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ラインシネマ

8月3日、月曜日。

ライブハウスから、イベントタイトルが『ラインシネマ』に決まったと連絡がありました。ついで「惜しまれつつも閉店してしまった地元の映画館の名前だ」と聞かされたわたしたちは、そこで『無くなった映画館・ラインシネマ』を知りました。

さて、わたしたちには「おやすみなさい。」というタイトルの曲があります。この曲は、亡くなったものに捧ぐ曲として作られたので、「きっと今回の演目“ラインシネマ”にはこの曲が入るんだろうね。」と話しをしました。

その言葉通り、今作では当該の曲「おやすみなさい。」から話を進めていこうと思っています。

→おやすみなさい。

8月27日、木曜日。

わたしたちは8月中の公演を終え、満を辞して“ラインシネマ”の制作に入ります。

まずは現物を見るために、実際のラインシネマへ向かうことにしました。

廃墟になった映画館の姿を想像して足を進めましたが、残念なことに現在は高い囲いに隔てられ、解体工事が進められていました。少し囲いの開いたところから、まだ壊されていない月の飾りが見えただけで、ほとんどその姿を見ることができませんでした。

しかし、わたしたちは帰り道でこの日いちばんの収穫となる物を見つけます。
それは、最寄駅からラインシネマまで続く線路沿いにいまだ残された看板たち。いくつもいくつも並んでおり、それぞれ『ラインシネマ 西へ何m』とカウントダウンされています。

この看板たちと出会った時、ただの『無くなってしまった映画館』だった“ラインシネマ”が、突如『確かに存在した映画館』へと変化しました。

「線路沿いの看板の群れは、ラインシネマを愛した人たちも見ていたんだろうね。」
わたしたちも、まるで過去を思い出しているかのようでした。
ここで、『あの日のまま』のものを探して線路沿いを歩く歌「8月32日」をお聴きください。

→8月32日

8月27日、木曜日、深夜。

ラインシネマの在る町から帰路に着き、インターネット上に記録としてフィールドワークの模様を載せました。するとその夜、当該の投稿にコメントがつきました。

見たことのない名前だったので、コメントを送信した人物のプロフィールを確認します。そこから、彼はラインシネマの元・映写技師であるとわかりました。

わたしたちの制作に興味を持ちコメントをしたこと、閉店間際までラインシネマで働いていたこと、そして「こういった形でとり上げてもらうのは、不思議な気持ちだ」と思ったと言うことを聞き、わたしたちもまた「不思議な気持ちです」と返事をしました。

『かつて確かに存在した映画館』は、『確かに存在する元映写技師』に縁取られて、その変わらない姿を更にはっきりとさせました。
実際は建物すら形をとどめていない上、そもそもわたしたちはこの映画館について何も知らなかった。でも、今はまるで過去の記憶のようにも感じられます。

こうして言葉にすることで、存在を忘れられないままなのであれば、実物がなくても確かに“在る”と言っていいのではないか。ずっとずっと変わらないままそこに在り続けるような、この感覚は何と言ったっけ。
そう思った時、幸いにも、わたしたちには「ブルームーン」という曲がある事を思い出しました。

→ブルームーン

9月2日、水曜日。

ラインシネマとは直接関係のない出来事ですが、この日友人が急逝したという知らせが入り、通夜へ向かいました。

遺書もなく死を選んだ彼女に対して、参列者たちは様々なことを述べていました。それらはわたしたちの知っていた彼女の姿とは少しずつ違っています。

おそらく、彼女はそれぞれの人間に、断片的に自分の話をしていたのでしょう。
わたしたちの知っている彼女、両親の知っている彼女、恋人の知っている彼女…それぞれの知っている彼女を繋ぎ合わせても、もう彼女のすべてを知ることができません。
彼女が秘密にしていたこと…例えば、遺書もなく死んだというのであれば死を選んだ本当の理由ですら誰も知らないのですから。

この経験を通して、わたしたちが“亡くなった”ラインシネマに対する認識が変わりました。

そもそも、わたしたちは生きているラインシネマを知りませんでした。今からどう情報をかき集めても、生前のラインシネマを形作ることはできないでしょう。
先ほど歌った「おやすみなさい。」のように、きっと『君はこうでしょう』とそれらしい事実を並べたところで、それは本物のラインシネマではないのです。

わたしたちは当事者じゃありません。今日まで追い続けたラインシネマでしたが「ファジーネーブル」の歌詞にもあるように「僕らが描ける世界はこれで全て」なのでしょう。

→ファジーネーブル

…と、『これで全て』と言ってここで終わってしまってはいけません。6曲で1本のお話なので、あともう2曲分お話をお聞きください。


9月12日、土曜日。

映画館で働く友人に、ラインシネマについてのイメージを取材しました。
閉店の際には、別の映画館にも関わらず同僚の間で大変話題になったそうです。


9月13日、日曜日。

ラインシネマで最後に上映されたと言われるイエスタデイを鑑賞しました。
ラストショーで支配人は「ここをみなさんの記憶に留めていて欲しいので、記憶に関する作品を選びました。」と言ったそうです。


そうして、9月23日水曜日まで、わたしたちは、わたしたちにできる方法でラインシネマの形を探し続けました。

→回帰船

9月24日、木曜日。

尼崎toraにてよあけのばんのライブが行われます。
公演名は『ラインシネマ』。
この日の為に1ヶ月半もの間、ある町に存在した映画館・ラインシネマを追い続けました。
一曲目から聴いてくださっている皆さんも、わたしたちと同じ時間の流れを体感してくれたことでしょう。

結局のところ、今回の演目でわたしたちが辿り着いたのは「当事者じゃないから、わからない。だから…」この「だから」のあとにつづくの部分を、最終日までよく考えました。
「だから、“すばらしい”」「だから、“愛おしい”」「だから、“考える”」様々な案が出ましたが、わたしたちが出来る事はもうこれしかありませんでした。

そもそも、わたしたちは脚本家でも役者でも絵描きでもダンサーでもなく、音楽家なのです。

それでは、初めてお披露目するこの曲をうたってお別れしましょう。これが、わたしたちの辿り着いた『ラインシネマ』です。

→ラインシネマ

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配信アーカイブ(10.8まで)
https://twitcasting.tv/projectsannwa/shopcart/23442


2020.9.24
[ラインシネマ]

act...
よあけのばん
ホシマサ
アニキ from ANIKIBAND

→次回公演
10.25 at 野田MagaYura

出演
キモノやん

よあけのばん
演目【ヘンゼルとグレーテル(仮)】

詳しくはホームページまで
http://yoakenoban.com 


よあけのばんは、大阪で世にも小さな音楽劇団として活動しています。どこかで公演を見ていただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします。