山・青山)や城北・巣鴨・桐朋などと同等の学力レベル。滝高校(私立)もここ。このクラスは学年平均層では地帝・早慶には届かないものの、上半分のボリュームゾーンは地帝・早慶となる。
菊里・半田・瑞陵などの愛知県公立の3番手校は、都立の公立3番手校(立川・八王子東など)と同等の学力レベル。首都圏のこのレベルの私立進学校は少なく、MARCH附属校などが相当する。このクラスでは難関大学進学率が20%程度となり、地帝・早慶以上に進学できるのは上位層の一部のみとなる。
1. 分析対象と比較指標
①比較対象(愛知県の高校)
愛知県は旧制中学の一中〜八中、名古屋市立高等女学校を基本に、尾張2群のトップ校、私立のトップ校を対象とします。具体的には、以下となります。
<旧制中学のナンバースクール>
旭丘(一中)、岡崎(二中)、時習館(四中)、瑞陵(五中)、一宮(六中)、半田(七中)、刈谷(八中)、菊里(第一高等女学校)、向陽(第二高等女学校)
※津島(三中)はデータを集められなかっため除外
<その他>
明和(尾張2群トップ)、東海(私立男子校トップ)、滝(私立共学トップ)
②比較対象(首都圏の高校)
以前の記事と同様に、首都圏の進学校から、一定の学力幅に分散するように恣意的に選んでいます。基本は自分が気になる高校です。
東京都立の進学指導重点校/進学指導特別推進校
日比谷、西、国立、八王子東、戸山、青山、立川、小山台、駒場、新宿、国分寺東京都立の中高一貫高
小石川、都立武蔵、三鷹中教東京の国立附属高校
学芸大附属、お茶大附属、筑波大附属、筑波大駒場首都圏の私立進学校
<高校募集あり>
開成、桐朋、城北、巣鴨、國學院久我山、東京農大第一、渋谷幕張、市川
<高校募集なし>
駒場東邦、海城、武蔵、芝、世田谷学園、本郷、桜蔭、女子学院、豊島岡女子、吉祥女子、頌栄女子、聖光学院、浅野別枠
灘
③分析対象(大学)
東京大、京都大、一橋大、東工大、国公立医学部医学科(国医)、地方旧帝国大(地帝=北海道・東北・名古屋・大阪・九州)、早稲田大、慶應大への進学者を分析対象とします。集計対象は国公立は前期入試、早慶は一般入試のみです。なお、地帝の医学部医学科は国医にカウントします。
④比較指標
難関大学への進学者数を卒業数で割った進学率で比較します。集計期間は2020〜2024年度入試の5年間平均です。データを集められなかった場合は、欠損値として扱うため、平均値には含まれません。
進学者数は国公立大については、合格者数=進学者数として扱います。数名の辞退者は出るようですが、進学率に与える影響は1%未満なので無視します。
早慶の進学者数は、次の優先順位で推定します。あくまで推定値であり、誤差を含みます。
現役と浪人を合算した進学者数を公表している場合は、その数字を早慶進学者数(現浪合算)として扱う。
現役進学者数のみ公表している場合は、前回記事の1次回帰式から推定した数字を早慶進学者数(現浪合算)として扱う。現役進学者数は複数年のデータを入手できた場合はその平均値を1次回帰の変数として入力する。単年度しか入手できない場合は、その値を1次回帰の変数として入力する。
進学者数を一切公表していない場合は、簡易的な重回帰式(後述)から早慶現役進学率を算定し、そこから現浪合算の早慶進学者率を更に推定する。
⑤データソース
合格者数(進学者数)と卒業生数は次のサイトからのデータを用いています。優先順は1>2>3>4です。
対象高校のホームページ
進学校データ名鑑
https://www.shindeme.comEduA 早慶上理現役進学率(2022年度)、早稲田大現役進学率(2024年度)、慶應大現役進学率(2024年度)
https://www.asahi.com/edua/article/14651159
https://www.asahi.com/edua/article/15376684
https://www.asahi.com/edua/article/15376733インターエデュ、それ以外の情報提供サイト
2. 首都圏の主要高校の難関大学進学率の見直し
①早慶重回帰分析の補強
前回に早慶現役本命率の重回帰分析を行った際には、EduAに掲載されていた2022年度の数字を用いていました。そうした中、前回をアップした数日後に、同じEduAに2024年の早稲田・慶應それぞれの現役本命率のデータが掲載されました。
そのため、今回は2022年度と2024年度のデータを合わせて重回帰分析を行います。被説明変数(早慶現役本命率)と説明変数(入試偏差値など)の定義は前回と同様です。説明変数の入試偏差値が駿台中学生テストの確実圏偏差値のため、高校募集を行っている学校のみが対象となります。
今回は2年分で約400件のデータが集まりました。それを全て重回帰分析すると、このようになりました。決定係数(補正R2)は0.3131とあまり高くありません。
続いて、早慶現役本命率と入試偏差値(駿台中学生テスト確実圏偏差値)の散布図を見てみます。こちらも前回同様に、赤枠の外れ値のゾーン、黄枠の偏差値50未満の相関の弱いゾーン、緑枠の偏差値50以上で負の相関が見られるゾーンが確認できます。
そこで、今回も本命率100%と偏差値50未満を除外して、精度を高めます。一方、愛知県との比較なので、県庁所在地距離(高校〜早慶)は説明変数として外せません。説明変数を増やすと使い勝手が悪くなるので、シンプルに入試偏差値と県庁所在地距離の2変数の重回帰モデルを作ることにします。
この場合、重回帰分析結果はこうなります。決定係数(補正R2)は0.4012と十分ではありませんが、この重回帰式を使うのは本命率がわからない場合の最後の手段なので、これを採用することにします。
②首都圏の主要高校の難関大進学率(更新版)
上記のように早慶進学者数(現浪合計)の推定方法を変更した上で、集計年度を2020−2024年度に変更・統一して、首都圏の主要高校の難関大進学率を再計算しました。
前回との差異は、早慶進学者数の推定方法の変更に起因する部分もありますが、それよりも、集計対象年度を変更した影響の方が大きいようです。直近で合格者数が伸びている高校は上方修正されているようです。
3. 愛知県と東京の進学校の学力レベル比較
それでは、分析の準備が整ったので、順番に分析結果を見ていきます。
①愛知県の対象高校の難関大進学率
愛知県の比較対象高校を難関大進学率(推定値)の順番に並べると、このようになります。
パッと見た感じで、大きく3つのグループがあることがわかります。
◆トップ進学校(右)
難関大進学率が50%以上、東京一工国医の進学率が20%以上、東大・京大の進学率が10%以上の高校です。旭丘、岡崎、東海という尾張、三河、私立の3トップが入っています。このグループは難関大進学率が50%以上あるため、学年の中央値(平均)の生徒の進学先が地帝・早慶となります。地帝(名古屋大)の構成が大きい岡崎、東大・京大に強みのある旭丘、医学部が多い東海というように、それぞれ特徴があるのが興味深いです。
◆2番手進学校(中央)
難関大進学率が30〜40%、東京一工国医は概ね10%以上、東大・京大は5〜10%程度です。医学部比率の高い滝以外は、地帝(薄いグリーン)≒名大で難関大進学率を上げていることがわかります。学年の中央値では地帝・早慶には合格できませんが、学年上位の大半が地帝(名大)に進学することがわかります。
◆3番手進学校(左)
難関大進学率10〜20%の高校です。このクラスになると、東京一工国医に進学できるのはごく一部で、地帝(名大)に合格できるのも学年上位1/4以下です。ただ、名大に一定数(30人前後)の合格者を出すため、地元では有名な進学校になります。
②愛知県の進学校 vs 首都圏の公立高校
先のグラフの右に、首都圏の公立高校を追加すると、このようになります。都立の進学指導特別推進校、進学指導重点校、都立の中高一貫校(高校募集なし)、近隣県の公立トップ校の4区分で並べています。
この全体を難関大進学率(推定値)の順に並べ直すと、こうなります。愛知県の私立2強の東海と滝も加えています。
東京一工国医に地帝と早慶を合算した難関大進学率で見ると、愛知県の進学校の上位/中位/下位と、東京の進学指導重点校の上位/中位/下位はほぼ対応していることがわかります。
一番右の愛知の3トップと同等なのが、首都圏の公立トップ校である日比谷・横浜翠嵐・浦和など。中央の愛知の二番手校に対応するのが都立の2番手校の武蔵・青山・戸山。左の愛知の三番手校に対応するのが、都立の進学指導重点校で下位の立川・八王子東、進学指導特別支援校で上位の新宿・小山台などです。
どの区分でも、東大・京大の進学率と東京一工国医の進学率は、いくつか外れ値はあるけど、同じ区分内なら愛知県も首都圏も同じ水準にあります。一方、愛知県の進学校は地帝(薄いグリーン)の構成が大きいのに対し、首都圏では早慶(グレー)の構成が大きいことも確認できます。
③愛知県の進学校 vs 首都圏の私立・国立
今度は、愛知県の私立2強と首都圏の私立・国立の主な進学校を並べてみます。おまけで灘(兵庫県)も入れています。
これも難関大進学率(推定値)の順番に並べ直すと、こうなります。愛知県の公立進学校も追加しています。
公立の比較と違い、公立トップグループの更に右に、「超進学校」とか「御三家」「新御三家」とか呼ばれる学校が並びます。人口規模の違いで、この最上位クラスの高校は、単独では愛知県で存在できないようです。
右から2番目の公立トップグループは首都圏私立の2番手と同レベルです。その左横に幅広く存在する公立2番手グループは首都圏私立の3番手と同レベルとなります。首都圏の私立は同じ首都圏の公立よりも早慶の構成比が高いため、愛知県の地帝(名大)=首都圏の早慶という傾向はより強く出ている印象です。
一番左の公立3番手グループになると、同じレベルの首都圏の私立高校が見当たらなくなります。あくまでサンプルなので、この外に存在する可能性はありますが、このレベルは首都圏の私立だとMARCHの附属校などが該当するレベルとなります。愛知県には学力レベルの高い私立大が少ない(南山大くらい)ため、このレベルの中学生は、大学附属校でなく公立高校に流れるのだろうと思います。
4. 最後に
上記のような分析の結果、愛知県と東京の進学校の学力レベル比較は、こうなりました。
愛知県には、首都圏の国立・私立トップ校(筑駒・開成・桜蔭など)に該当する高校は存在しない
愛知のトップ校(旭丘・岡崎・東海)=首都圏の公立トップ校(日比谷・横浜翠嵐・小石川など)=首都圏の私立の2番手校(浅野・武蔵・豊島岡など)
愛知の2番手校(明和・一宮・時習館・滝など)=首都圏の公立2番手校(戸山・青山など)=首都圏の私立の3番手校(芝・市川・頌栄女子・桐朋など)
愛知の3番手校(菊里・半田・瑞陵)=首都圏の公立3番手校(八王子東・新宿など)=首都圏では該当する進学校がほぼなく、MARCH附属などが該当
ただ、これは「愛知県の進学校の現在の学力レベル」と「首都圏の進学校の現在の学力レベル」を比較したものです。
一方で、愛知県出身・首都圏在住の親世代の高校のイメージは、「愛知県の進学校の30年前の学力レベル」です。今回の比較は、現時点の学力レベル比較にはなりますが、親世代の愛知県と子世代の首都圏の比較にはなりません。
そこで、次回は30年間の変化を分析した上で、愛知県出身の親世代の感覚で首都圏の現在の進学校を見るとどうなるかの比較を行いたいと思います。