特別を生み出す旋律は ~YOASOBI『アドベンチャー』の原作『レンズ越しの煌めきを』アフターストーリー~


「回る地球儀を目印に さあ今会いに行こう 特別な一日に」

 2023年1月。この世に『アドベンチャー』という楽曲が放たれた。作詞・作曲Ayaseさん、歌唱ikuraさんによる「ユニバル」テーマソングである。
 その原作となったのが、私・菜葵が執筆した『レンズ越しの煌めきを』だ。楽曲との出会いから早1年が経過しようとしている今、エピソードのその後を少し書き残しておこうと思う。

このストーリーの背景
 小説を音楽にするユニット・YOASOBI。彼らは2023年春、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの学生応援キャンペーン「ユニ春」とコラボすることになった。この企画は「学生の皆さまにとって“絶対に忘れられない春の思い出作り”を応援する期間限定キャンペーン」で、学生限定のチケット販売・学生限定のパーク貸切・ライブイベントなどが実施された。
 そして、そのテーマソングを制作するにあたり「パークでの、学生時代の忘れられないエピソード」が募集されたのである。そこに個人で応募し、最優秀賞にあたるYOASOBI賞をいただいたのが私であり、執筆した『レンズ越しの煌めきを』が元になって『アドベンチャー』は生まれたのだ。
 ここからの話は、ぜひ原作エピソードを読んだ上で読み進めてもらえると嬉しい。

「あの日」と同じ景色を

 「大学の友達とのユニバ」という「夢」が叶ったあの日以来、年パスでユニバに通っていた私。しかし、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドとは疎遠になっていた。
 あの日のハリドリが、絶叫系のアトラクションが苦手な私にとって人生初のハリドリだった。場所決めじゃんけんで決まった1番前の左端の席で感じたのは、それまでの人生で経験したことのない浮遊感と今にも放り出されそうな感覚への恐怖。回復こそ一瞬だったものの、楽しむどころか恐怖心を掻き立てられてしまった私は、その日以来ハリドリに乗ることができなかった。一緒に行く友達に誘われても、なんだかんだ理由をつけて、ハリドリとバックドロップ、そしてフライング・ダイナソーは下から眺めて楽しむのが当たり前になっていた。
 
 しかし、そんなハリドリに乗るべき機会が訪れた。あの『アドベンチャー』がハリドリで聴けるというのである。
 大好きなユニバでの大切な思い出から生まれた大好きなアーティストの大好きな楽曲。CM解禁・ラジオ解禁・リリースともう何十回何百回と聴いている。でも、あのユニバで、あのハリドリで聴ける。これを逃せば、同じ経験をすることは二度とないだろう。これを逃したら一生後悔するのではないか。そんな思いによって私の心は大きく揺れ動いていた。

 悩んでいる間に1カ月が経ち、2023年3月7日。高校2年生の弟とユニバに行く日。高校合格祝いのユニバから数えて、もう3回目。もはや毎年春の恒例行事だ。
 私の弟は絶叫系が苦手な私と正反対で、ダイナソーを周回できるレベルには絶叫系が大好き。毎年繰り返されるハリドリへの誘いから逃げ続けていた私だったが、2023年は違った。
「『アドベンチャー』があるけんハリドリに乗ってみる。どうせ乗るなら、原作のあの日には見られなかったあの景色を見たい」
 翌年には受験生となる彼の願いをできるだけ叶えてあげたい、そんな思いもあったのかもしれない。そんな約束をしつつ、日中は乗りたかったアトラクションや食べたかったフードを大満喫した。あっという間に迎えた「学生限定アトラクション貸切ナイト」の時間。もちろん向かった先は、ハリドリである。
 実に2年4カ月ぶりのハリドリ、それも『アドベンチャー』と一緒に飛び出していく。普段のパークで感じるものとは違うドキドキを感じながら待ち時間を過ごした。あまりの気持ちの高ぶりからか、その時間はあっという間に過ぎ去った。

 説明を受け、階段を上る。これを上ればもう目の前はコースターだ。座席は、前から4番目左から2番目。うん、弟に端を押しつけたしなんとか耐えられそう。
 久しぶりの景色、久しぶりの出来事。あの日の記憶をなぞりながら自分が今していることを認識していく。
 自分が乗るコースターが入ってくる。荷物を預ける。シートに座る。足がつかない。あのときの恐怖心がふっと心に舞い降りる。でも、目の前の楽曲リストを見ると、そこには「YOASOBI / アドベンチャー」の文字。私はこのために来たんだ、『アドベンチャー』が一緒だから大丈夫。そう自分に言い聞かせながら、わざと明るく振る舞った。

 遂にコースターが走り出した。「怖いから早く『アドベンチャー』かかって!!」と思っていると、弟が選んだ『名探偵コナン』の音声が隣まで鮮明に聞こえてきて思わず笑ってしまった。
 そして、私の耳元でも曲が始まった。
「いつもの一日から抜け出して」
 ああ、本当にユニバとYOASOBIのコラボに自分のエピソードが。そこから生まれた曲が、本当にアトラクションで。涙で前が見えなくなりそうなのをグッとこらえて、大熱唱した。だって、誰にも聞かれないじゃん。私が一番楽しまないと損じゃん。
「さあ今会いに行こう特別な一日に」
 この歌詞とともに上り始めるコースター。夜がいいと言ったのは私なのに、綺麗なライトを楽しんでいる余裕なんてどこにもない。『アドベンチャー』を歌うことでなんとか耐えている。そんな私を乗せ、上り続ける。そして迎えた、ファーストドロップ。あまりの浮遊感に両手で安全バーをグッと握って耐えるしかなかった。そんなときでも曲はどんどん進む。ファーストドロップを乗り超えてしまったとき、「あれ、意外と楽しいかも?」と思えてきた。
「忘れられない一日が今始まる」
 熱唱しながら、叫びながら、歌詞を噛みしめながら乗るコースターは、私の恐怖を楽しさへと変換していった。『アドベンチャー』という曲とコースターの疾走感の相性は抜群だった。
「ほらシャッターを切って写し出せばどうしたってこぼれるような笑顔ばかり」
 この歌詞のあとに見えたユニバの夜景。本当に綺麗だった。言語化が憚られるほどに煌めいていた。「これがあの日のみんなに見えていた景色なんだ」と思うと、怖さなんか忘れて胸が熱くなってしまった。時間にすればきっと一瞬のことのはずだろうに、私には時が止まっているかのように感じられた。

 『アドベンチャー』とともに飛び出したこの日のハリドリは、あの日の私には見えなかった景色を2年越しにぎゅっと補完してくれた。それと同時に、あの日の感覚が手に取るように思い出され、今にもこぼれ落ちそうな涙の存在を認識せざるを得なかった。
 ゲートへ向かう途中、いつもと同じユニバの景色のはずなのに、私にはそれがあまりにも眩しかった。それこそ「エモい」しか言葉が見つからなくなるくらいに。

7年越しの「夢」

 そして私には、もうひとつやらなければならないことがある。それは、スヌーピーと直接触れ合うことだ。
 スヌーピーを愛してやまない私は、ユニバに行く度にスヌーピーのグッズを全種類確認し、グリーティングに遭遇したら必ず写真を撮り、パレードではスヌーピーがよく見える位置でスタンバイしている。ユニバに行くときには必ずmyスヌーピーを連れて行くし、パーク内では高確率でスヌーピーのぬいぐるみを抱いている。(つまり、YOASOBIのお二人と会わせていただいたときにスヌーピーを抱いていたのはデフォルトだ。別にテレビだからではない。)
 しかし、初めてのユニバだった中学生のときはそもそもスヌーピーに会えず、その後大学生になってからはずっとコロナ禍で距離を取らなければならなかった。15歳の私はユニバを「スヌーピーに会える夢の空間」と認識していたにもかかわらず、あれから7年、触れることはできなかったのである。(そのため、「ユニ春!ライブ2023」のとき、YOASOBIと触れ合っているスヌーピーも羨ましかったし、スヌーピーと触れ合っているYOASOBIも羨ましかった。)

 そんな寂しい状況も、遂に終わりを迎えるときがやってきた。新型コロナウイルスが第5類に移行されたことによって、「ハグ解禁」となった5月。私はもちろんユニバに向かった。
 スヌーピーに会えることを願って選んだ白のブラウスと黒のスカート。あの日と同じスヌーピーのカチューシャ。YOASOBIのお二人とお話しさせていただいたときと同じスヌーピーのぬいぐるみ。スヌーピーに会う準備は万端だ。

 家を出てから友達と集合するまで、私のイヤホンからは『アドベンチャー』が流れていた。いつも聴いている曲なのに、このときはまるで、この1日を特別にする布石を敷いていくかのような温かさとともに心に広がっていった。
 普段より少し軽い足取りでゲートをくぐる。誕生日がたまたま同じ私たちは、お揃いの誕生日シールを胸にその日の作戦会議に花を咲かせた。

 いくつかアトラクションを楽しんで迎えた12時30分。ユニバーサル・ワンダーランドにイースターのカラフルなコスチュームに身を包んだスヌーピーたちがやってきた。ダンスタイムが終わりあちこちで写真撮影が始まる。幼い子たちがスヌーピーに駆け寄るのを、私は少し離れたところから見守っていた。
 スヌーピーと写真を撮りたい気持ちはあるものの、自分からアピールするのはなんとなく気が引けて、私はスヌーピーのぬいぐるみを抱きつつ輪の端の方からその様子を微笑ましく眺めていた。そのとき、スヌーピーと目が合った。
 私の手の中にあるぬいぐるみを指してくれるスヌーピー。そのまま私の手をとって中心へと引っ張っていく。幼い子たちを差し置いて大学生の私が楽しんでいるということに心なしか申し訳なさを感じながらも、スヌーピーとピッタリくっついて写真を撮った。やっと、スヌーピーと直接触れ合えた。22歳にして、やっと「夢」が叶ったのだ。
 しかし、友達と観ようと話していたショーの時間が迫っている。思いっきりハグをする間もないまま、私はその場を後にした。

 ショーを楽しんで、パレードで思いっきりダンスをして声を出して、大好きなアトラクションを満喫して、レストランでお腹を満たして……。少し落ち着いてきた頃、スヌーピーのことをふと思い出した。
 今日の服はスヌーピーを意識した白黒カラー。イースターのショーはもう終わったけれど、そうじゃないスヌーピーのグリーティングならまだあるんじゃないか。そんな小さな期待を胸にエントランス方向に向かった。
 しかし、スヌーピーはいない。けど、ここで諦めたら今日はもう会えないだろう。そう思った私たちは近くのショップでグッズを見ながらスヌーピーを待ってみることにした。

 そして20分後。ふと外を見ると、そこには、スヌーピーがいた。こんな奇跡起こるんだ、そう驚きながらもスヌーピーに駆け寄る。スヌーピーがあっという間にたくさんの人に囲まれるのを嬉しく思いながら、話せるそのときをウキウキしながら待った。

 遂に自分の番が回ってきた。
「スヌーピー、実は今日会うの2回目なの」
 スヌーピーが驚いたような動きをする。そのまま写真を撮ろうと提案してくれ、一緒に写真を撮った。そして、遂に私はあの言葉を発することができた。
「ねぇスヌーピー、ハグしてもいい?」
 私の問いかけに大きく頷いてくれるスヌーピー。私は思いっきりスヌーピーに飛び込んだ。
 初めてのユニバからおよそ7年。年パスを持つようになって3年目。遂に、やっと、スヌーピーとハグができたのだ。あまりの感激に涙が溢れ出すのを止められなかった私には、「ありがとう」の言葉を絞り出すのが精一杯だった。


 ずっと「行こうね」と約束していた友達。コロナ禍から変わらずに関わってくれている友達。対面でゼミが始まってから関わるようになった友達。そして、いつも笑顔で迎えてくれるクルーさん。私がユニバに行くときには、誰かの温かさがそばにあった。その温かさとともに、積み重なっていく一瞬の煌めきを何倍にも輝かせてくれたのは、紛れもなく『アドベンチャー』だった。

 私の大切な思い出から『アドベンチャー』が生まれ、そこから生まれた新たな繋がり。「『アドベンチャー』いつも聴いてます」「素敵な原作をありがとうございました」。私に直接届くそんな言葉はもちろん、「めっちゃいい曲!」「MV好きすぎる」「ライブで感動して泣いてしまった」「運動会で踊ってめっちゃよかった!」という、きっと私に届くことが想定されていないような言葉でも、私にとっては本当に嬉しかった。そして、この曲が多くの人に愛されていることを全身で感じられるライブという場所は、私にとってより特別な空間となった。

 きっとこれからも「特別な日」のそばには『アドベンチャー』がある。なんでもない普通の1日も、『アドベンチャー』が「特別な日」にしてくれる。
 ひとつの曲が持つ大きなパワーを感じながら、今日も私は再生ボタンを押す。

「いつもの一日から抜け出して 目が覚めるような冒険の舞台へ」

(文:菜葵)


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