欧州委員会新体制発足の遅れとその影響—欧州の危機対応を問う
欧州委員会の新体制が1日付でようやく発足した。欧州議会選挙が行われたのは6月上旬であることから、新たな政策を打ち出せない旧体制による場つなぎが約6カ月も続いた訳である。この間には主力産業の自動車で事業縮小・人員削減の動きが加速したり、ウクライナ情勢が厳しさを増すなど欧州は危機の様相を強めている。米国では保護主義を全面的に押し出すトランプ前大統領の返り咲きが確定した。急速に悪化する状況に半年間も対応できないことには、正直なところストレスを感じていた。
EUは超低速でしか動くことができない。以前から指摘されていることだが、EUは構造的な弱みを抱えているのである。
通常の民主主義国であれば、議院内閣制であれ大統領制であれ、選挙を通して政権が樹立されれば、新体制は速やかに動き始めることができる(連立政権の場合は時間がかかることもあるが)。一方、EUの執行機関である欧州委員会のメンバー選出は民意を代表する欧州議会の承認を受けるだけでなく、加盟各国が委員候補をそれぞれ1人、指名するという形で加盟国の利害も反映される。微妙なバランス感覚を要するこの調整に膨大な労力と時間がかかることから、新体制の発足に極めて長い時間がかかる。民主主義の原理と加盟国の利害という2つの異なる要素を接合しなければならないというところに根本的な問題がある。
平和で安定した時代ならば表面化することはないこの欠陥が現在、露わになっている。そのことは当のフォンデアライエン委員長がよく分かっており、新体制発足の演説では喫緊の課題として産業競争力の強化、ビューロクラシーの低減、防衛力の強化を挙げた。自動車産業の再建に向けては業界代表との協議などを自ら率先する意向を示している。
EUを主導する独仏両国で政権が不安定化するなか、安定基盤を持つ欧州委員会が果たす役割は特に重要だ。これまでの政策の誤りを含め問題を柔軟・機敏に解決することに期待したい。