
Helixで“ヒト型ロボット”はどこまで進化する?
~Figure社が狙う「Giving AI a body」の最前線~
こんにちは、中村稔です。今回は、米国シリコンバレーのAIロボティクス企業「Figure社」が、最新のヒューマノイドロボットと独自AIシステム「Helix」を開発している話題をご紹介します。わずか数年のうちに大規模な資金を調達し、独自の二足歩行ロボットと先進のAIを一体化しようとするFigure社。その企業概要から資金調達、提携関係、そしてHelixテクノロジーの詳細まで、一挙に深堀りしていきましょう。

1. Figure社とは? ~会社概要と急激な成長ぶり
1-1. シリコンバレー発のAIロボティクス企業
創業: 2022年
本社: カリフォルニア州サニーベール
CEO: ブレット・アドコック(Brett Adcock)氏
主業: 汎用ヒューマノイドロボットの開発・製造
Figure社は、人間と安全に協働できる自律型ロボットを創り出すことをミッションに掲げています。世界的な労働力不足や危険作業を代行するロボットの導入によって、生産性向上と社会課題の解消を目指しているんです。
1-2. 驚異の資金調達
2024年2月、シリーズBで6億7,500万ドル(約900億円近く)を調達し、企業評価額は26億ドルに到達。
MicrosoftやOpenAI、NVIDIA、Amazon産業イノベーション基金、ジェフ・ベゾス氏などが出資。
さらに2025年初めには15億ドルの追加調達を検討中で、実現すれば評価額は約395億ドルに達する見込み。
膨大な資金力を背景に、ロボット研究開発を加速させ、まだ本格的な売上が立っていない段階でも圧倒的な成長を見せています。

2. 製品・サービス-二足歩行ロボット「Figure 02」
2-1. 人型ロボットを選んだ理由
Figure社がヒト型(二足歩行)という形状にこだわるのは、人間社会に最適化されたインフラとの相性を最大化するためです。ドアを開けたり階段を上ったり、工具を使ったりする場面で、ロボットが人間と近い身体性を持つことが有利に働きます。
2-2. Figure 02のスペック
高さ: 約170cm
体重: 約70kg
最大持ち上げ重量: 約20kg
バッテリー駆動時間: 約5時間
最大歩行速度: 毎秒1.2メートル(時速4.3km)
騒音や排気ガスを出さない電動駆動に加え、屋内外で人間のような動作が可能。製造業や物流、さらにはサービス業など、多彩な現場で使われることを想定しています。
2-3. BMW工場でパイロットテスト
2024年1月からは、BMW社の米国工場(サウスカロライナ州スパータンバーグ)にて試験運用を開始。実際の自動車組立ラインでロボットが働けるかを検証中であり、商用導入に向けた重要なステップを踏んでいます。

3. Helixテクノロジー‐ロボットの“頭脳”を刷新する大技術
3-1. なぜ独自AIへ切り替えたのか
当初、Figure社はOpenAIとの協業で大型言語モデル(LLM)の活用を目指していました。しかし**「汎用LLMは物理ロボットへの実装には不十分」**と判断し、2025年に独自開発のAIモデル「Helix」を公開。ソフトウェア面を自社内製し、ハードとの一貫開発を強化する方針へ転換したのです。
3-2. Helixの4大特長
Vision-Language-Actionモデル
カメラ映像(視覚)、音声指示(言語)、そしてロボットの動作(アクション)を統合的に扱う仕組み。全上半身の連続制御
頭部・腕・手首・指先などを高周波で制御し、「人間に近い滑らかな動作」を実現。複数ロボットの協調
1つのAIモデルで2体以上のロボットを同時制御できるため、共同作業が円滑に。“何でも掴む”汎用操作
初めて見る物体でも、視覚と言語情報をもとに正しく認識し、確実に掴む動作を実行。
ポイント: Helixは単一の汎用ニューラルネットで多様なタスクをカバー。これこそが“ロボットの脳”として革新的と評されています。

4. Helixの応用例と実力
4-1. 家庭での家事支援
Helix搭載ロボットは、想定外の物体でも即時に認識し扱うことが可能。例えば「キッチンテーブルの上から食器を片付ける」作業や「買い物袋の中身を棚に収納する」作業など、人間の家庭環境で応用可能なシナリオを既に実証済みだとか。
4-2. 倉庫や小売業でのピッキング
様々な形状やサイズの商品を取り扱う物流・小売業の現場でも、自然言語で指示→ロボットが動くという形でスムーズに作業を代行。柔軟な物体把持能力により、多種多様な商品をミスなく扱える可能性が注目されています。
4-3. サービス業・介護分野
未知の環境や予測不能な状況が多いサービス・介護領域で、Helixの汎用性は大きな強み。家電操作や複雑な移動サポートなど、人手不足が深刻な場面への応用が期待されています。

5. Figure社のパートナーシップ
5-1. BMW社との協業
先述の通り、BMW工場での試験運用が本格化。自動車組立ラインにヒューマノイドが立ち入るという、産業界にとっては画期的な取り組みです。
5-2. Microsoftとの提携
クラウド基盤AzureでのAI訓練・シミュレーションを提供し、Azure Kinectなどのセンサーデバイスとの連携も見込まれています。Microsoftはビジネス面の販路開拓にも協力する姿勢を明確に示しており、Figure社ロボットの普及を後押し。
5-3. OpenAIとの提携から離脱
一度はOpenAIと協力関係を築いたものの、Helix開発のブレークスルーを機に2025年初頭に協業解消。今後は自社内のAIモデルに専念し、ロボット制御を“ハード+ソフト”一体で最適化する方向性を強めています。

6. 今後の展望‐大量生産と社会実装
Figure社は、ヒューマノイドロボット「Figure 02」を大量生産し、多くの現場に導入するビジョンを掲げています。特に人手不足が深刻化する製造・物流・小売・介護といったセクターを中心に、ロボットが人間を補完する形で働く未来像を描いているわけです。Helixがロボットに自律的な学習・進化を与えることで、導入後も継続的に能力を向上させる仕組みを整えようとしているのが興味深いポイントですね。
今後は、複数台のロボットが連携して家庭内や工場内の作業を高度に自律化するシナリオも視野に入っており、業界の注目度が急速に高まっています。高リスク作業や危険環境でのロボット利用で、人命を救い労働安全を向上させるという社会的価値も期待できるでしょう。
まとめ‐ロボットの“身体”と“脳”を垂直統合するFigure社の挑戦
「AIに身体を与える(Giving AI a body)」というビジョンの下、Figure社はハードウェアとAIを自社で垂直統合し、今までにない汎用ヒューマノイドロボットを生み出そうとしています。
Figure 02: 人型の本体で、人間並みの動作をカバー
Helix: 視覚・言語・動作を結合し、複雑なタスクを1つのモデルでまかなう革新的システム
この組み合わせによって、未知の物体や想定外の状況に対しても柔軟に対処できる“ロボット”が誕生する可能性が見えてきました。
急激な資金調達や大企業との提携など、技術面だけでなくビジネス面でも大胆に前進するFigure社。次世代のヒューマノイドが実際に私たちの生活を支え、職場で活躍する日はそう遠くないかもしれません。
それでは、また次回!
中村稔 でした。
