ロバート・ラウシェンバーグ「モノクローム絵画」（1951-1953）解説
今回はロバート・ラウシェンバーグの初期のシリーズ、「モノクローム絵画」から2作品を解説します。つまり、《ホワイト・ペインティング》と「ブラック・ペインティング」です。
（なお、X（Twitter）https://x.com/shibayama_yo?s=21 でのポストをもとに、それをていねいに書き直し、情報を加えて記事にしています。）
《ホワイト・ペインティング》（1951年）
ca. 1951
この絵画は、キャンバスにペイントローラーで白色を塗って制作されました。図のものは4枚のパネルからなります（が、《ホワイト・ペインティング》にはいくつかのバージョンがあり、そのパネルの枚数はものによります）。
《ホワイト・ペインティング》は、絵を描くという行為をおこなっていないことから、当時の批評家の多くからダダ的な反芸術だとみなされました。
一方で、ラウシェンバーグはこの絵画の制作直後に書いた手紙で、「1 white as 1 God」とその神秘主義を説明しています。実際ラウシェンバーグは近い時期に、《Mother of God》（1950年）というカトリックの聖地巡礼をテーマにした作品を作っていますので、このような説明は自然なことなのかもしれません。
しかし、のちにもっとも有力（あるいは有名）となる解釈は、ジョン・ケージによるものです。まさにケージはこの絵画を見て《4分33秒》（1952年）を作ったと証言しています（ほんとうのところは、そんな単純な経緯ではないのですが）。
無音であることによって環境の音を聞かせる《4分33秒》のように、《ホワイト・ペインティング》は真っ白であることによって、絵画の外の光や影をそこに映し、ほこりを捉え、鑑賞者にそれらを見させるというわけです。
ラウシェンバーグもいつからか、インタビューでこの解釈にしたがった自作解説を何度もしています。
Branden W. Joseph『Random Order』第1章が、この解釈をアンリ・ベルクソンやジル・ドゥルーズの哲学と関連づけて論じていますので、興味ある方は読んでみてください。
「ブラック・ペインティング」（1951-1953年）
ca. 1951
この絵画は、あらゆる表象（つまり、なにかを表すこと）を避けようとする試みとして制作されました。
「ブラック・ペインティング」にもいくつものバージョンがありますが、（新聞）紙を貼ったキャンバスの上に黒色の絵の具を塗ることで作られるという点は一貫しています。その結果、絵画は黒色の凹凸を作り、強烈な物質性を持ちます。同じモノクロームでも、その点において《ホワイト・ペインティング》とは対極なのです。
イヴ-アラン・ボワ＋ロザリンド・クラウス『アンフォルム』は、その絵画を「低級唯物論（Base Materialism）」にかなったものだと論じました。つまり、本来世界には形あるものなどなく、ただ（低級な）物質そのものがあるにすぎないという思想です（「低級」ってなに？と思うかもしれませんが、とりあえず高級の真反対だと思って理解してください）。
その解釈と似ているのですが、Helen Molesworth “Before Bed”は、「ブラック・ペインティング」を直接的にスカトロジカルなものとして論じていますので、その方面に関心がある方は読んでみてください。
最後に両作品とともに写ったラウシェンバーグのポートレート写真をあげます。
ものすごく対比的に見えるのではないでしょうか（この「ブラック・ペインティング」はツヤがすごいですね）。
お読みくださり、ありがとうございました。
画像出典
https://www.rauschenbergfoundation.org/art/artwork/untitled-portrait-four-panel-white-painting-black-mountain
https://www.rauschenbergfoundation.org/art/artwork/untitled-four-panel-glossy-black-painting
https://www.rauschenbergfoundation.org/artist/early-works-1948-54