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たまにはオシャレなアニメを見よう!「ハートカクテル」
皆さんは、「流行」というものをどのぐらい意識してますか?
これはあくまで私の感覚ではあるが、そういうものに無頓着な人は案外多いと思う。
「流行とか気にしてもしようがない、私は私」というマイペース派が、昔に比べて今はめっちゃ増えてる気がするのよ。
1970年代ファッション
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1980年代ファッション
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1990年代ファッション
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多分だけどね、90年代までは確実に時代の「流行」があったと思うんだ。
街を見てても「みんな似たような恰好してるなぁ・・」と思うことがあり、時代ごとにその変遷があったわけさ。
・・だけど、一体いつの頃からだろう。
いつの間にやら、「みんな似たような恰好」というのをあまり見なくなってしまった。
みんな、バラバラである。
感触として、特に00年代以降はそういう傾向が強まったように感じるのね。
だから、「2000年代」「2010年代」「2020年代」のファッションを並べてみたところで、上の「1970年代」「1980年代」1990年代」みたくハッキリとした時代の差異が見えてこないんですわ。
あるいは、年代ごとの差異が無くなった?
このへんは00年代がひとつの境になってることから考えて、
・パソコン/ケータイの普及、社会全体へのネットの浸透
・それに伴う、テレビの影響力低下(芸能人の影響力低下)
というのが一因になってるだろうね。
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ネット普及の前は、テレビが圧倒的に時代の流行を生む最強のツールだったのよ。
たとえば、トレンディドラマがライフスタイルのひとつの指針になったり、芸能人というのは大衆のファッションリーダーとなる役割を担っていたものである。
「ねぇねぇ、昨日のテレビでアムロちゃんが着てた服、見た?」
「見た見た~、あれイイよね~、今度買いにいこうよ!」
みたいな会話が、ごく普通にあったんだ。
少なくとも、90年代までは・・。
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・・でも、00年代からはファッションリーダーの意味が少し変わってきたと思う。
一応、「インフルエンサー」なるファッションリーダーは存在するものの、逆にそういうのがたくさんいすぎて、ひとつの大きなうねりには成り得ないんだよね。
アムロちゃんは引退したし・・。
ある意味、アムロちゃんは別の形↓↓で健在だけど。
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こういうコスプレを<ファッション>と解釈していいのか難しいところだが、このてのものの台頭と反比例するようにして、「ファッションの流行」が時代の中で目立たなくなってきたのは紛れもない事実である。
つまり、両者の間には何らかの因果関係があると解釈すべきだろう。
流行vsオタク文化
TVドラマvsアニメ
リア充vs非リア充
もともと両者は敵対する関係だったというか、社会のカーストではオシャレ系が上位、それとは逆のオタク系が下位と相場が決まっていたものである。
少なくとも90年代まで、このカーストは間違いなく強固なものだった。
・・ところが、00年代ぐらいからこれが少しずつグラつき始めたような気がするのよ。
オシャレ系「ハッピーマニア」を描いてた安野モヨコ先生が庵野秀明と結婚した瞬間(2002年)、大きく何かが崩れた気がする・・。
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それまでは、「自分がオタクだと思われるのは恥ずかしいこと」というのがひとつの社会常識だったのに、それがいつの間にか「オタクは恥ずべきことじゃない」という認識が多くなり、気が付けば社会そのものが少しずつ変容し始めたんだよね。
まぁ、そういうのも「アメトーーク」や「やりすぎ都市伝説」など芸人さんたちが果たした役割はめっちゃ大きかったと思うけど。
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個人的には、「いい時代になったなぁ・・」と思う。
だがその一方で、妙にカッコつけてた90年代までの時代の空気感を懐かしく思う気持ちも正直どこかにあるのよ。
う~む、このへんの複雑な思いを言語化するのは難しいなぁ・・。
なんつーか、今の時代はみんな昔みたくカッコつけず、カジュアルに生きるようになった分、何か<大切なもの>がすっぽりと失われてしまったような気がするんだよね。
で、今回皆さんにご紹介したいアニメが、バブル期を知る人ならよくご存じだろう、わたせせいぞう「ハートカクテル」である。
「ハートカクテル」
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あぁ、この絵の感じ、見たことある・・と誰しも思うだろう。
もともとこれは80年代に週刊モーニングで連載されてた漫画で、私は個人的に、この作品ほど80年代の空気感を象徴的に描いたものはないと思うんだよね。
いやホント、率直にいってしまえば
アンチオタクのイデオロギーを貫いたリア充系漫画
である。
大体が1話完結型の小粋なラブストーリーであり、鼻につくほどオシャレなテイストなのよ。
画を見ての通り、キャラは人間としての生々しさは皆無で、みんなつるんとしたビジュアル。
ファッション的にダサい人はひとりも出てこない。
デブとかハゲとかも出てこない。
キャラクターTシャツ着て、紙袋持ったタイプとかは論外である。
・・うん、これは多分ファンタジー世界なんだろうね。
イケてる男女ばかりが集うユートピア、といったところか?
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だから漫画というより、読者はファッション誌か何かを見る感覚で「ハートカクテル」を楽しんでたんじゃないだろうか?
・・こんな漫画、誰得?
と感じる人もいるかもしれない。
でも、これはしっかりアニメ化までされてたし、おそらく人気あったんだと思う。
80年型リア充の規範、つまり、あの時代における生き方の模範解答のようなものだったのでは?
見たことないという人もいると思うので、じゃ、実際に本編を見ていただきましょう。
オシャレやなぁ~!
しかしこの作品は、特にメッセージ性が強いわけでもなく、特に笑えるでもなく、特に泣けるでもなく、ちょっと小粋なお話というだけの内容である。
クセがないから嫌う要素はなく、かといって猛烈に好きになるほどの要素もない。
言うなれば、「水」のようなアニメさ。
渇きを癒す以外、これといった栄養素があるわけでもないのが「水」というものである。
牛乳みたくタンパク質/カルシウムがあるわけでなく、果汁のようにビタミンを含むわけでもない。
多分、80年代というのはそういう空気感の時代だったんだろう。
それこそ、60年代全共闘のような怒りがあるわけじゃなく、かといって70年代ヒッピーのようなニヒリズムがあるわけでもない。
ただ、80年代には「バブル経済」があり、ワンランク上の人生というものを誰しもが意識した時代だったんじゃないだろうか?
その「ワンランク上」の規範を見せてくれたのが、わたせ先生だったのかもしれないよね。
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同時代、少年誌では「北斗の拳」がオトコノコたちに人気だったとはとても思えないでしょ?
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わたせ先生は、作中に絶対こういう肩パットつけた男性を出してこなかった。
というより筋肉ムキムキがまず出てこないし、どっちかというと体毛もほぼ無さそうなオトコばかり出てくるのよ。
・・まぁ、「北斗の拳」みたいな厨二からは早いこと卒業して、ちゃんと「ハートカクテル」を読むオシャレなオトナになりなさい、というのがこの時代の空気感だったかもしれん。
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・・あ、言っときますけど、今回のテーマは「オシャレなアニメ」ですからね?
敢えて、オシャレ系をもう1本ご紹介させていただきましょう。
小説家の片岡義男先生って知ってます?
「ボビーに首ったけ」
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わたせ先生とはベクトルがだいぶ違うものの、片岡先生もまたオシャレなんですよ。
仮にわたせ先生の象徴が「オープンカー」だとすりゃ、片岡先生のそれは「バイク」だね。
よって、オトコノコにはこっちの方がフィットするかもしれん。
先生は他にも「スローなブギにしてくれ」「彼のオートバイ、彼女の島」「湾岸道路」などが有名かな。
で、個人的に「ボビーに首ったけ」は、ちょっとした隠れ名作だと思ってるのよ。
作画が、めっちゃいいんだわ。
キャラデザが「BANANAFISH」の吉田秋生先生で、原画にはなかむらたかしさんや森本晃司さんが携わっている。
ラストのバイク疾走シーンとか、よくこんなスゲーの描けたな・・と思う。
じゃ、これも本編を見ていただきましょう↓↓
ちなみに、エンディングアニメーションのデザインは、わたせ先生でしたね。
いやいや、これもオシャレやなぁ~!
一応バイクが出てくるからといって、当時の少年誌みたく
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こういうタイプを片岡先生は出してこないんですわ。
でもまぁ、バイク繋がりということで「北斗の拳」と「ハートカクテル」の中間に位置するのが片岡作品であり、80年代のオトコノコの成長過程は
武論尊⇒片岡義男⇒わたせせいぞう⇒村上春樹
というのが、ひとつのステップだったんだと思う。
このマニュアルから逸脱して、武論尊のままオトナになる子は「オタク」という烙印を押されてしまう。
クリスタルキングの「YOUは SHOCK♪」とか唄ったら白い目で見られることは必至で、ちゃんとジャズとか聴いてるのが正しいオトコのスタンス、という時代である。
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こういうトゲトゲ肩パットは、たとえ購入しても知人/友人に知られないようこっそり自室で着用するしかなかった時代。
異端審問に備えて、興味なかろうと村上春樹はとりあえず読んでおかなきゃいけなかった時代。
やむなく、トゲトゲ肩パットを着用して村上春樹を読んでいた時代。
言うなれば、ある一定の時期までのオタクは「異端」みたいな存在だったんだと思う。
いや、逆にそうであったからこそ、揺るがぬ愛がそこで培われたともいえるんだが・・。
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今は、こういうコスプレも自由にできる時代になって良かったよね。
「ボギーに首ったけ」のテイストとは真逆ではあるが・・。
そういや、「ハートカクテル」のコスプレとかほとんど見たことない気がするし、誰かやってあげてください!
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