& episode 005
「総合商社に行きたいんですか?」
僕は、彼女に聞き返した。
くにちゃんは、まっすぐな目で一呼吸おいて答えた。
「はい。第一希望です」
海外で戦える人間になりたい!そう思いながら、大学時代を過ごしてきたそうだ。
朝一に英会話学校へ通い、それから学校の授業へ。夕方は、家庭教師を行い、夜は、第二外国語である中国語のレッスンをオンラインで。
サークルは体育会系のラクロス部で英会話と調整をしながら、朝練にも出ていたそうだ。
怠惰なんて微塵もない。
僕はと言えば、学校とバイト先の行ったり来たりで、入学当初に入った軽音部は、最近は先輩ヅラして飲みの席しか参加していない。
悪くはない学生生活だが、とりわけよくもない。という印象だろう。
くにちゃんのような学生と比較して。
人は比べるものではないというけれど、明らかに何か大差をつけられたような、多くの男性が嫉妬するのはこの辺りではないか。と僕は考えている。
しかし、僕は、「建築家になる」という夢と志によってその嫉妬を避けることができた。
確かに、彼女は優秀だ。
だがしかし、建築家になるスキルとはまた別のものである。
人は人という言葉がある。
彼女のまっすぐな瞳を、どうしてももう一度見たくて、別れ際、メールアドレスを聞くことにした。
そこでも、またギャフンである。
名門校の勲章が入った、学生名刺を卒なく渡される。
エリート・オブ・ザ・エリート
不思議と名刺にいやらしさを感じなかった。まっすぐな眼差しが、むしろ低姿勢な気持ちになるくらい、彼女の姿勢には温かみがあった。彼女の、猫毛がそう感じさせるのかもしれないけれど。
「くにちゃんと呼んでね♪」
後日、挨拶メールを受け取った僕は、完全に心を奪われていた。
彼女と一緒にホットミルクが飲みたい。美味しいマカダミアクッキーを添えて、ハナレグミをBGMに。
https://www.youtube.com/watch?v=CZXxl1lzbwU