「1917」途切れない視点と時系列が生む体験型戦争映画
*大きなネタバレの前に警告を入れています
先に言っておくとワンカットという言葉が話題となり、見た人から「ワンカットじゃない」という言葉がたくさん出たが、ワンカットで撮影しているわけではない(当たり前)というだけで映画は最初から最後まで途切れる事なく一つのカメラが最後まで連続して物語を映し続けている。サム・メンデスは子供がプレイするゲームの視点から着想を得たとインタビューで語っていたようだけど、やはりこれは映画であって FPSやTPSのゲームでは語れないものを描写している。具体的にいうと、ゲームのカメラというのは常に主人公の先を見てプレイヤーが判断をするために動かされているが、映画のカメラは背景と主要登場人物を通じて物語を描写するために動いているので絵作りは変わってくる。1917のカメラは主人公たちを正面から写し、その表情をつぶさに見せてくれるが観客に主人公たちが見ている景色はなかなか見せない。主人公たちの表情を見てその先に何があるかを知る、というような演出が目立つ。
物語はシンプル。第一次世界大戦の待っただ中、上等兵のブレイクとスコフィールドは将軍から呼びされ、ドイツ軍の罠にかかりつつある味方に攻撃中止命令を伝えるため後退したドイツ軍陣地を抜けて味方陣地へ行けと命令される。目的地にいる兄の生命を救いたいブレイクとその友人ではあるが乗り気ではないスコフィールドはいつ残存ドイツ兵に撃たれるかわからないという緊張の中、目的地へ向けて移動していく。
序盤の淡々と二人で移動していく様はけっこう好きで、三人称視点のゲームでフィールドを移動していく様を思い起こさせる。大きく違うのはゲームでは多少緊張感があっても敵が出たら戦闘して倒せばいい、ということ。倒せないような敵がいる時にはクリアするための他の手段が用意されている。しかし現実は違う。ブレイクもスコフィールドもただの兵士なので撃ち合いになればおそら一対一でも半分くらいの確率で死んでしまう。映画は二時間、物語としてもせいぜい十数時間程度の話だが、ピンチの連続というわけではなく静寂の中にこれほどの緊張感が漂う作品はそうそうない。
※ここからネタバレがあります
そもそも主人公と思っていたブレイク上等兵が割と序盤にあっさりと死んでしまう。スコフィールドは明らかに乗り気ではなかったが、歩き出したらもうあきらめるという選択肢はないと言わんばかりにゴールへ向かっていく。愚痴が出ることもなく、ブレイクへの想いが吐露されることもない。兵士だから命令に従うのか、それとも何か信条があるのか、というところもない。しかし見ているとただ前へ進むスコフィールドに驚くほど気持ちが入り込んでいく。
面白い、面白くないという軸でこの映画は語りにくい(あえていうなら面白い)
明かに自分の日常とは違う日常を自分で体験する、テーマパークやバーチャルリアリティ体験のような何か、というのが正しいかも知れない。ただ、この映画はとにかくできるだけ画と音の良い映画館で見てほしい。少しでもまよったら上映しているうちに見にいこう!