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ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない

チャプター1【今まさに自害しようとしている少女】

「ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない」と教えてくれた先生の名前も忘れてしまったから、何も気にせずこの世を去れるわ。

→日没オレンジ


チャプター2【友達を亡くしてしまった少年】

崖から飛び降りて死んでしまったから
彼の顔は無くなってしまったんだ

葬儀にはたくさんの人が来たけど
誰も彼の顔を見ることはできなかった

一枚ぽっちの便箋を残して
彼は独りでいってしまった

僕が君の顔の代わりをするよ
だからこっちへ戻ってこないか

こうして、誰もさよならできないから
“ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない”のだろうか

→泣き虫ウェザー


チャプター3【死んだことを後悔している幽霊】

わたしは死んでしまった
樹海の奥深くで首を吊ってしまった

夏の日差しで脚がはやく腐る
風に揺られて腕がぼとりと落ちる

魂は成仏しないのに
わたしは死んでしまった

今でも樹海に吹き抜ける風はいつもぼうぼうと音がする

先生が言っていたように、
“ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない”のは
今のわたしみたいに輪廻が止まってしまうからなのかもしれない

→変光星 


チャプター4【妻に先立たれた男性】

君が死んでしまってからは 嵐のように風が吹く

置いていかれたドレッサー
僕には触ることもできない

君が死んでしまってからは 嵐のように風が吹く

君と歩いた駅までの道
僕にはうまく歩けない

ああ

君が言っていた
「ぼうぼうと風が吹くところで死んではいけない」と

→雨上がり


チャプター5【どこにでもある団体、或いは民衆】

「死んだら、時間を超越した存在になれる」

「時間を超越した存在は幽霊と呼ばれる」

「幽霊は、過去も未来も自由に行き来できる」

「自由に行き来できないのは、時空の歪み」

「時空の歪みには、ぼうぼうと風が吹く」

「ぼうぼうと風が吹くところで死んではいけない」

「死んだら、時間を超越した幽霊になれる」

「幽霊は、時空の歪みに閉じ込められる」

「閉じ込められたら、どこへも行けない」

「どこへも行けないことは怖い」

「どこへも行けないことは怖い」

「だから、ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない」

→おとぎの宇宙


チャプター6【よあけのばん】

「みなさん、本日はお疲れさまでした。
『ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない』は、このチャプター6でおしまいです。

さて、このあたりで、今回の脚本の神髄に参りましょうか。

まず、『ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない』という伝承はおかしいと思いませんか?

そもそも『ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない』と思い、伝えるのなら、それは、ぼうぼうと風の吹くところで死んだ経験のある人物でないといけませんね。
しかし、“死人に口なし”…。
死んだ者が喋って触れ回る事は考えにくいでしょう。
すると…、もう気が付くはずです。
そう、これは我々が勝手に作り上げた脚本用の伝承だということに。

我々は、制作をするにあたり『ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない』という架空の伝承について、真摯に向き合い、よく考えました。
不思議なことですが、繰り返し繰り返し考えていると、、
この『ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない』という作り話だったはずの教えが まるで現実のもののように感じ始めました。

わたしたちが伝えたかった事実、それは、このように
『気を付けないと、真実はすり替えられる』ということ。

ほら、みなさんだってもう、聞きなれなかったはずの
『ぼうぼうと風の吹くところで死んではいけない』という教えが
現実のものだと、真実がすり替えられ始めています…。

それでは、これからの人生、ぼうぼうと風の吹くところでもお会いいたしましょうね。おやすみなさい。」

→楽園のかいじん


2020.7.12 at 野田 Maga Yura

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蟻人
TaKeshi
頷けば灰



よあけのばんは、大阪で世にも小さな音楽劇団として活動しています。どこかで公演を見ていただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします。