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トランプ返り咲きとドイツ政権の崩壊ー世界が迎える試練と変動の時代

11月6日の朝のニュースでトランプ元大統領の返り咲きが実質的に確定したことを知った。経済、安全保障、温暖化防止など幅広い分野で難しい4年間が世界を待ち構えていると気が重くなった。欧州で生活する者としては特にウクライナ問題の先行きが気がかりである。ロシアに勢いを与えるようなディールはどうすれば回避できるものなのだろうかなどと思いながら1日を過ごしていた。

夜のニュースを見ていたら、今度はショルツ首相がリントナー財務相を解任するとの速報が流れた。1日のうちに超弩級のニュースが2件というのはそうそうあるものではない。正直言って驚いた。

連立与党の一角をなすFDPが政権を離脱する兆候はその数日前から強まっていた。連立を組む他の2党が絶対に受け入れない政策方針を打ち出したうえ、妥協の姿勢を全く見せていなかったためだ。

少し遡ると、FDPの党首であるリントナー氏は9月下旬の時点で「決断の秋だ」と意味深長な発言をしていた。ドイツの政界に精通した日本経済新聞の赤川省吾欧州総局長の8日付の記事によると、10月には政府首脳が「連立はもう続かない」と周囲に漏らしていたという。「FDP出身の閣僚とSPD出身のショルツ首相の会話がめっきり減り、(…)酒が入ると番記者にディープな真相まで明かしてしまうリントナー財務相は酒量を抑え、何も話さなく」なっていたとのことだ。

3党連立の躓きの石は、一言で言えば「債務ブレーキ」である。小さな政府を是とするFDPは社会保障重視のSPD、巨額のGX支援を掲げる緑の党と政策面での相性が悪いこと初めから分かっていた。それでも政権発足当初は弁証法よろしく、異なる立場が徹底した議論を通してより高い次元へと止揚されることへの期待がなくはなかった。それまで犬猿の仲だったFDPと緑の党の議員の間にも楽観的な雰囲気があった。

だが、現実はいがみ合いと足の引っ張り合いを超えることがなかった。無理な継ぎはぎの財政に違憲判決が下った後は溝を埋めることが不可能となり、険悪さが増した。

政策実現に欠かせない妥協を拒否する傾向は特にFDPで強かった。支持率が低迷し、重要な選挙で一度も勝てなかったことから危機感が強かったのである。党員の間からは政権離脱を求める声が以前から強かった。リントナー氏は下からのそうした圧力をこれまで抑制してきたが、政権にとどまり妥協を続けると次期連邦議会選挙で全議席を喪失するという悪夢再来の懸念が強まってきたことから、今回の賭けに出たのだろう。

ショルツ政権の行き詰まりは以前から明らかだった。経済が構造危機に陥り、国際情勢も厳しさを増していることを踏まえれば、選挙の前倒しを通して新たな政権を樹立することは適切である。ただ、ポピュリスト政党の勢力が強まり、中道勢力が弱体化するなか、「アンペル(信号)」と呼ばれるSPDと緑の党、FDPからなる3党連立政権の「実験」が失敗に終わったことは、ドイツの民主主義にとって不幸なことだと思う。

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