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江國香織『真昼なのに昏い部屋』
内容紹介
軍艦のような広い家に夫・浩さんと暮らす美弥子さんは、「きちんとしていると思えることが好き」な主婦。アメリカ人のジョーンズさんは、純粋な彼女に惹かれ、近所の散歩に誘う。気づくと美弥子さんはジョーンズさんのことばかり考えていた———。恋愛のあらゆる局面を描いた中央公論文芸賞受賞作。
不倫小説。不倫ものはあんまり得意ではなくて普段は読まないのだけれど、タイトルと表紙があまりにも気に入って思わず買ってしまった。
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独特の文体(三人称多元というらしい)で描かれる美弥子さんとジョーンズさんの逢瀬が不気味な眩さに包まれていた。この点に関しては、奥泉光による解説が見事なので、言葉を借りて説明する。
この作品は、語りに工夫を加えることで語り手もまた小説世界の内にいると読者に思わせることに成功している。しかし、小説世界内で直接姿を表すことはなく、気配のように、幽霊のように、そこにいる。
この技法が小説全体になんとも言えぬ薄気味悪さを漂わせ、絶えず夏の光が溢れているような小説世界に、仄暗い奥行きと陰翳を与えているのだ。
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印象的だったのは、最後の最後のこの文。
「それに、奇妙で残念なことですが、美弥子さんはジョーンズさんの目に、もう小鳥のようには見えないのでした」
物語の冒頭から一貫して、2人の関係を(不気味な明るさを伴う)爽やかで尊いものように描いていたのに、最後にはジョーンズさんは美弥子さんに対する燃えるような情熱を失っている。
恋愛なんてそんなものなのかしら、と思わせられる肩透かし感と納得感。