掌編小説 チョココルネは裏切らない
僕はチョココルネが好きだ。塾に行く前に、必ずパン屋で買うのはこいつだ。
何より、頭からのぞくチョコクリームがしっぽまでまっすぐに詰まっているところがいい。その部分をかじれば、必ずクリームが入っている。人の気持ちを裏切らないというのは肝心なことだ。それに、巻き貝のような、芋虫のような形もかわいらしい。
その点、同じ素材でつくられていながらチョコレートパンはだめだ。ただまるいだけで、見た目からして芸がない。それにクリームが中で偏っている。口にほおばった瞬間に「皮だけ」なんて、がっかりすることが多い。
つきあっている彼女にいつかそんな話をしたら「どこにクリームが入っているか、当てる楽しみがあっていいじゃない」と一笑に付された。
その彼女にふられたのは、つい三日前の金曜の晩、塾の帰り道のことだ。
「他に、好きな人ができた」のだと言う。同じクラスの、あいつらしい。めちゃくちゃだけど、何をやらかすかわからないところが面白くて、気になるのだそうだ。
裏を返すと、僕はまっとうで、わかりやすくて、面白みにかけるということか。そんなふうに、まわりくどく言わなくてもいいじゃないか。
どうやら、チョココルネとチョコレートパンの対決は、チョコレートパンに軍配があがったようだ。
いつものようにチョココルネを買ったが、今日は塾には行かないことにする。
何もしたくない。タンポポがいっぱいに咲く土手に大の字になり、空を見上げる。あちらこちらを飛びまわる白い蝶が視界に入り、つい彼女を重ねてしまう。
ちきしょー。
コルネを頭からむしゃむしゃと食べる。一気に半分をこえたとき、違和感を覚えた。
クリームが、ない。
望遠鏡のようにコルネを目にあてると、真ん中から小さく青空が見えた。
「あーあ、なんだよう」
なぜか急に笑いが、そして涙がこみ上げてきて、僕はコルネの残りを口に押し込んだ。
僕はチョココルネが大好きだ。これからも、ずっと。
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短い小説を書いています。よろしければ、こちらもぜひ。
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