原点から踏み出す、YOASOBIの新たな一歩 | YOASOBI TikTok LIVE at THEATER MILANO-Za
「2年前、何してた?」
「今日まで、どんなことがあった?」
この記事を読むあなたに、一度問い掛けてみたい。
ふとそんな気持ちになったのは、小説を音楽にするユニット・YOASOBIが、2年2ヶ月ぶりに彼らのライブの”出発点”に帰還する瞬間に立ち会ったからだ。
遡ること、2021年2月14日。
コロナ禍による厳戒態勢の中で実施されたYOASOBIの初配信ライブ「KEEP OUT THEATER」は、立ち入り禁止とされていた新宿歌舞伎町ミラノ座跡地の建設現場にて開催された。
あれから2年。
コロナの脅威は少しずつだか確実におさまりつつあり、建設中だったビルは「東急歌舞伎町タワー」として完成され、華々しくオープンした。
そして、2023年4月24日。
彼らの始まりのステージであり、当時はまだ鉄骨だらけの建築現場だった同会場は「THEATER MILANO-Za」と名付けられ、同ビルの6Fにて、いよいよ開業。YOASOBIは、そのこけら落とし公演を行うこととなった。
2年2ヶ月に及ぶ、ユニット史上最も長期的な伏線回収。目撃者は、激戦を潜り抜けてチケットを手にしたファン400名と、TikTok LIVEでの画面越しの視聴者たち。
その数、
配信累計視聴者数:約63万人
最大同時接続数:12万人超え
この数値は
日本人アーティストによるライブパフォーマンスのTikTok LIVEでの最高記録となった。
驚異的な数字と数値化できない熱狂は、一体どのように作られたのか。
夢のような一夜を、舞台裏の写真と共に振り返りたい。
14:00 テクリハ
メンバーがヘアメイクや衣装のフィッティングを行っている間、ステージでは設営が進み、テクリハ(テクニカル・リハーサルの略称。電飾やSEのタイミングなど、演出面でのチェックをする)がスタート。
YOASOBIがこの日までに駆け上がってきたステージを振り返ってみると、
初の有観客ライブとなった武道館公演やROCK IN JAPAN FESTIVALをはじめとする大型フェスへの出演など、規模感はいずれもアリーナクラスかそれを超えたものばかりだ。
まさに現在進行形で走っている最中のツアー「YOASOBI ARENA TOUR 2023 ”電光石火”」も、そのタイトル通り全ての会場がアリーナクラスで実施されているし、実は今回のようなホール公演は初めて。さらにはTikTokでの縦型映像でのライブ配信も初めてと、初めてづくしでの一夜限りの公演となる。
先述したアリーナツアーはこの日の時点で全13公演中、5公演を終えたばかり。まもなく折り返しを迎える段階であり、スタッフもメンバーも疲労は蓄積されているはずだ。そういった意味でも、今回のライブはかなりスリリングであり、タフな精神力が求められる一夜となりそうである。
16:20 リハーサル
テクリハを終えて、ここからはメンバーも交えてのリハーサル。
舞台袖からステージに上がるタイミングなどを確かめてから、いつもどおり『夜に駆ける』をワンコーラスぶん披露してサウンドチェック。
サウンドチェック後、ライブ前編・中編・後編とそれぞれブロックごとに演奏と演出のチェックを開始。
有観客ライブでありながら、配信もメインとなる今回。
「お客さんとどのくらい向き合うのがいいんだろう? クラップをもっと煽ったりして、盛り上がってもらった方がいいのか、それとも配信のカメラに集中して演奏すべきか」とAyaseが問いかけた。
ライブチームの回答としては「お客さんに最大限ノッてもらった方が、その空気が配信先にも伝わると思う」とのことで、本番ではメンバー全員、アグレッシブに盛り上げていくことを確認。
その後も2〜3曲のブロックごとに、Ayaseを中心にメンバーがたびたび演出についての確認をとる。ライブチームのスタッフとも阿吽の呼吸を見せており、この二年間で数々のライブをこなし、エンターテイナーとして大きく成長したチームYOASOBIの姿がそこにあった。
18:22 リハ終了
エンディングまでの流れの確認も終えて、無事にリハーサルは終了。
ここから開演の20時までは比較的のんびりできるかと思いきや、、
Ayaseとikuraは、すぐにメディアの取材対応へ。
新たな商業施設でのこけら落とし公演を担うアーティストとして、そして二年前にも同じビル(建設中)でライブをした非常に稀有なアーティストとして、世間からの注目を集めていることはわざわざ言うまでもない(テレビ取材にもすっかり動じなくなった二人を見て、勝手に親心のようなものを抱いてグッときてしまっていたことは内緒です)。
こちらが、二年前にサインを書いていた時の様子。ちょっとしたタイムカプセルみたいなものかもしれない。
19:10 オープン
いよいよオープン。会場に入ったファンが口々に「近っ!」と驚きの声を漏らし、舞台前でのプチ撮影会が開かれる。
確かにこれほどステージまでの距離が近いライブを行うのは、YOASOBI史上、あまりないことかもしれない。
メンバーはヘアメイクなどの最後の仕上げを受けながら、静かに本番を待つ。
二年前と同じ舞台。
だが、当時は何もなかった場所。
この二年の間に、YOASOBIは本当に多くの経験をして、たくさんのものを吸収してきた。1st LIVE「KEEP OUT THEATER」の舞台に立つ前とは、メンバーの顔つきも明らかに違って見える。
二年前には、緊張と不安が。
今では、それらに加えて自信と興奮が。
彼女ら/彼らの中に、今にも爆発しそうなほど渦巻いているのが見えた。
19時50分
開演まで残り10分に迫ったところで、来場したゲストに向けてちょっとしたサプライズが用意された。
前説、Ayase。
ミソハギザクロ(Key.)の流暢でポップな影ナレからバトンを受けるように、Ayase本人がステージに登場。
割れんばかりの声援を受けた後、Ayaseは今回の配信ライブにおいて、会場にいるお客さんたちの熱量こそが成功の鍵となることを力説。
「練習しよう!」と言ってコールアンドレスポンスをしてみると、開演前にも関わらず会場のテンションは一気に最大値に。YOASOBIのお客さんって、こんなに熱かったっけ? と思うほど、野太く力強い声だったことを強調しておきたい。
「ここをライブハウスだと思って、ガンガン楽しんでもらえればと思います!」と締めくくり、Ayaseは颯爽と舞台裏へ。会場内の空気はすでに準備万端。
いよいよ、開演!
20:00 開演
舞台袖でAyaseを待ち構えていたメンバーたち。円陣を組むと、この一夜限りの特別なライブに向けて、気持ちを一つにしていく。
コンポーザー:Ayase
ヴォーカル:ikura
ギター:AssH
キーボード:ミソハギザクロ
ベース:やまもとひかる
ドラム:仄雲
二年前と同じメンバーで、六人は再び、同じ舞台に立つ。
記憶や記録を更新するため。
ここからまた新たな一歩を踏み出すため。
大丈夫、あとは楽しむだけだ。
M-1 祝福
四人のサポートメンバーの入場の後、少し遅れてステージに上がったAyaseとikura。
六人が輪を描くように立つと、すぐさま一曲目に演奏されたのは『祝福』。
冒頭のフレーズをikuraが歌い上げた直後、観客からは「オイ!オイ!」と轟音のようなコールが鳴り響く。それに呼応するように体を大きく動かしながら演奏するバンドメンバー。
この上昇していくような一体感こそ、コロナ禍でずっと体感することができなかったライブの醍醐味ではないか。緊張なんて微塵も感じさせないAyaseの笑顔がすでにこの日の成功を物語っていた気がする。
M-2 夜に駆ける
続けて演奏されたのは、言わずと知れたYOASOBIの代表曲『夜に駆ける』。
ikuraの歌い出しと同時に客席からはどよめきに近い歓声が上がり、バスドラムの四つ打ちが始まると、その場で全員が飛び跳ねる。比喩ではなく物理的な意味で、会場が揺れていた。
M-3 セブンティーン
デビュー曲であり強力な代表曲である『夜に駆ける』に続いて演奏されたのが、3月にリリースされたばかりの新曲『セブンティーン』。
イントロが鳴った瞬間に、新たな代表曲の誕生を感じさせる熱気。会場からはまたしても激しいコールの声が響いた。ステージ中央に移動したikuraが煽ると、やまもとひかるの激しいベースラインとミソハギザクロのホイッスルとダンスがさらなる燃料となり、序盤のクライマックスを盛大に盛り上げた。
MC
『セブンティーン』演奏直後の大きな歓声を受けながら、ここでMCタイム。二年前と同じように、同じカップを持ってきたメンバーたち。新たな劇場のオープンを記念して、再び乾杯を。
ikuraが二年前の配信ライブ中、乾杯前にドリンクに口をつけてしまったという失敗談を話そうとすると、会場からは早い段階で笑い声が起きていた。つまり会場には二年前から今日までしっかりとYOASOBIを応援し続けていた人がいたという証拠だ。
「今回は乾杯前に飲まなくなりました!」と高らかに報告して、ライブはメンバーの成長を見せつける中盤戦へ。
M-4 ハルジオン
AssHがアコースティックギターに持ち替えると、演奏されたのは初期の名曲『ハルジオン』。
切なさを纏いながら疾走し、その余韻を残しながら、会場はよりメロウな空気に満ちていく。
M-5 たぶん
序盤で上がり切ったギアを緩やかに落とすように、ikuraが椅子に腰掛けて演奏されたのは『たぶん』。
リハでは観客に背を向けたかたちで歌うことにやや後ろめたさを感じているように見えたikuraだが、本番ではまるでワンルームの片隅で歌われているかのような温度感がいっそ心地良く感じられた。
六人向き合い、一音一音を丁寧に紡いで届けていく。ゲストも、その空気に酔いしれているように思えた。
M-6 ツバメ
「ここは青空です。みなさん自由に羽ばたいてください」
ikuraのMCを挟んで『たぶん』の後に演奏されたのは『ツバメ』。
サビでゆらゆらと振られた観客の手は、空を飛ぶツバメのようにも、煌めく水面のようにも見えた。
主観だが、この曲が持っている天を突き抜けるような解放感は、YOASOBIが持ち合わせている人生讃歌的な要素を最も色濃くした部分の一つだと思う。会場は穏やかな多幸感に包まれたまま、本日二度目のMCパートへ。
MC
中盤戦を終えてTikTok LIVEの様子を見てみるAyaseとikura。
視聴者数を確認するが「92.1kっていくつですか?」ととぼけるAyase。観客から「9万!」と声がすると、大きな拍手が響いた。
コメント欄もいくつか読み上げていき、「インドネシアでもまたコンサートしてください!」など、海を越えて世界中から見ている人がいることに大きな喜びを感じていた。
M-7 怪物
「ミラノ座、もっともっといけるよね!」とikuraが煽り、終盤戦がスタート。スモークが足元を隠すと、先ほどまでとガラリと空気を変えて、『怪物』が披露される。
二年前のライブでは最新曲として披露された『怪物』だが、この日に至るまでに本当に多くのファンを獲得し、文字通りモンスターソングとなった。
Ayaseが「拳あげてくれ!」と叫ぶと、即座に反応するオーディエンス。ライブの定番曲として馴染んだ証拠だろうし、どんな規模の会場でもトップギアに持っていけるキラーチューンをいくつも生み出せたことが、今日までのYOASOBIの勢いを物語っている気がした。
M-8 群青
「まだまだいける新宿!? この空気、画面の向こうに伝えてやろうぜ!」とAyaseが叫び、ここで演奏されたのは2021年の紅白歌合戦でも披露された代表曲『群青』。
ライブでの声出しが解禁となった今、『群青』はアンセムとして確かな地位を築いたといえる。この日も、400人による大合唱が会場を震わせ、その熱は確かに画面越しにも届いていたはずだ。
この二年間の日々を辿るように、メンバー一人一人に歩み寄りながら歌うikura。ただ、もう今は六人だけじゃない。目の前と画面の向こうには、その声と音を求め続けるファンたちが今日も待っているのだ。
M-9 アドベンチャー
そして本編ラストのように届けられたのが、今年2月にリリースされた新曲『アドベンチャー』。
会場は七色の光に照らされ、包まれるような温かさと突き抜けるような優しさに満ちていく。この曲の歌詞にある「待ちに待った今日は特別な日」は、二年前のYOASOBIからすれば、まさにこの夜のことを指していたのかもしれない。
2021年2月当時の彼女ら/彼らは『夜に駆ける』や『群青』といったヒット曲こそあるものの、その勢いをどこまで維持できるのか、本人たちだって手探りでいたはずで、「二年後」なんて気軽に約束できるものでもない過酷な世界を冒険していたはずだ。
結果だけを見てみれば、YOASOBIはこの二年間で本当に多くのファンを引き連れ、この日もTikTok LIVE 国内アーティストのパフォーマンスライブでは最高の視聴者数を叩き出すこととなった。しかし、そこに至るまでの不安や努力は、きっと数値には表れない。Ayaseとikuraから始まったチームYOASOBIがたどり着いたこの夜は、紛れもない「特別な日」の一つとなっただろう。
M-10 アイドル
『アドベンチャー』で大団円を迎えたように見えた本編。
しかし、この日にどうしても聴きたい曲が、筆者にもファンにもあったように思う。
テレビアニメ『推しの子』のオープニングテーマとしてリリースされ、公開と同時に爆発的な再生回数を記録し、今もまさにその勢いが走り続けている最中である、まさにYOASOBIの最新型キラーチューン『アイドル』だ。
まるでアンコールのように本編とは切り離されたような超ド派手な光の演出とSEからその最新曲が披露されると、会場はこれ以上ないほどの盛り上がりを見せた。
「アイドルになったikuraちゃんが可愛い」というコメントがネット上で幾度となく流れてきたが、まさにikuraがフロントマンとして、パフォーマーとして、エンターテイナーとして、その才と努力をいかんなく発揮してくる。
「アイドル」という偶像を歌った楽曲に、ikura自身がその偶像を演じている、というメタ構造こそがウリであり、妙な迫力や怖さを潜ませたこの楽曲は、ライブでこそ真価を発揮していたように思う。
その証拠に、最新のYOASOBIの勝負曲に、オーディエンスはノリにノった。
その衝撃をどのように言葉にすべきだろうか。
YOASOBIの新境地を切り開いたといえる楽曲が、この特別な夜のラストを飾ったことは、きっと数年後にまた振り返った時に、一つの時代の象徴のように語られるような気がしている。
デビュー曲から最新曲まで含めた、全10曲。
セットリストを見返してみれば、二年前にも演奏された曲は、ちょうど半分の5曲だった。
あれから確実な進化を遂げていたYOASOBIが、次にどこに向かうのか。
ファンにどんな景色を見せてくれるのか。
この夜、目撃者となった会場の400人と配信の累計視聴者63万人が、次の一歩への語り部となって、YOASOBIの物語を紡いでいくのだと思う。
そして彼らはまたしばらく、過去を振り返ることをしないだろう。なぜなら今もまだ初の全国ツアーの真っ只中だからであり、きっと目線は、その遥か先を見据えているからだ。
小説を音楽にするユニット・YOASOBI。
定められたフィクションから、今、飛び出していく。
撮影:Shinsuke Yasui
執筆:カツセマサヒコ