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鬼才・湯浅政明が珍しくディスられた、「日本沈没2020」

今回は、湯浅政明監督作品「日本沈没2020」について書きたいと思う。
これは例によってネットフリックスオリジナルアニメなので、見てない人は多くいると思う。
視聴環境にない方は、ネットで「JAPAN SINKS2020」というワードを使って無料動画を探してみてください。
多分、見つかると思います。

「日本沈没2020」(2020年)

で、この作品はタイトルでお分かりのように、小松左京先生の不朽の名作のアニメ化なんだが、ぶっちゃけ原作の原型はとどめてない感じ。
原作は、科学者であったり政治家であったりが色々出てきたけど、「2020」の方はそういうのがほとんど出てこず、災害からただ逃げ惑う一般人が主体で描かれている。
主人公は中学生の女の子と、その弟である小学生。
この形は、名作「東京マグニチュード8.0」に酷似してるわな・・。

「東京マグニチュード8.0」(2009年)

この「東京マグニチュード」の2年後に東日本大震災が起き、それを踏まえた上での「2020」なんですよ。
で、実際被災された方々がたくさんいらっしゃる上でのアニメ制作ってこともあり、作り手としては正直やりにくかったと思う。

「実際の震災はこんなもんじゃない!」


と言う人たちは必ず出てくるから。

「被災者に配慮する意味で、こういうアニメは作るべきではない!」


と言う人たちもいる。
そういう一部の声が、表現者の創造性を今後もどんどん狭めていくんだろうね。
まぁ、しようがないんだけど・・。
で、実際「2020」は結構ディスられたみたいで、特に問題とされているのは地震によって荒廃した日本が無法地帯化し、めっちゃ治安悪くなってる描写があったことさ。
2011年の大震災の際には、逆に日本人が災害時であろうとモラルを遵守してたことが世界中から絶賛されたわけだが、なぜか湯浅さんは敢えて今回その逆を描いている。
それは、なぜ?
普通に考えて、この作品が「2020」だからでしょ。
つまり、「2011」じゃないってこと。
そもそも、日本人の在り様を全てを「2011」基準で考えるのはさすがに甘いと思う。
事実、大正の関東大震災の時には被災者同士の殺し合いが頻発したわけですよ。

仮に今、再びあのクラスの大震災が日本で起きたとして、そこでも

いえいえ、日本は災害時も治安がよく、誰しもモラルを守って行動するものなんですよ。だから今回も大丈夫大丈夫

と断言できますか?
私は正直、そう思い込んでしまうのは危険だと思うなぁ。
誰しも一を見て百を知ったつもりになってるものだが、実際に百は見てないわけよね。
2011年だって、みんなの見えてないところで結構ヤバい流れはあったんじゃないのか?

日本沈没を前に、婦女子をレイプしようとする鬼畜
そして殺し合いも起きる

で、とにかくこの作品、人が次から次へと死んでいくんですよ。
まぁ、大地震が頻発して火山も噴火して、列島がまるごと沈むんだから死者が出て当然である。
ただ、最初のうちはそれらの死を不幸とばかり捉えていたんだが、ドラマも後半に入ってくると、だんだん死の意味が変わってくる。
というのも、もしこれから死ぬにしても、その死を有効活用しよう、という人たちが出てくるのさ。

これから未来のある子供たちの為に、自分の命を使おう。
せめて子供たちだけでも生き延びさせ、未来に繋ごう。


ドラマは終盤に向かうにつれ、こういうベクトルが出てくる。
まぁ、こういう展開もまた、本作がディスられてるポイントかもね。
とはいえ、こういうベタな展開がまた泣けるんですよ・・。

思うに、数ある湯浅作品の中でも、本作は一番泣けるんじゃないかな?

で、「みんなの犠牲の上に最後まで生き残った存在」というのが、主人公の姉弟なのよ。
ホント、「生き残った」というより、みんなに「生かされた」存在である。
独力ならば、非力ゆえ真っ先に死んでいたであろう2人。
いや、これでいいのよ。
2人はみんなの生命を背負って今後生きていくんだから、きっとテキトーに生きることはまずあるまい。
今後、しっかり生きていくはずだ。

主人公の歩(左)と剛(右)

この2人、実は日本人とフィリピン人のハーフである。
二重国籍なのかどうかは知らんけど、とにかく日本人のアイデンティティとしては割と曖昧な立ち位置。
日本を「俯瞰」できる人材として、敢えてこういう設定にしたんだろう。
ちなみに、姉・歩は日本贔屓なのに対して、弟・剛の方はあまり日本のことが好きではないっぽい。
で、作中には日本人のみならず、複数の外国人被災者も出てくる。
こういうところも、徹底して「俯瞰」なんだよね。
普通、こういう日本国内の災害モノとなれば、日本人の日本人による日本人の為の物語、つまり「日本人主観」の物語になるものだろうに、湯浅さんは敢えてそうしなかったところにこそ、この作品独自のオリジナリティがあると思う。
ゆえに、「やっぱり日本人は素晴らしい!」というような、美化する描写が少ないんだわ。
私はそれもありと捉えたけど、人によってはそれも違うようで、これを嫌日作品と捉える人すらいるらしい。
いやいや、さすがにそれはないって・・(笑)。
この作品の狙いは主観でなく俯瞰、つまり「イイところも悪いところも併行して描く」であり、もともと日本を美化することを目的にしていないだけのことだよ。

サイエンスSARU2代目社長

ちなみに、上の画の人はこの作品の制作会社・サイエンスSARUの社長であるチェ・ウニョンさん(韓国人女性)。
もともとSARUは、湯浅さんとチェさんのふたりで作った会社である。

そうか、韓国人が社長の会社だから、「2020」は日本人を醜く描いたのか!


とか、くれぐれも短絡的なこと言わないでくださいよ。
実際、そういうこと言う輩もいたみたいだけど。
そもそも、湯浅さんの愛弟子なんだから嫌日なわけないじゃん。
ちなみに、湯浅作品には必ず絡んでくるアベル・ゴンゴラというフラッシュアニメーターがいるんだけど、この人はスペイン人ね。
SARUは、正直めっちゃ国際色豊かなスタジオなのよ。
このへんは、「2020」の登場人物が国際色豊かなのと無関係ではないかも?

サイエンスSARU初代社長・湯浅政明

ホントさ、湯浅政明っていい意味で作風に一貫性がないというか、バラバラなんだよね。

【2004年】マインドゲーム
生き返って人生やり直し系コメディ
【2006年】ケモノヅメ
食人鬼×食人鬼ハンターのダークファンタジー
【2008年】カイバ
記憶を売買できる未来社会の鬱系SF
【2010年】四畳半神話大系
パラレルワールド系青春コメディ
【2014年】ピンポン
卓球を題材にした青春ストーリー
【2017年】夜は短し恋せよ乙女
「四畳半神話大系」のスピンオフ
【2017年】夜明け告げるルーのうた
人魚の少女×人間の少年の青春ファンタジー
【2018年】DEVILMAN crybaby
悪魔vs悪魔と融合した少年の鬱系ホラー
【2019年】君と、波にのれたら
死んだはずのカレシ×カノジョの純愛ストーリー
【2020年】日本沈没2020
サバイバル系ロードムービー
【2020年】映像研には手を出すな!
アニメ制作を題材にした青春ストーリー
【2021年】犬王
室町時代を舞台にしたミュージカル劇

なんつーか、めっちゃ振れ幅広い。
常に新しいジャンルにチャレンジしようという、湯浅さんのクリエイターとしての野心が見て取れるわな。

この素晴らしいラインナップの中で、おそらく最もディスられた作品が「2020」である(笑)。


いやね、ちゃんと一方で褒められてもいるのよ。
文化庁メディア芸術祭では審査員特別推薦作品にチョイスされてるし、またアヌシー国際アニメーション映画祭(カンヌのアニメ部門)では審査員賞に選ばれてるし。

まぁとにかく、問題作としても一見の価値あり、ですわ。
未見の方は、是非ご視聴ください。


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