クジラの夢を見るか?
https://youtu.be/Hly9avaLuT4
アーカイブ動画(ヤマネヒロシゲchにて公開中)
演目【クジラの夢を見るか?】
例えば、それは“宗教”に似ている。
心が弱く、悲しみや虚無感を抱えたニンゲンたちは、どうにか救ってもらおうと神や仏や太陽・宇宙、八百万・様々な物に願い・祈った。
クジラもまた、その一つだ。
→日没オレンジ
(新聞の一面には「オリンピック反対運動加速」「オンライン詐欺容疑者逮捕」の文字と共に「クジラの夢を見るか」と書かれていた。当番組では証言を交えて、その真相を探ってゆく。)
【証言 その1】
「わたしの見た夢はこうよ!
まずね、わたしは魚なの。なんていうのかしら、あんまりパッとしない…、そう、金魚ね。たぶん金魚だったわ。
わたしだけじゃない、みーんな金魚!商店街の店の人とか、うざったい隣のじじいとか、みんな汚い魚になっちゃってるの。
で、そんな魚だらけの町に、クジラ様がいらっしゃるのよ!クジラ様のお食事はお魚でしょう。だからね、あの大きなお口でみんなを一飲みにしちゃうわけ。
それには、年齢も性格も関係ないわ。背びれや尾びれを使って、かき集めて、一気に飲み込む。
最初は怖かったわ、背びれも尾びれも全部凶器に見えたもの。でも、よくよく考えたら幸せかな?って。クジラ様と一緒になれるんですもの…。
ま、そこで酸素が薄くなって目が覚めたんだけどね。
いやぁ、いい夢だったわ。だって、今の世の中を救うのは、クジラ様しかいないって思うでしょ?」
→夕暮れ町殺人事件
【証言 その2】
「え?ぼくもみたよ。クジラでしょ。だってお姉ちゃんがクジラクジラうるさいんだもん、嫌でも夢に出てくるよ。
ああ、内容?たいした夢じゃないよ。
いつも遊んでる公園の雑木林のところ、ぼくらは“森”って呼んでるんだけどさ、そこでいっつもかくれんぼうして遊ぶんだよ。で、夢の中ではいつもの友達に混じって、クジラが一匹紛れ込んでた。ちっちゃかったから多分子どものクジラだと思うんだけどさ…。
アイツ、すっごく隠れるの上手いんだよね。何度も何度も『声が遠ざかってるよ。まだ見つけてくれないの?』って言うの。
でもさ、変だよね、ぜんぜん見つかんないしさ、第一クジラって喋るのかな?」
→もりのかくれんぼう
【証言 その3】
「あー、クジラね。クジラ。ハイハイ、生徒たちがやれクジラやれクジラと盛り上がってますからね。
いやぁ、教べんを採る者としてはあまり宗教というか、信仰心のお話は…、ええ、控えさせてください。すみませんね。
や、夢は、はい、見ましたよ。本当にあるものなんですね、“話を聞いたら夢に見る”って、まるでオカルトじゃありませんか。はは。
その日、授業で教えていたからですかね、まるで『銀河鉄道の夜』のようでした。夜空を走る列車に私は乗っていましてね、窓の外はオーロラのような何かが輝いていました。そこに、クジラが並走しているんですよ。空を飛んでいるのか、それか、私の乗った列車が実は海の中を走っていたのか…、わかりませんけどね。
窓の外に手を伸ばすと、クジラの手…いや胸びれを掴めるんです。意外にも暖かかったですよ。
お恥ずかしい話ですが、普段はこう、殺伐とした夢ばかり見ていますので…。いやぁ、こんなに優しい夢を見たのは久方ぶりでしたね、少し童心に帰ってワクワクしましたよ。」
→オボロゲな惑星
【証言 その4】
「わたしたちが若い頃と言ったら、“クジラ”なんて、そのまま、ただの鯨でしかなかったわ。いつからかしらね、そんな風に『クジラ様』だとか『クジラ教』だとか、神様みたいに扱われるようになったのは。
そうね、クジラ様のお話を聞くと夢に現れて救ってくれるのよね。わたしもそうやってお話を聞きましたよ。
うふふ、でもクジラ様も、こんな老ぼれは好きじゃないのかしら。まだ夢に出てきたことが無いのよ。あなた達にも夢のお話をしたかったんだけどねぇ、残念ね。
ええ、でもね、もしかしたらね、こうじゃないかしらって思ってるのよ。
わたしはね、今に不満なんてないのよ。孫の顔も見れたし、たくさん愛されたし、美味しいものもたくさん食べたし。
だから、その…、クジラ様が救世主様みたいに救ってくれるんだとしたら、人生に満足していて救う必要のないわたしの夢には出てこないんじゃないのかなって。
夢ね、夢はね、今でも毎日見てるんだけどねぇ。孫たちの話を聞くと、クジラ様は声をかけてくださるそうじゃない。まだ会ったことないからね、なんだか憧れちゃうわね。今晩こそは少しぐらい声を聴かせてくれればいいのにねえ。」
→おやすみなさい。
はい、スタジオです。皆様にはインタビューの音声をお聞きいただきました。
えー、本日はですね「クジラの夢を見るか?」と題しまして特集をお送りしてきたわけですが…。
年齢や性別に限らず、やはり、“クジラ”の夢を見る方が増えていることは確実なようですね。しかし、見ることのない方もいらっしゃるのが興味深いところです。
一説では“クジラの話を聞くと夢に出てくる”と、そう囁かれているようですが、まぁ昨今のニッポンになりますと、“クジラ”の話題が出てこない方が不自然なのじゃないかと言うくらいですからね。まぁこのようにこれからも様々な統計を取りつつ、“クジラ様”そして“クジラの夢”について解明を進めていきたい所存です。
しかし、この一連の「クジラの夢 騒動」ですが、一体どこから発祥したものなのでしょうか。
スタッフが聞き込みを行なったところによりますと、どうやらその昔、関西地方で行われた小規模のイベントが発祥だと、一部メディアではそう発表されているそうです。
男女2人組がステージに上がり、クジラにまつわる夢の話を淡々と音楽に乗せて発表して帰って行ったと!また、その男女が「僕らはクジラだ」などと声明を発表したとの噂も囁かれております。
しかし、こちらもあくまで噂でありますから、この件に関しましても当放送局では更に深く調査を進めていこうという所存であります。
それでは、あっという間でございましたね。本日もおわかれのお時間となりました。特集「クジラの夢を見るか?」本日はここまでです。
番組のエンディングテーマは、よあけのばんで「深海クジラ」です、おやすみなさい。
→深海クジラ
2021.7.29(木)at 雲州堂
[眠りネズミのお茶会 VOL.3]
『クジラは夢をみるか?』
出演
よあけのばん
ヤマネヒロシゲ 井上真紗子
よあけのばんは、大阪で世にも小さな音楽劇団として活動しています。どこかで公演を見ていただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします。