宝物の樹 / 【宝物】
演目【宝物】
プロローグI
あるところに、町に雨を降らせ続ける少年がいました。雨が止まないのは少年が雨そのものであり、少年は幽閉された幽霊で、夕景の町の少女が想ってくれていると、そんなおとぎ話を作り出しては、これこそが僕の現実世界だと信じこんでいたのです。
→雨の町、幽霊少年
プロローグII
あるところに、帰り道を彷徨い続ける少年がいました。少年は市場で美しく踊る少女を眺めてはずるいなと思いました。いつか自分もずるい大人になるであろうことを考えていまでも迷い続ける、そんなおとぎ話を作り出しては、これこそが僕の現実世界だと信じこんでいたのです。
→市場
「もういいかい?」
「まぁだだよ」
ねえ、あの日、森の中で、かくれんぼうをしたことを覚えている?
「もういいかい?」
「まぁだだよ」
姿の見えないあなたは、姿の見えている私を探しているふりをして笑っていたね。
「もういいかい?」
「まぁだだよ」
もうふりなんてしなくていいって気付いてからはずっと手で握っている。
「もういいかい?」
「まぁだだよ」
今日はみんなにその話をしてあげましょう。
→もりのかくれんぼう
見つけ出したのは、わたしの方からだったのか、あなたの方からだったのかっていう物語のはじまりを考えています。
「にわとりが先か、卵が先か」って知っていますか?どちらが先に生まれたんでしょうね。
時間が永遠に繰り返されているのならば、はじまりは存在しないとも言えるかもしれません。はじまりがないから、どちらが先でも後でもないって考えることって難しいですか。
わたしと出会う前から、あなたはわたしと出会うあなたでした。あなたと出会う前から、わたしはあなたと出会うあなたでした。
あらかじめ決まっているようなことを運命というのかも知れませんが、紛れもなくこれはふたりが望んだ物語です。はじめて名前を呼ぶよりも前から、わたしを知っていたのでしょう?それは、「町が夕景に雨を降らし虹をかける」そんな美しい物語をふたりが別々の場所で同じように思い描いていたということです。
→シャボンの惑星
「始まりは、憧れだった」とあなたは言います。
キラキラと華やかに彩られた町でステップを踏んでいたわたしのことを「ずるいな」と言っていましたね
すべてが悪だと仮定したあなたと
すべてが善だと仮定したわたしです
まるで太陽と月のようなふたりが
出会って仕舞えばそれは宿命ですか
わたしの他に何もいらないだなんて
あなたは全ての悪を壊すつもりでしょうか
悪魔と正義が手を組めば神様すらも殺せる
そんな気にもなりますが
「俺たちに明日は無いね」ってあなたが言うから、ボニーとクライドのように秋の雨に撃たれて死んでしまうんじゃないかって、あの9月は思っていました
今日は、あの9月とは違う9月
空を見上げれば月が全てを青く染め、海を眺めれば太陽が全てを赤く染めて、あなたが呼ぶ声に振り返れば一つ一つの魂が綺麗に反射して、変わらないものと変わりゆくものが塗り分けた美しい季節を映し出しているのです
→変光星
あの9月をすごしたわたしたちは、川の向こう側とこっち側で「何をしてるの?」「今こうしているよ」と何度も何度も言葉を交換していました。
それは手紙というよりも、まるで糸電話のように、声を震わせて、すぐに返事が返ってくる、不思議な距離感の時間だったと感じます。
たった一本の指、たった一本の線、たった一本の電波。そしてたった一本の運命から、わたしたちは繋がれていたのですね。
こう言って仕舞えばさすがに照れ笑いを浮かべる他ありませんが、やはり、運命の王子様とお姫様は巡り会うべきなのです。
王子様が頼りないというのなら、お姫様からでもいい。強く想いを浮かべるのなら、川のみならず月までも、飛び越えるのはけっこう容易いことでしたよ。
→Over the moon
そういえば、いつかの夏はうな垂れるような暑さに、帽子の中から足のつま先まで溶けてしまうように感じました。
今年はなんだか息苦しく、3歩あるいただけでワンピースの裾が何キロにも重く感じていたのです。
きっと湿度の高さの所為なのでしょうが、只“暑い”だけの夏でさえ、あなたと出逢うと、ここまで景色が変わるのですね。
古ぼけた本屋のほこりの匂い、
朝目覚めると耳を覆うほど大きな蝉の声、
空調も電灯もつけずに息をひそめた夜、
日傘からはみ出したじんわり湿る細い腕。
たくさんの香り。たくさんの陽ざし。
只“暑い”としか表現できずにいた昔のわたしを懐かしく想います。
この瞳の変わり様も大切な宝物なのですよ。
→サマータイムマシンブルース
あの日憧れた花火大会も
あの日憧れた虹の街並みも
あの日憧れた車窓の横顔も
今はすべて、手に届くところにあります
わたしは晴れ着で着飾って
あなたはパリッと格好よく決めたなら
どこに行きましょう
もうたくさんの風景や記憶がふたりの間に降り積もっています
もうたくさんの手紙や物語がふたりの間に降り積もっています
あなたの町の雨は止んだし
わたしの町に夜が訪れました
描きかけていた夢は正に今夜、叶っています
明日も、明後日も、この先ずっと
雨が降ることはないでしょう
明日も、明後日も、この先ずっと
夕闇に彷徨うことはないでしょう
あなたが言うなら、きっとそうなのでしょう
→君がいうなら
よあけのばんは、大阪で世にも小さな音楽劇団として活動しています。どこかで公演を見ていただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします。