ほどける
1人で歩く夜の公園には寂しげな風が吹いています。街灯の上にポツンと半端な月。潮の香りは鼻先をくすぐるように綻んで、波打ち際に私を誘います。
一羽のサギが浅瀬で黄昏ていて、深い青の中白く浮かび上がる姿はまるで幽霊のよう。ゆっくり近づくとゆっくり遠ざかる。一定の間隔を保ってサギはどんどん沖の方へ行ってしまい、大きく羽ばたいて砂浜の端の方へ飛んで行きました。
サギに誘われて気付けば波が触れるほど海に近づいていました。水面に反射する半端な月は漣によって繊細な光の筋にほどかれて、それが曖昧なカタチであったことなどもう意味を成しません。
ぱちん、ぱちん、と切られ散らばった小指の爪みたいなそれらを、集めて形作られるのはきっとまんまるの月だと思います。
少し遠くまで歩こうと思っていたけれど、砂浜に一人分の足跡をつけたら途端に家へ帰りたくなりました。
すぐに波に攫われて消えてしまうような足跡を、4年間通い続けたこの砂浜で何度残して来たでしょうか。
振り向いた先にはまだ夕焼けが残っていました。燃えるような赤ではなく、静かな橙色。夕焼けの色もいつの間にか冬らしくなっていたのですね。
帰り道、街灯に照らされたたんぽぽの綿毛が一つ、寂しく揺れています。生まれる時間と場所を間違えた、ひとりぼっちのたんぽぽ。
冷たい海風にほどかれて旅に出るその種子が、目を覚ますのは春でしょうか秋でしょうか。どちらにせよ、その種子から生まれた黄色い花の喜びが溢れたような花弁から、その花の故郷が物哀しい季節であることなど思いもしないでしょう。
綿毛がふわふわ飛んでいくように、私ももうすぐこの街を去ってゆきます。
それなら、漣にほどかれた月のように、北風にほどかれる綿毛のように、私もほどけてバラバラになって捨て去りたいモノだけ置いて新しいカタチになって飛んでいけたらいいな。