アンチヒロイン
邪悪な存在の私は、この純粋無垢な少女を救いたい。
助けたい。
目の前に立つ、紺色のセーラー服を着た少女。
肩上までの髪は黒く、艶はあるが無造作である。
細い目は少し暗く、顔は少し青白い。
美人ではないし、田舎の素朴な女の子、という印象だ。
名前は「香純」。「かすみ」と読む。
この子は優しい。
否、優しすぎる。
そんなんだから、舐められる。
クラスメイトに「不細工」と言われても、ヘラヘラと笑う。
「本当に不細工だなあんた。」
思わずそう言うと、目の前の少女は目を潤ませ、暗く俯く。
なぜだか自分の胸も痛い。
「嫌いな奴が居るだろう?あんたは一生そいつのことを嫌いなままだ。」
少女(香純)は俯く。
そう、中学の頃なんてクラスのカーストが絶対。
友達関係が終わればすべて終わり。
この少女(香純)が、クラスメイトの「翔子」から、毎日のように叩かれたり、蹴られたり、「不細工」「デブ」などと罵詈雑言を吐かれているのを私はよく知っている。
しかも、そいつからは「ぶすみ」と呼ばれているのも。
クソ生意気な、下品な女である。
「でも大丈夫。そいつとは高校から分かれるし、もう一生会うこともないだろう。行きたくなければ成人式だって行かなくていい。」
そう言うと、目の前の少女(香純)は少し安心したような表情を見せる。
「あんな頭の悪い女と一緒に居なくていい。高校や大学に行けば、きっと良い子と友達になれる。」
でも。
「その前に、とりあえずそのボサボサの頭と、少しはその不細工な顔をなんとか垢抜けさせたいよね。」
少女(香純)はまた俯く。
というか。
「不細工」とか言われて、何で言い返さないの??
段々イライラしてくる。
「なんで」
少女(香純)は少し口を開く。
やっと喋った。
「なんでそんな意地の悪いことを言うんですか。傷つくくせに。」
少女(香純)は、なかなか痛いところを突いてきた。
胸の中で、「トンッ」と何かが打たれ、私は膝を折る。
そして、目の前の少女(香純)の体を柔らかく抱きしめる。
「ごめん。そんなつもりは無いのだけど。」
なぜ傷つけ続けてしまうのだろう。
今度は優しく、優しく少女(香純)の頭を撫でる。
癒されるような、気持ちが悪いような、変な感覚。
「ごめん。ごめんね。」
私は、少女(香純)を癒したい。救いたい。
のに。
なぜ傷つけてしまうのだろう。
目が醒めると、いつものベッドの上。
カーテンの隙間から、柔らかな日差しが降り注ぐ。
変な夢を見た気がした。
歯を磨く、髪をととのえる。
細い目はアイシャドウで切れ長に。
血の気の薄い頬は、リップとお揃いのサーモンピンクでほのかに色付ける。
少しは化粧も上手くなってきた。
大人の私(香純)は、今日も出社する。