弱くて強い女たち
邦題:弱くて強い女たち
現代:孤味
英題:Little Big Woman
2020年 第33回東京国際映画祭で公開された本作は日本では劇場公開はなく、Netflix独占配信。この作品のために1ヶ月だけでもNetflixに加入してもいいかもと思わせてくれる作品。
○ストーリー
音信不通だった父が亡くなり、遺された母と娘たち。自分たちの知らない父の暮らしと死の現実に向き合うことになった家族の葛藤を描く。
一家の母親を演じたチェン・シューファンは、本作で第57回金馬奨の最優秀主演女優賞を受賞。次女を演じたビビアン・スーはまた製作総指揮も務めている。出演・プロデュース・制作総指揮も務め、八面六臂の活躍を見せている姿にちょっと感動。
監督を務めたのは、本作で長編デビューを果たしたシュー・チェンチエ。個人的な経験にもとづいた本作について「この作品の重要なテーマは、時間を掛けて融和を図っていくその過程です。世界中の人々が、人の生と死を取り巻く問題や誰もが経験する憤りやわだかまりについて共感できるものと確信しています」と語っている。
○あらすじ・感想(ややネタバレあり)
この映画にはほとんど女性しか出てきません。男性は出てきても台詞は少しで存在感はほとんどなし(しかもだいたい余計な事を言います)。メインとなるのは70歳の母、3人の娘、次女の孫娘の5人の女性です。
映画の冒頭で70歳の誕生日を迎える一家の母リンはエビ巻きの屋台から始めて大きな中華料理店を経営するまでに至った豪腕な女性。三女のワンジンは母と同居し中華料理店を手伝っています。自身の年齢を考え店を譲ると言いながら、何かと経営に口だしする母と衝突することもしばしば。
長女のワンチンはダンス講師をしながら自由奔放に生きている様子。次女のワンユーは美容外科医として働きながら腫瘍内科医の夫、かわいい娘に恵まれ一見幸せに生活しているように見えます。
冒頭で音信不通だったリンの夫が亡くなるのですが、なぜか見知らぬ女性と一緒に病室に居た三女のワンジンが看取ります。音信不通だったはずではないのか?連絡をとっていたことを他の家族は知っているのか?その後リン、ワンチン、ワンユーも駆けつけ、長年会っていなかった父の亡骸と再会。よりにもよってなぜ自分の誕生日に亡くなるのか、亡き夫のベッドサイドにある明らかに女性もののハンドバッグとコートは誰のものなのか、夫の近影と思われる写真をどこかから持ってくる三女のワンジン…リンの疑念は広がり、次第に夫には懇意にしていた女性が居たことが明らかになります。
夫であり父でもあった男が亡くなったことをきっかけに、母と娘の間にはこれまで言えなかったこと、隠していたことがお互いの中に存在する、という事実から互いに目を背けられなくなり、これまで見えないふりをしていた綻びが目立ち始めます。
どの人も成長するにつれて家庭以外で過ごす時間が多くなり、家族と共有しない時間、事情が増えると思います。自分が知っていること、自分は知らないけれど他の家族は知っていそうなこと。自分の利益のために隠すこともあれば、相手を思って敢えて言わないこともあるでしょう。そうした行き違いから長年の小さな不和が積み重なり、小さな不協和音がじりじりと鳴っている様はどこの家庭にもある姿で、少し心がひりひりします。母リンの一代で財を成した女だからこその、強さゆえに、弱い姿を見せられず素直になれない様子は、多くの人に身に覚えがある姿かもしれません。所々に過去の描写をはさむ事で現在の状態に至った理由をさりげなく伝える演出、必要最低限のセリフで感情を伝える女優さんたちの演技力には感服させられます。
最後にリンがした選択は切ないですが、リンが解放されたようで、これからの明るい未来や家族の再構築がうかがえるようで、家族全体を照らすような秀逸なラストだと思います。
パズルのピースをすべて埋めなくても、必要な時に必要なピースを持ち寄ればいい、そんな気分にさせてくれる映画でした。
珍しく邦題も秀逸で、それも良かったと思います。(個人的に1番納得出来ない邦題はプライベート・ライアンです。)
自身を持っておすすめ出来る、今年のベスト映画に入りそうな映画でした。