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悦楽歌謡シアター「蘭獄姉妹の異様な妄想」*演劇鑑賞
わたしと演劇
いつも、歌人として短歌の記事を書いているわたしが、noteに演劇鑑賞を書くのは初なので、わたしと演劇についてふれておきたい。
学生時代、友人に「舞台を一緒にやろう。だから佑子さん脚本書いて!」と言われたときは耳を疑った。(文芸活動を一緒にしてきた友人は、わたしに、演劇や短歌を教えてくれた。)それで突然演劇をかじって、実は旗揚げした劇団で3回公演を打った。
当時、好きだった舞台人は、若くして亡くなった人もいれば、芸能界で大成功している人もいる。しかし今は、どんな劇団やどんな演劇人がいるのかは全く知らず、演劇をやっている人と知り合うたびに、その芝居を観に行くというスタイルで、演劇を楽しんでいる。知り合うのは、だいたい飲み屋だ。一緒に酒を飲んで楽しい人の芝居は、たいていおもしろい。(異論は認める)
わたしはこの芝居の主宰、小幡悦子さんと入谷の文芸・演劇サロン銀狐にてお会いした。演劇の話しをしたわけではないが、一緒に飲んで楽しい方だった。特にチラシのデザインが気に入って、さほど観に行く気はなかったのだが、捨てずにとってあった。
先日デスクの整理をしているときに、そのチラシが出てきた。もう公演終わっちゃったかな?とよく見れば、あさってまでだった。しかも予定は空いていた。こういうのは虫の知らせのようなもので、観に行くべきサインだ。
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「蘭獄姉妹の異様な妄想」感想
そうしてわたしは、小幡悦子さんとチラシの雰囲気だけを頼りに、単身観劇に赴いた。始まった瞬間、これはヤバいところに来たなと思った(笑)かつて数々の小劇場で芝居を観てまわった中では、むろんアタリもハズレも経験した。経験から思うにこれは、きわどいやつだ!かなりきわきわだ!(笑)
でも小幡悦子さんを知っていたから、わたしは信じて観た。どんどん引き込まれて、異物感を漂わせる不気味な登場人物たちが、愛すべきキャラクターへと認識が変わってゆく。
小劇場の良さである、狭さ近さ。日常のわずらわしさをぶっ飛ばしてくれるエネルギーを浴びるように感じられる、わたしの好きな小劇場の芝居だ。
結論をいうと、おもしろかった!
正気と狂気のあわいを描く芝居。支離滅裂になりかねないが、すべては計算されコントロールされた、成功した狂気だった。みな、絶妙に狂っていた。みんな違って、みんな気違い。実は現実も、そうなのでは?
嘘とほんとってなに?おもしろいってなに?夢と現実ってなに?
五感で認識しているすべての真偽を揺さぶる問いかけが溢れている。
〈演劇(芸術)に多くを背負わせちゃダメ〉というメッセージは、特に表現者の端くれであるわたしの心に深く刺さった。意味やメッセージ性を持たせようとすることで、表現が陳腐になってしまうことはよくある。意味の必要性さえも揺さぶられる。これはもう哲学だ。『ソフィの世界』や『はてしない物語』のような哲学ファンタジーのようだと言ったら過言で、そんなに高尚ぢゃないのだが、でも哲学ファンタジーかもしれない。
素晴らしい脚本と演出。その中心で演じる小幡悦子さんと歌川恵子さんは、円熟したご年齢の演者でありながらまだ数年の演劇人というから驚きだ。でも、だからいいのだ。現実をよく知っている大人だからできる、狂った芝居だ。人生経験があるから、破れる殻があるということを見せてもらった。
最近、常識とされていることへの違和感や、そのせいでストレスを感じていたわたしは、頭がすっきりした。
家に帰ってチラシを見返せば、似顔絵が実際の演者そっくりで笑いがこみ上げてくる。このグラフィックも小幡悦子さんが手がけているらしい。まんまと観に行っちゃったなあw
最後に、この感想を短歌にしたので、添えておきます。
短歌作品 「悦楽歌謡シアター」 淀美佑子
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悦楽歌謡シアター
整然と並ぶパイプ椅子の上のチラシは異界をのぞかせる窓
明滅をする照明が脳髄をくすぐるやうに始まる舞台
飛び上がる役者が着地するたびに座席が揺れる小さき劇場
虚と実が掻き乱されて日常が揺らぐ役者の叫びのなかで
現実を知る大人ゆゑ常識を丹念にすりつぶす演技で
殻を破れただし自己責任でと言ひそうな人に観せたい芝居
進みゆく〈道なき道〉は道ぢやなく未知だ駄洒落ぢやなくてマジだが
でたらめの中に一縷の真実を観て踊りだす正気のままで
観劇といふより目撃したそれは〈蘭獄姉妹の異様な妄想〉