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金木犀
木々の葉が色づき始めるこの時期、ひんやりした空気が甘い香りを運んできていよいよ秋が来たと思う。金木犀の香りが漂うこの時期が私は大好きだ。
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私が通っていた高校の中庭には大きな金木犀の木があった。本当に立派な木で、下にいると星屑のような花が降ってくるようだったのを今も覚えている。秋になると誰が言わずともみんななんとなく窓を開けっぱなしにしていて、校舎中にむせかえるような甘い香りが漂っていた。
軋む木造校舎、女の子たちの笑い声、秋晴れの空に白いカーテン、金木犀の香り。
古い女子校特有の空気感と相まって、夢のような甘い閉鎖感があった。
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海の見える公園で、昔の恋人と夜に散歩したことがある。『不思議の国のアリス』の女王の庭のように入り組んだ小道を、何をするでもなく歩いていた。その時も金木犀の香りがしていた。
香りのカーテンに包まれて女王の庭に閉じ込められてしまいそうだなとか、雨に濡れた木々の濃い緑の葉が綺麗だとか、海が近いのに意外と波の音が聞こえないんだなとか思ったことは覚えているけれど、その時私が彼に何を思っていたのか全く覚えていない。たぶんあんまり好きじゃなかったんだろうな。
少し捻くれた人だったな、ということは覚えている。
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金木犀の香りがもたらす独特の閉鎖感ってなんなんだろう。甘い香りに閉じ込められる。思い出はまだずっとあの秋にある。