みかんの花咲く丘
■2023年(両親81歳)
7/12
単身で訪問 午前中 居室にて
母、元気! 表情も前回より和らいでいてほっとする。
また乳液を母の手のひらにのせ、顔に塗ってもらい、さっぱりしてもらう。
棚の上にそのまま置きっぱなしにしていたら、母が乳液に手を伸ばして舐めようとしたので、慌てて洗面台の上にしまい込む。
前々から乳液を口にするとは聞いていたが、てっきり父のことだと思っていた。
まさか母も分からずに口にしてしまうとは。衝撃だった。
二人とも、差し入れのお菓子を美味しそうに食べる。
二人とも自分の手に持って、まだ自力で食べられている。
久々に父にハーモニカを吹いてもらう。
十八番の「みかんの花咲く丘」をリクエストすると、上手に吹いてくれてほっとする。
ハーモニカだけは、どれだけ認知症が進もうとも見事に吹けるのがすごい。
単音だけでなく、和音で伴奏を入れたりと、何とも絶妙な演奏に毎回感心するほど。
完全に体得している。
母も横でワンテンポ遅れて口ずさむ。無表情だが。
「お父さん、上手だね!」と盛り立てる。父、嬉しそう。
母も横から「伴奏がね、上手だよ」と言って父の腕をさするシーンも。
母に久々に覇気が感じられ、嬉しくなる。
上機嫌な父の話を聞きながら、ふと母を見ると、洗面台の前でコップを蛇口の下に置き、水を出そうとしている。
反対の手には歯ブラシを持っている。
「あっ、ここ今ね、壊れちゃってるんだって。だから1階に行って磨く?」と促すと、
「1階? …後でね。くたびれちゃう」と言って諦める。
未だ水を出そうとすることもあるのだなと思う。
依然、ビニールテープでぐるぐる巻きの蛇口が痛々しい。
居室に入ってすぐのところに敷いていたラグマットを持ち帰ることにする。
実家の玄関マットとして長らく使われてきたもので、入居時に、なるべく実家の配置に似せようと思って居室の入り口に敷いていたもの。
度重なる水濡れですっかりクタクタになってしまい、転倒防止のためでもあるのか敷かれなくなり、いつからかドアの横に丸めて立てかけられたままになっていた。
もうこの先敷くことはないだろう。
置き畳は入居早々に撤去だったが、ラグマットもこれにて卒業。
転倒防止を最優先すると、部屋の装いなど容赦なく切り捨てられていく。
止む無し。