「文化としての発酵」。下北沢・発酵デパートメントから広がるカルチャー。
下北沢に『発酵デパートメント』というお店がある。
小田急線の線路跡にできたBONUS TRACKの中に入っているお店で、「B&B」と並び当エリアを象徴するお店だ。そして、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんがプロデュースしたお店でもある。
発酵食品は、食品の中のありふれた要素のひとつであり、普通に生活していたら、特段気に留めるカテゴリでもない。何が発酵食品なのかさえよくわかっていない人がほとんどではないだろうか。
発酵食品とは、納豆やヨーグルトのような、いかにもな食品はもちろんだが、発酵調味料と呼ばれるような味噌や醤油、お酢などもそうだし、日本酒からワインまでお酒は全て発酵である。さらにはパンも発酵であり、意識するしないに関わらず我々の生活に欠かせないものであることに気づく。
この発酵に文化人類学を掛け合わせたのが、小倉ヒラクさんなのだが、このことによってカルチャーとしての側面を強くし、発酵が一気に面白そうなものとなった。Discover JapanやSpectatorのようなカルチャー誌で特集がたびたび組まれたりもしている。
発酵文化の面白いところは、人類の歴史の中で冷蔵庫という文明の利器はつい最近の出来事であるため、長いあいだ人類にとって食材を保存するか知恵を巡らせることが重要事項であり、その方法のひとつが発酵であったということだ。つまり人類の食の歴史を語る上で発酵は欠かせないのだ。
前述したように日本人にとって欠かせない味噌や醤油、お酢などはまさに発酵調味料であるし、当時の人々の大切な娯楽であったであろうお酒、日本酒や焼酎なども発酵である。当時の人々にとっては、これらは地域の主要ビジネスであり、つまり発酵食品に関連する仕事をしていた人たちは地域の重要人物であったであろうということを意味している。だから、地方に行くと醤油や味噌、日本酒の蔵が立派な蔵なのはそのためなのだ。そう、発酵の歴史を語るということは食の歴史だけでなく、各地域の歴史とも密接なのだ。
話は変わるが、広報のような仕事をしていると、未だ世の中に浸透していないサービスや文化、価値観をいかに自分事化し、共感してもらえるよう変換できるかが大事だと日々実感する。
先日、発酵デパートメントの友人とお酒を飲む機会があった。その際に興味深いことを言っていた。
「発酵食品はカラダに良さそうなもの、と見られることが多い。しかし、発酵デパートメントはカラダに良いもの、というブランディングで発信をしていない。あくまで発酵文化として面白く捉えてもらえるかを大切にしている。」
たしかに(お酒はともかく)発酵食品はカラダに良さそうなものばかりである。だが、その切り口ではダメだったのだ。健康志向の方たちの興味は引けるかもしれないが、それ以上の広がりがないし、既視感が強い。もっと多くの人たちに興味を持ってもらうために発酵文化人類学と掛け合わせて、カルチャーとしての面白さを見せる必要があったのだ。
発酵食品そのものが画期的に新しいわけではない。だが、新しい切り口を作る、つまりラベルを張り替えることで見え方が変わるということをよく教えてくれる点でも発酵文化は面白いのだ。