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これからの写真と、出逢いたい 〜審査員鼎談:佐俣アンリ+姫野希美+鈴木理策〜

新しく立ち上がった写真新人賞「夜明け前」は、
なぜ、どのようにして生まれたのか?
そこに込められた想いとは?
審査員による鼎談をお届けします。

「夜明け前」審査員の(左から)姫野希美、佐俣アンリ、鈴木理策   ©︎黑田菜月

新しい人のための場がないのなら、自分たちでつくろうと思った

佐俣 僕は学生のころから写真を撮るのも観るのも大好きで、新人を輩出する公募展「キヤノン写真新世紀」やリクルート「ひとつぼ展」(後の「1_WALL」)の展示もよく足を運んでいました。「こういう人が出てきたのか」と、毎回発見があっておもしろかったのですが、聞けばいま、どちらもの公募展も姿を消してしまったという。
 ふだん僕はベンチャーキャピタルの仕事を通して、新しく産業の世界に出ていこうとする起業家や研究者とたくさん出会い、彼らがステップアップするための場や機会をつくる「係り」をしています。
 写真の分野で、新しい人のための場や機会がなくなっているのを知って、端的にさびしいと思ったし、空白になっているのなら自分で埋めにいけばいいじゃないかとも考えました。
 それが、新しい写真新人賞「夜明け前」を立ち上げたきっかけです。
 そうしてともに審査をしていただくお仲間として、鈴木理策さん、姫野希美さんにお声がけさせていただきました。おふたりとも以前から、新しい人のための場や機会をつくることに熱心に取り組んでおられますよね?

姫野 そうですね、2006年に出版社・赤々舎を立ち上げて、写真集をつくり続けてきました。これまで見たことのないものを見てみたい気持ちが自分のなかにいつもあって、本づくりは毎回その誘惑に負けるかたちで進んでいきます。
 しかも私の場合、これから出てくるいわゆる「新しい人」がいいわけではないんです。すでにその世界でいろんな仕事を積み重ねている方でも、「ここが大きな転機になる「いま変わり目だ」というタイミングであれば、ぜひいっしょに本をつくりたくなります。

鈴木 写真を撮ることと並行して学校で教えることも続けているのですが、学生からよく「教室以外で写真を人に見せたり言葉をもらえる場がなくて困っている」という声を聞きます。自分の若いときを振り返れば、人に写真を見せて初めて気づくことは多かったし、皆で写真を見たり語ったりする体験がとにかくおもしろかった。できるだけそういう場をつくれたらとは、いつも考えています。とはいえ、こちらが先輩で何かを教えてあげようというつもりはまったくなく、写真をはさんでだれもが完全に対等な関係で付き合えたらいいと思っています。

佐俣 今回「夜明け前」の審査員を引き受けていただけた理由は、どのあたりに?

姫野 以前も「1_WALL」をはじめ審査をさせていただいたことがありましたけど、そのたび、いい出会いに恵まれました。新人賞の場というのは応募者の方のみならず、私にとっても大事な機会だったんですね。またそういう場に身を置いて、写真を通していい出会いがあったらうれしいと思って、お引き受けしました。

鈴木 新しく立ち上がるものですから、応募する側もいわゆる「傾向と対策」とは無縁に、自分の信じる作品を出してこられるんじゃないかとの期待が持てました。ニュートラルな状態でスタートできるところは楽しみに感じています。先ほど言ったように、「写真を見る・見せる場」を欲している人は多いでしょうから、「夜明け前」がその受け皿になっていけたらいいですね。

「夜明け前」にいる人たちと、たくさん出逢いたい

佐俣 「夜明け前」を2024年という「いま」の時点で始めることにも、意味があるだろうと僕は思っています。というのも、おそらく今日この日というのは歴史上で、いちばんたくさん写真が撮られている日です。そして明日、明後日と、最多記録は更新されていくでしょう。人類はいま、とんでもない量の写真を撮っていて、小さい子も含めて写真を撮ったことのない人なんてまずいません。
 そんな状況なのに、表現としての写真がやや停滞気味なのはもったいない。盛り立てていきたいですし、そのためには、いまこそ写真新人賞が必要だと感じています。

姫野 写真を取り巻く状況の変化は目まぐるしくて、技術革新もすさまじいですよね。AIが出てきて、人の手を介さず画像が生成されていったりもするそうですし。いまは写真の歴史のなかでも、すごく大事な時期なのかもしれない。この状態をネガティブに捉える向きもあるでしょうけど、ひょっとすると人と写真の関係が広がって、表現としてより豊かになる可能性だってある。実際に写真を撮って作品をつくっている人たちと、そのあたりをともに考えていけたらいいですね。

佐俣 「夜明け前」の応募規定は「写真作品を募集します」とだけ掲げていて、写真の定義はしていませんし、被写体やジャンルなどの制限も設けていません。どんな表現と出逢えるか未知数でワクワクしますが、期待するところはありますか?

鈴木 事前に何かを言うと、応募する方がその言葉に引っ張られてしまう恐れもありますから、そこは伏せておきましょうか。個人的には写真と出逢って「驚きたい」という気持ちはありますが、「驚く」という言葉にとらわれて、「びっくりさせるような写真がいいのかな」などと深読みしないよう気をつけていただけたら。

佐俣 「夜明け前」というタイトルに込めた意味を、最後に付け加えさせてください。僕は投資の仕事をする際、「夜明け前の人と技術を信じよう」とよく話します。陽が出て輝き始めてから人や技術を信じる人はたくさんいるけれど、新しいことが生まれる予兆だけがあるものの辺りはまだ暗闇の夜明け前のときから、その人と技術を全力で信じること。そこに僕は、自分たちの仕事の価値を感じています。
 夜明け前の時点から心より信じられる相手がいるというのは、僕にとってこれ以上ない誉れなこと。写真の分野でぜひ、そうした体験をたくさんしたいと考え、「夜明け前」と名付けました。
「夜明け前」のみなさんと出逢えるのを、楽しみにしています。



佐俣アンリ
ANRI代表パートナー。2012年、27歳でベンチャーキャピタル「ANRI」を設立。インターネットやディープテック領域をはじめ、多数の投資を実施し続ける。

鈴木理策
写真家。2000年『PILES OF TIME』で第25回木村伊兵衛写真賞受賞。写真集に『KUMANO』『知覚の感光板』『冬と春』など、個展に「意識の流れ」「水鏡」ほか多数。

姫野希美
出版社・赤々舎代表。2006年赤々舎を立ち上げ、志賀理江子『CANARY』、浅田政志『浅田家』、藤岡亜弥『川はゆく』、石川竜一『絶景のポリフォニー』など、写真集や美術書を中心に刊行多数。


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