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雨の日のお友達

小学生低学年の頃…いや、もしかしたら幼稚園に通っていた頃だっただろうか。梅雨時の大雨が通り過ぎた後の水溜まりだらけになったグラウンドで、待ち切れなかった僕らはキャッチボールをしていた。
兄と兄の友達と僕。僕は幼い頃いつも兄に着いてどこへでも行っていた。よくみんなで遊ぶ時に弟と一緒に遊びにくる友達のその弟だった。

兄がピッチャー、兄の友達がバッター、そして僕は外野。今考えればボール拾いのような役回りだったのかもしれない。それでも飛んできたボールをただ追いかけるのが好きだった。
カキンと音がして打球が水溜りを掬ってボールが勢いよく転がっていった。そのボールは僕が諦めるほどの勢いで草の茂みへと入っていった。
僕は小さな歩幅のまま草の茂みへと向かい、すぐに見つかったボールに手を伸ばそうとした。
しかしジッと見つめる何かと目があって僕は思わず驚いて伸ばした手を引っ込めた。

すると後からやってきた兄の「これウシガエルだよ!」と楽しそうな声でハッとした。そうか…これが図鑑で見たウシガエルなのか…と。そのまま兄と兄の友達は小学校の職員室に駆け込み、当時の担任であった理科の海野先生を呼んできた。
"うみの"と書いて"うんの"と読む。その当時の僕にとっては不思議だった苗字はやけに鮮明に残っている。
ゆっくりと職員室からやってきた穏やかでいかにも優しそうな白髪混じりのおじさん先生は「これは大きいねぇ〜」と嬉しそうに言った。
ただ見つけただけなのにどうしてか僕まで嬉しい気持ちになった。きっとウシガエルだって同じ気持ちに違いない。当時の僕の身長からしたらウシガエルは相当な大きさだった。まるでモンスターのようだった。

海野先生は横にあるボールをヒョイと拾い上げ僕に渡して「こんなに大きいカエルってことはこの辺りのヌシかもしれないね。いたずらしないでそっとしておきなさい」と僕らにイメージ通りのゆっくりな口調で話した。そしてそのままゆっくりと職員室へと戻っていった。きっとそのあとコーヒーでも淹れたのだろう。なんとなくそんな気がする。

そのあとすぐにプレイが再開されたグラウンドでは外野からほど近いところでヌシと呼ばれたウシガエルが唯一の観客となった。
いまでもなぜか雨の日になるとあの茂みで目があったウシガエルのことを思い出す。

今日、仕事で会った海野という苗字の人を見てそんなことを思い出した。その人もまた白髪混じりの優しそうな笑顔をする穏やかな人だった。きっとこの人もコーヒーが好きだろう。

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