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愛することと、食べることの痛み
* 自然や動物、環境保全などに関する海外メディアの中で、個人的に気になった記事や番組を紹介し、そのことから思い浮かんだこと、思い出したことなどを綴る *
今回は「食肉文化と菜食主義」について。
フランスのラジオ番組「De cause à effets, le magazine de l’environnement」から、2023年10月7日の放送「Végé, vegan, flexi...des habitudes alimentaires qui gagnent du terrain」の内容を一部引用しつつ、心に浮かんだあれこれを記す。
* De cause à effets, le magazine de l’environnement : 環境問題に関連する一つのテーマを取り上げ、研究者、アーティスト、思想家、活動家などのゲストと共に考える番組。ラジオ・フランス「france culture」にて毎週火曜日放送。司会 Aurélie Luneau(歴史学者)
「Végé, vegan, flexi... des habitudes alimentaires qui gagnent du terrain」
ー菜食、ヴィーガン、フレキシ... 広がる食習慣ー
ゲスト
Valérie Chansigaud:環境科学の歴史家。著書『菜食主義の歴史』
Manon Dugré: ANCA Chairのプロジェクトコーディネーター
ベジタリアニズム、ヴィーガニズム、フルータリアニズム、フレキシタリズムなど、多様化を見せる近年の食のスタイル。日本におけるベジタリアンやヴィーガンなどの人口について、情報サイト『Vegewel』を運営するフレンバシーが実施した2023年の調査によると、ベジタリアンまたはヴィーガンは全体の約5.9%を占めていたという。動物性食品を意識的に減らす食生活をするフレキシタリアンと呼ばれる人々は19.9%に達したそうだ。
菜食主義が注目されている理由としては、もともとの健康志向もあるが、アニマルウェルフェア(動物福祉)やクルエルティフリー(動物実験のような残酷な行為を避けること)、環境問題などへの関心の高まりが背景にあると言われている。狂牛病や鳥インフルエンザ、肥育ホルモン剤、赤肉の過剰摂取による発がん性などへの懸念も菜食に転じるきっかけとなっているとのことだ。
世界の食肉消費量は増加の一途をたどっている。1960年代と現在を比較すると、世界人口の増加が2〜3倍であるのに対し、食肉消費量は5倍に達している。一般的に、経済成長に伴う生活水準の向上により食肉の需要が高まる。フランスでは、1950年代に一人当たり年間74kgだった食肉消費量は、80年代に104kgに増え、現在は85kgとなっている。アメリカでは一人当たり年間125kgを消費している。
2020年時点で、世界人口の10人に1人にあたる7億5000万人が十分な食料を得られず栄養不良の状態にある一方で、20億人以上の成人(人口全体の3人に1人)、もしくは、5歳未満児のうち3800万人以上が、肥満や過体重であるという。
2050年には世界人口が約100億人に達し、それに伴い、食料生産も70%増加することになるため、環境への負荷も一層大きくなる。今日、動物性食品が食料全体の3分の2を占め、植物性食品が3分の1となっている。動物性たんぱく質と植物性たんぱく質の摂取割合を変えたり、食品ロスを解消するなどが不可欠となるだろう。世界の食料の3分の1が食卓に届く前に捨てられているのが現状だ。
「菜食=健康に良い」と考えがちだが、本物の肉に似せた代替肉などの超加工食品は、通常、塩分や脂肪分が高く、繊維が少ない。環境面では原産地に注意が必要で、大豆ステーキ等に使用されている大豆がブラジル産なら、森林伐採に加担することになる。
畜産も全てが環境に悪いわけではなく、放牧は草地の保全に役立つ。草地にも豊かな生態系があり、また炭素を貯蔵している。人間が利用できない自然を動物が適度に消費することで、エコシステムが成り立っているのだ。
肉食が悪いと決めつけるのではなく、さまざまな食材を取り入れ、バランスのとれた、節度ある消費が大切である。
番組では、ザ・スミスの曲『ミート・イズ・マーダー(Meat is Murder)』が紹介されていた。
私は、猫派か犬派かで分けると猫派である。朝型か夜型かといえば、年齢とともに朝型になってきた。肉食か草食なら、確実に肉食である。肉を使った料理が大好きだ。脂肪やコレステロールの問題がなければ、飽きずに延々と食べていられるだろう。問題は、鶏肉も好きだが、鳥も好きなことである。
肉を食べる自分と、動物に愛情を感じている自分に整合性を取ることは難しく、スーパーの肉売り場で同居の猫のことが頭に浮かんだりと、罪悪感から完全菜食主義を目指したこともあった。しかし長続きはせず、せめて食べる肉の量だけでも減らせないかと思い、平日菜食主義のウィークデイ・ベジタリアンや、週末だけのウィークエンド・ベジタリアン、魚介類は食べるペスカタリアンなども試みた。そんな試行錯誤の時期を経て、現在は、1週間の肉の摂取量を200g以内に抑えるという方法で落ち着いている。国連が推奨する1日の摂取量が約80gだったので、何となくその半分の量を目標にした。1週間単位の量制限だと、誰かと食事をする際に「今日はお肉を食べない日」だと説明する必要もなく、小分けに冷凍してあるお肉を少しずつ、好きな時に料理に合わせて食べることもできるので、全く食べない時と比べ、ストレスも少なく、リバウンドもない。植物性たんぱく質の食材を使った料理にも慣れ、今では、肉を全く食べない週も増えた。とはいえ、肉食の痛みは、以前より軽くはなったものの、完全に消えたというわけではない。
世界で拡大する低コスト・大量生産の食システムが持続可能かを問いかけた本『食の終焉』(ポール・ロバーツ著、ダイアモンド社)では、現代の食システムを持続可能なものに変革できるかは「問題意識を持った”考える消費者”に依存している」という結論だった。
今回の放送においても「人々の生活、動物、地球環境などに直結する食の問題は、私たちがどのような社会で生きたいかに大きく関わっており、消費者の行動が今後の未来を形作る」と最後に述べていた。