本物の拳銃を見た!
アメリカではご存じのように、銃器の所持は許されている。国内では約3億丁の銃が所持され、3~4人に一人は所持していると言われる銃社会。移住する時も多くの友達から銃撃に気を付けて!などと言われた。しかし、案に反して10年間の居住中、一回も銃に接する機会はなかった。ただ、1回を除いて・・・
ハリウッドならでは、と思える経験だった。
入り口には小山のような巨体の黒人のガードマンが立っていた。目付きが鋭く、仁王立ちで右手を拳銃に手をかけてこちらを睨みつけている。怪しい動きをしたらすぐに撃つぞ!の雰囲気が漂っている。
CDストア「Opus」の経営状態が急速に悪くなっていた時期。パサデナの一等地にせっかく買ったコンドミニアムも売り払い、店舗のレントの支払いに充てた。でも、そのお金もすぐに消えてしまっていた。ついに売るものが無くなった、と思ったが……そうだ、少額だが私のネックレスやリングがあった!と気が付く。早速、電話でハリウッドの質屋(Pawn Shop)を探し、アポイントを取り、引き出しにしまい込んでいたK18のネックレスや小さなダイヤの付きのリングを用意し、長男と車を飛ばす。
それはBank of Americaのビルの3階にあった。5階建てのコンクリート造りの地下の駐車場に車を停め、エレベーターで3階を目指す。ドアが開き、降りるとすぐ前にガラス戸があり中が見える。ガラス戸は少し曇っていて、きっと防弾ガラスに違いないと思えた。その黒人のガードマンはガラス戸の向こうで奥のオフィスのような部屋を遮るように立っているのだ。名前を言ってアポイントがあることを伝えると、奥のオフィスのドアを開け確認する。女性の声で
「Yes, come in.」
の声が聞こえた。すると、やっと、ガラス戸を開けてくれた。中に入りガードマンの横をすり抜けるように歩くと、彼は私達を注視しながら歩きに沿って巨体の向きを変えて行く。その間も決して拳銃から手を放さない。
拳銃の種類は分からないが、日本の警官が所持しているものよりはるかに大型で薄気味悪く黒光りしている。これほど拳銃を間近に見るのは初めてで、拳銃としての実感が迫る。米国の犯人の検挙率が悪いのは、逮捕する前にすぐにも射殺するから、と聞いたことがある。向こうもこちらが髭面の息子が一緒だし、一種の恐怖なのかもしれないとも思う。それにしてもずっと手を拳銃に掛けている黒人の大男の迫力ある存在は本当に怖かった。
その質屋は父親の代から60年間経営していると言うユダヤ系の姉妹2人の店だった。部屋の中ではニコニコ顔の金髪の40歳代と思われる女性が待っていてくれた。彼女のデスクの上には「クリントン大統領」と並んで映した写真が置かれ、「信用度」をアピールしているかの様。
オズオズと出した私のリングやネックレスを調べて、
「ヒナコのジュエリーはデザインは良いのだけれど、”石(つまり、ダイヤモンド)”が小さいからねぇ」
と言って優しく微笑む。
「あ~、駄目なんだ」
と思った私に、
「では、2300ドル貸しましょう。利息は年率22%」
とケロッとした表情で言う。
買った時の価格の大体1/5の金額、そして、驚愕の利息!
でも、その時の私達はそんな利息でも借りるしかなかった。
部屋の隅には横に長いガラスケースがあり、中には燦然と輝く宝石類が値札を付けて売られている。受け出せずに流れてしまった宝石類の売却コーナーだ。派手で見た事もないような珍しいデザインも多く、もしかしたら大女優なども売りに来ているかもしれないとも思う。いかにもハリウッドらしい光景だ。
私達は3か月間の借用書にサインをし、2300ドル(当時の30万円弱)のキャッシュを手にし、巨体のガードマンにエレベーターまで見送られながら、地下の駐車場に戻る。緊張が解けてホッとしながら、ヤシの木が立ち並ぶ映画の街ハリウッドを後にした。
「Pawn Shop」のお蔭で一時的には危機回避にはなった。
しかし、その額では言ってみれば「焼け石に水」だったが・・・