見出し画像

「写真はずっと僕の偏愛の対象でした」  夜明け前・審査者紹介① 佐俣アンリ

「夜明け前」、3人の審査者の横顔と、審査に臨む気持ちをご紹介します。
  おひとりめは、佐俣アンリさんです。


             佐俣アンリ 
ANRI 代表パートナー。1984年生まれ。2012年、ベンチャーキャピタルANRI を創設。インターネットやディープテック領域をはじめ、ジャンルを問わず夜明け前の人と事業と技術を信じて多数の投資を実施。著書に『僕は君の「熱」に投資しよう』(ダイヤモンド社、2020)がある。

©︎ MP Risaku Suzuki

なぜいま「夜明け前」を立ち上げたのか

 ふだん僕はANRIという会社で投資の仕事をしています。シード期と呼ばれる起業の初期段階にいる人たちが、よきスタートを切れるようサポートし、伴走するのです。
 そうした仕事の歓びは、世の中に新しい価値・考え・カルチャーを創り出せること。
 たとえば10年近く前に僕らは、YouTuberの事務所立ち上げをしました。当時YouTuberという存在はまだ理解も認知もされていませんでしたが、気づけば子どもたちがなりたい仕事ランキングの上位に入るようになっていました。
 最近だと、街に浸透しつつある電動キックボード。この社会実装にも携わっています。
 世の中を変える大きなうねりの只中へ飛び込んで、起業家とともにその動きをつぶさに体感するのは、楽しくてしかたがありません。

 日ごろ産業の世界でしているのと同じことを、このたび写真の世界でもしていきたいと考えて、「夜明け前」のプロジェクトを立ち上げました。
 直接のきっかけは、写真表現の世界で現在、新しい人を輩出するしくみがなくなっていると知ったことでした。
 この30年来、新人写真家の登竜門となっていた「キヤノン写真新世紀」や「1_WALL」といった公募展が終了していると耳にして、志はあるのに世に出るルートが見出せず困っている人はたくさんいるだろうにと感じました。
 しくみがなくなったのなら、新しくつくるしかない。
 写真の世界のエコシステムを持続させる一助になれたらと思っています。

なぜ写真に着目するのか?

 写真は以前から、僕の偏愛の対象です。大学時代にはカメラサークルに入っていて、とくに大学3~4年のころはずっと写真にのめり込んでいました。カメラマンのアルバイトもたくさんしましたし、いわゆるアートっぽい作品を撮ったりもしました。
 そんな愛すべき写真表現のエコシステムが危機に瀕しているのなら、なんとかしたいという思いをまずは抱きました。

 それに、これからの写真がどうなっていくのか、見定め考えていきたいとの気持ちも強くあります。
 人類が撮る写真の総数は、この10~20年で飛躍的に増えました。デジタルカメラとスマートフォンの普及によって、写真は従来とは違う次元に突入したと言えるでしょう。
 近年は画像加工技術が進歩し続け、好きなイメージを自在につくり出せるようにもなっています。生成AIに至っては、短いテキストを書けば、あとは勝手に画像や動画を生み出してくれるほどです。
 もはや被写体の前に立ったり、シャッターを押したりしなくたって、いくらでも完成度の高い写真がつくれてしまう。テクノロジーの進化によって、写真の定義が大きく揺らぐ事態が訪れたわけです。

 写真という分野は、大きな転換点に直面しています。これを「写真は終わった」とみなすのか、何でもありのおもしろい時代の到来! と歓迎するのかは、その人次第です。
 混沌としたいまの時代にこそ、写真表現のあり方を問い直す意味はあるんじゃないかと考えています。

「夜明け前」というネーミングに込めた思い

 ANRIという会社ではいま、「夜明け前の人と事業と技術を信じて投資をする」ということを大きな方針にしています。
 100人のうち80人が理解できるものを応援するよりも、100人のうち1人しか「やります!」と言わないことの、最初の賛同者になろうという考え方です。

 真っ先に声を上げ、動きはじめた人に寄り添い、長く伴走していきたい。写真新人賞「夜明け前」も同じ考えのもとに立ち上げ、名前をつけました。
「写真とは何か」という定義自体が揺れ動く時代にあって、その状況をおもしろがり、自分の表現を模索する「夜明け前」のみなさんと、夜明けの光景をともに見てみたい! と心から願っています。



いいなと思ったら応援しよう!