火曜の朝に始める、朝ごはんのようなエッセイ
朝のコーヒーでも飲みながら気楽に読んでもらえたら、本望です。#ショートエッセイ
目覚めると、部屋はどこかどんよりとした光で満ちている。
3月の生ぬるい朝。
もそもそとベッドから起き上がり、重い体をゆらして洗面所に向かう。
「明日はゴミの日か・・」
ゴミ箱が目に入って、今日が火曜日だということを思い出す。
携帯を見ると、最近久しぶりに連絡を取っている友達からラインのメッセージが届いている。
夜のテンションを朝に読むのが少し可笑しくて、歯磨きをしている口元にぎゅっと力を込めて、返信をした。
YouTubeでラジオ体操をしたら、次は朝のいちばんの楽しみ。コーヒーと朝ごはんの時間だ。
ドトールのコーヒーソートの袋を開けると、コーヒーの良い香りがふわっと鼻めがけて飛んでくる。
今日の始まりに少しだけ幸せを噛みしめながら、静かに、そしてゆっくりとお湯をそそぐ。
キッチンでは、トースターのジリジリとした音だけが響いている。
… チンッ。
ちょうどコーヒーを淹れたところで、ほかほかの焼き芋もできあがった。
「不思議だなあ」
テーブルにお皿とカップを並べながら、ふと思った。
毎日同じようにコーヒーを淹れて、少しだけ朝食のメニューが変わる――そんななんてことない毎朝なのに、なぜか毎回とても愛しく感じる。
朝はとても特別で、心が躍る不思議な時間だ。
そんなことを考えてたら、いつの間にか朝ごはんの準備が整った。
いただきます――。
「はあ・・・あったかい」
1日の始まりに飲むコーヒーは、ほろ苦くて、あたたかくて、そして優しい。
「今朝は何をするんだっけ?」と、昨日の自分からバトンをもらうように、そろりとipadのTo Doリストを開いてみる。
そうだ、
朝ごはんのようなエッセイが書きたいんだ。
ーー在宅前の30分。
私はいま、こうして大切な朝を抱きしめながらエッセイを綴っている。
春は気分がふわふわして、思考はどこか落ち着かず、エッセイの世界と現実を行ったり来たりしている。
文字の世界に浸っていたかと思えば、次の瞬間には悩みと葛藤だらけの現実に戻ってきている、そんな始末だ。
自分が今どこに向かっているのか分からなくなって、私はしばらく手を止めた。
パソコンの画面をじっと見つめて考え事をしていると、開けていた窓から朝のそよ風がふわっと入ってきて、カーテンを大きく揺らした。
冬が残した寒さの中にもったりするような春の温かさを抱えながら、春風は勢いよく私の前を通り過ぎていく。
同時に、部屋がぱっと明るくなった。
どんよりしていた空の隙間から太陽が必死に顔を覗かせ、白くて柔らかい光が数秒間、部屋を優しく大きく包み込む。
その光は今にも消えそうなほど心もとないのに、どこか力強くて ―― まるで新しい挑戦を始める私の背中を押してくれているようだった。
春の光に包まれて、私は小さく静かに決意を吐きだした。
「今やりたいと思えることを、いま全力でやってみようよ」
だって春なんだから、って。
(つづく)