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意味空間モデル
概要
人間の認知の仕組みを理解するためのシンプルなモデルを作りました。汎用的なモデルとするために、ある程度複数の分野・観点から共通の性質を抽出しました。
意味空間モデルを持っておくメリット
意味空間モデルとは、人間の認知を司る機能をシンプルに構造化したものです。人間の認知の仕組みを理解していないと、日常におけるさまざまな問題について考える際に、「人それぞれが持つ考え方の違い」が盲点になる場合があります。すると、何が問題の原因で解決するために何をすべきなのかが見えなくなってしまいます。意味空間モデルを通して人間の認知の仕組みをある程度抽象的なレベルで理解しておくことによって、人間が関わる事象に関する理解が容易になります。また、「言語ゲーム」などの認知に関連する哲学の概念を理解するツールとしても使えます。
意味空間モデル
意味空間モデルを図で説明します。
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意味空間には複数の概念が存在します。
図では、球・遊び・複数人・足・球技・サッカーなどの概念があります。
意味空間内の概念は他の概念と相互依存しています。
複数の概念を結びつけることで別の複雑な概念を表現することができます。図では、"球"と"遊び"という概念を組み合わせることで新たな概念"球技"が生まれます。"サッカー"だと、
球 + 遊び + 複数人 + 足 = サッカー
という感じです。
もちろん、単語だけでなく、複雑な状況を表すフレーズや文章の概念も表現することができます。ちなみに、言語化されていない概念であっても同様です。
上記の図にある概念の他にも、"審判"や"グラウンド"、"晴れ"などさまざまな概念が結びついていても良いでしょう。
概念の具体・抽象度はその概念にもよりますが、基本的には紐づいている概念が多いほど「具体的な概念」になります。逆に、紐づいている概念が少ないほど「抽象的な概念」になります。
この図を意味空間Aとしたときに、実際のサッカーを目にすると、審判がいたりゴールポストがあったりと新しい要素があることに気が付きます。
人は、現実世界の新しい要素を新しい概念として取り込みます。
したがって、"ゴールポスト"は"サッカー"、"審判"は"球技"として紐づくかもしれませんし、両方とも"サッカー"に紐づくかもしれません。後日、他のスポーツを見て審判がいた場合には、"球技"にも"審判"が紐づくかもしれません。
このように、意味空間は現実の要素を反映して常に変化します。
新しい体験を経て常に拡張・訂正されるのです。
これは個人の認識が動的であることと合致します。
そして、現実の要素を認識するという「体験」は人によってバラバラです。したがって、意味空間が内包する概念は人によって、あるいは、同一人物であっても時期によって異なります。
例えば、上記の図を意味空間Aとします。この意味空間Aは球・遊び・複数人・足という概念を把握することで、サッカーという認識結果Aを提示します。ですが、これらの概念の体系を持たない意味空間Bを持つ人がそれらの要素を見てもサッカーとは認識できません。そして、意味空間BはAさんがサッカーを知る前の状態であるかもしれませんし、同じ時間軸上の違う人物Bさんが持つものである可能性もあります。
この構造を理解することで、「人の行動はすべて社会によって決まる」というような社会学的なものの見方をすることもできます。このような理解を持つ人が増えると、犯罪を犯した人を「悪人」というラベルを貼るだけで片付けることなく、真摯に原因と向き合うことで社会問題の解決に近づくかもしれません。
頭の良い人は過去の体験や法則からこのようなモデルを言語としてでなく、概念(感覚)として理解しています。言語化は人に伝えるための概念→言語への変換作業でしかないため、私のように言語化する必要はないのです。
この意味空間モデル自体も一種の意味空間内に存在する概念です。このような普遍的で抽象的な概念を多く持っている人はそうでない人に比べて生きやすいです。これらの普遍的な概念がツールとして日常生活に応用できることを踏まえると生きやすいのは当然でしょう。
しかし残念なことに、大抵の賢い人はこの感覚(概念)が当たり前なのでわざわざ言語化して私達に教えてくれたりはしません。そこで凡人の私が数少ない言語化してくれる賢人たちの知識を統合してnoteにまとめているというわけです。
賢人たちは自分が持っていない概念の体系をたくさん持っていて自分とは全く異なる世界を見ているのだと思います。
ちなみに、意味空間は動的であると言いましたが、自分の持つ意味空間の変化を考えることで東浩紀著『訂正可能性の哲学』における遡行的な再解釈(訂正)の概念を理解できたりします。
遡行的な再解釈(訂正)とは、あのときの自分はこんな状況の中にいたのかという、当時では決して認識することのできない将来から過去への再解釈です。
詳しくは下記のnoteをご参照ください。
また、意味空間モデルで考える人間同士の相互作用についても詳しく書いたnoteがあります。興味があれば見てみてください。