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「スノーフレーク」第31話

両親、祖母と一緒に暮らし、毎日母の手作りご飯を食べ、お風呂に入って清潔なお洋服を着られる。学校の集金だって欠かさず払えているし、身体的暴力もない。
そこには世の中には自分たち以上にもっともっと大変な人たちがいて自分は十分に恵まれていると思うに足る充分な要素があった。
どうみたって社会的弱者ではない。はたから見たらごくごく普通の一般的な家庭だ。
私はまだマシだ。だからこんなことで弱音を吐くなんて根性がない。たとえ相談したところで相手にすらしてもらえないに決まっている。そのうえ状況に緊急性がないと判断された場合のことを考えると相談したことすら恥ずかしい。なにより私は語彙力が乏しくて違和感を適切な言葉で表現する術を持ち合わせていなかった。
家族が精神科へ通院していることは他所に隠しておくべきことという暗黙の了解も後押し社会にSOSを発するという選択肢を持ち合わせていなかった。
せめて家族の中だけもオープンにして話し合いができたら良かったけれど現実はそこまでいかなかった。
母も父もそれぞれが打ち明けることができない自分だけの苦悩として抱えていた。当然そこから発展しないまま、どこにも打ち明けること、相談するという考えにもならないままじっと耐えるだけの日々が続いていた。家にいて話しかけようと思えばいつでも声の届く距離にいるけれど、その話題に対する心の距離はとてつもなく遠かった。
私にとっての家庭は自分の気持ちより祖母や父の気持ちにアンテナを張っている場所だ。お金がかからないように過ごし平穏をおびやかさない存在でいることが何より大事なことだった。一日一日ただただ終えることだけを考えて時間が過ぎるのを待った。
相手の顔色を窺うことが習慣になると自分のことは置き去りだ。それに本当に助けてほしいときに助けが来るとは限らない、と身体が覚えている。だから悩みがあっても誰にも相談することがないままずっと一人で抱え込むようになった。
自分が頑張れば家庭に波風がたたない。自分の頑張り次第だ。家庭に波風をたたせないためなら自己犠牲を厭わないことが最優先事項になった。

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