濃厚接触者に対する休業手当の支払い義務はあるの?無いの?の答え〔新型コロナウィルス/オミクロン〕
労働契約法第6条では、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」とされ、賃金は労働の対価として支払われるものですから、労働者が労務を提供していることが前提であり、これが為されない場合には使用者が労働者に賃金を支払う必要がないとされています。
これが、「ノーワーク・ノーペイの原則」と呼ばれるものです。
しかし、労働者が休業する場合、その休業の原因が「債権者の責めに帰すべき事由(民法536条2)」や、「使用者に責に帰すべき事由(労基法26条)」により労務の提供ができなくなったと評価される場合には使用者が賃金の支払いを拒むことは出来ず、民法基準であれば反対給付の履行(100%)、労基法基準であれば休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い義務が使用者に発生します。
民法基準では、故意・過失又は信義則上故意・過失と同視すべき事由が必要であるとされるのに対し、労基法基準は民法よりも範囲が広く、回避することが困難なものであっても使用者の領域において生じたものといい得る経営上の障害も、天災事変などの「不可抗力」に該当しない限りはこれに含まれると解釈するのが相当とされています。
コロナ関連の使用者による一般的な休業要請は社会的に是認されるべきものであり、民法基準を満たす事は考え難くこの労基法基準の適否で考えれば良いでしょう。
労基法基準の「不可抗力」を満たすためには以下の2つの要素をいずれも満たす必要があると考えられています。
まず1)の「休業の原因が外部から発生したもの」という点については、新型インフルエンザ等対策特別措置法(新型コロナ特措法)に基づく緊急事態宣言やこれに伴う休業要請はこれに当たると考えて頂けると思います。
次に、昨今オミクロン株で急激に増加している濃厚接触者に対する休業要請は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(平成十年法律第百十四号)第四十四条の三第1項に基づく国立感染症研究所「積極的疫学調査実施要領」により判断される保健所の判断により為され、特措法に基づく要請よりも幾分緩やかであるもの基本的に1)と考えて頂いて良いです。
即ちいずれのケースでも濃厚接触者に対する休業手当の支払いの要否で議論となるのは2)の部分です。
これを整理すると以下のようになります。
とてもとても歯切れが悪いですが、保健所要請による休業といっても画一的な基準を示すことは出来ず、会社の業態、経済力、インフラの整備状況、個々の職務内容等も相違しますから、このようにどうしても曖昧な表現による仕分けになってしまいます。
コロナ発生当初のお話ですが、コロナに伴う休業については一部のケースを除いて基本的にはこの「天災事変」には当たらないとされ、つまりは「使用者に休業手当の支払い義務あり」とされてきました。
ところが最初の緊急事態命令の発令に伴いこれが不可抗力にあたるとして厚労省が非公式でありながら「非常事態宣言を出して休業・休社しても、補償・休業手当の義務はない」としました。
しかし、これを受けて、労働者側(労働組合や労働弁護団)が反発し、労働法解釈で著名な弁護士の見解を根拠として「監督官庁による勧告の場合は休業手当の支払い義務あり」に準ずるものとして「使用者に支払い義務あり」と反論しました。
これに対し、当時の加藤厚生労働大臣は・・・
使用者側の休業手当支払い義務について「一律に、直ちになくなるものではない」、「(原因が)使用者の不可抗力によるものかどうかがポイントだ」と指摘し、「例えば自宅勤務などで労働者を業務させることが可能か、他に就かせる業務があるかも含め総合的に判断する必要がある」と弁明に追われました。
即ち、厚労省は本音では新型コロナ特措法に基づく休業要請については不可抗力として休業手当の支払い義務は無いとおそらく考えているけれども、一律にこれを公知してしまうと労働者側の反発が強いため濁している…という実情があります。
濃厚接触者に対する保健所要請のケースでいくらインターネットを叩いて調べてもバチっとした答えが出てこなかったり、意見が大きく異なったりするのはこれが理由なのでしょう。
また、一部の職務に従事する労働者に対しては休業手当を支払わなくても良いと考えられたとしても、他の職務に従事する労働者に対しては在宅勤務が可能であり通常の賃金や休業手当の支払いが必要と考えられる場合、一部の労働者は無給とし、他の労働者には休業手当や通常の賃金を支払うという区別は使用者として現実的には選択できず、やむなく一律に休業手当等を支払っている会社も多いものと思われます。
ご参考ください。
〔三浦 裕樹〕
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