「いつだって『新しい人』と出会いたい」 夜明け前・審査者紹介② 姫野希美
「夜明け前」、3人の審査者の横顔と、審査に臨む気持ちをご紹介します。
おふたりめは、姫野希美さんです。
姫野希美
出版社「赤々舎」代表・ディレクター。大分県生まれ。2006年に赤々舎を立ち上げ、志賀理江子『CANARY』(2007)、浅田政志『浅田家』(2008)、石川竜一『絶景のポリフォニー』(2014)、藤岡亜弥『川はゆく』(2017)など、写真集や美術書を中心に多数刊行している。
「新しい人」とは、心持ちの問題
いまは京都を拠点にして、写真家と写真集をつくったり、共同代表を務めるギャラリーで個展を開いたりしています。
そうした活動を通して、新しい人と出会いたいという願望は、いつも心の内にありますね。
ここでいう「新しい人」とは、いわゆる新人のことだけを指すのではありません。すでにキャリアのある人でも、新たな挑戦をしたくなったり、まだ見ぬ創造への強い衝動に駆られることはきっとある。そんなときは、経歴や実績とは関係なく、だれもが「新しい人」になるわけです。
よきタイミングでいい出会いが訪れれば、それは何より幸せなことです。
見たことのないものが、見たい
わたしが出版社・赤々舎を立ち上げたのは、2006年のことでした。以来たくさんの写真家や写真表現との出会いに恵まれてきましたが、いまだ写真の魅力をひとことで指し示すことはできません。ただ、写真に宿る独特のイメージの力があることを日々ひしひしと感じ、それを表す媒体として写真集を生み出そうと悪戦苦闘しています。
写真は常に変容しています。だから、どんな写真と出会いたいのかと聞かれれば、素朴に言えば「見たことのないものが、見たい」ということでしょうか。
「見たことのないもの」というのは、被写体が新奇だとかインパクトがあるといったことではありません。問いや発信のこと、視点のこと、自分の内側へ降りていくハシゴそのものやそのハシゴの降り立つところ、といったことです。写真には常に追いつけないという思いがありますが、見ること、編むことを通しても、新しい場所へたどり着けるんじゃないかという気がします。
葛藤や混沌をそのまま出していい
このたび審査をさせていただくアワードは、タイトルが「夜明け前」というくらいですから、どのように訪れるかわからない夜明けを求めている人に、ぜひ出会いたいという気持ちが増しますね。
私が思うに、「夜明け前」に応募していただく作品は、現時点での完成度をさほど気にしなくてもいいんじゃないでしょうか。整理しきれていない葛藤や混沌が見えたって、私はかまいません。
選ばれた方とは、そこから時間をかけて、写真集や個展をともにつくり上げていくことになります。
写真集をつくることは、作家の考えや思いを目に見える、手で触れるかたちへと落とし込んで、作品の向かうところをより明確にしていく作業です。写真集づくりの過程で作品は深度を増し、骨格を持つようになります。写真家にとって一冊の写真集をつくるとは、たいへん大きい意味を持つことです。
展示もまた重要な意味合いがあります。展示空間とは思考を体感できる場所。訪れた人の感覚に風穴をあけ、眼差しを交差させるような場をつくり上げたいところでしょう。そこを通して、作品も飛躍していくと思います。
写真集と写真展、双方ともできることを求められるのが現代の写真家です。「夜明け前」が写真集制作と個展開催どちらの機会も提供できるのは幸いです。ともに挑戦できれば嬉しいです。
ぜひ、「新しい人」となるきっかけをつかみにきてください。楽しみにしています。