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アンフォールドザワールド 8

「え、イチゴじゃないの?」
「うん、イチゴ・クラウドイーターは俺の兄ちゃん。あれ、弟だったかな。まあどっちでもいいけど」
 膝にくっついていた米粒を拾って口に入れてから、フータ・クラウドイーターと名乗った男は立ち上がる。私よりも十五センチくらいは背が高い。細身の体型で、さっき十トントラックを持ち上げたとはとても思えない。そもそもどんなに筋肉質でも、普通の人間はトラックを背負ってジャンプしたりはしない。

「さっきからこっちを狙ってるそれ、なんなの? えーっと、ちかこちゃん」
「ビデオカメラですが」
 フータにカメラを向けたまま、ちかこが返事をする。
「えー、カメラ? でかっ! カメラでかっ! ミサイルかなんかがどーんって出てくるかと思ってどきどきしちゃったよ」
「わりと小型なほうだぞ、それ。ちかこの私物だし」
「えー、すげー。高性能? 時空を遡って撮影できたりする?」
「そのような機能はありませんね。残念ながら」
「ないかー、そうかー、残念」
 フータはちかこの隣に立ち、液晶を覗き込む。顔を寄せられたちかこが迷惑そうに、彼から身を離す。
「仮に別人として、あんたたちはなにものなんだよ」
「なにもの?」
「普通じゃないだろ、消えたり、地面に大穴開けたり、トラック背負ったり」
「ふつーの人は、トラックを背負ったりしない」
「しないよ!」
「よし、覚えた。トラックは背負わないように気をつけよう。そうだ。俺、ナニガシを探さなきゃ」
「ナニガシとはなんなのですか」
 フータが腰をかがめてカメラのレンズに顔を近づける。ちかこが眉をひそめて一歩後ろに下がる。
「ナニガシ、全部捕まえないと終わらないんだよねー。いまは二体出現してて、たぶんあともう一体くるのかなあ。でもまだいっこも捕まえてないし、殺さないように気をつけないといけないし、おなかすくし」
「悪いやつなのか?」
「悪いよー。こっちの人たちがなんかされないうちに、転送しないと。でも殺しちゃうとマスタに叱られる」
「ますた」
「うん、マスタ。俺たちのー……」

 フータがそこまで言いかけたところで、背後に突然銀色の人影が現れる。
「あっ、ミッチだー」
「連絡がつかないと思ったら、なにをベラベラと」
「あれ? そっか。窓を閉じてたんだ。おなかすいてたから」
「エネルギー残量を確認せずに力を使いきったんじゃないだろうな、フータ」
「ソ、ソンナコトナイヨー」
 フータが『ミッチ』と呼んだその男は、フータと全く同じ外見だった。水色の髪も、水色の瞳も、銀色の服とブーツも、全てが寸分違わず同じだ。
「また君か。その武器を下ろしてくれないか。そうすればこちらから君たちを攻撃することはない」
「これはカメラなのですが」
「カメラ? その大きさで?」
「でかいよねえ、カメラ。ちかこちゃんの私物なんだってー」
「あっ」
 ミッチはちかこの手から素早くカメラを取り上げ、いくつかのボタンを押して操作する。
「なるほど、このカードに記録するのか。大した機能はないな」
「その口調……、あんた、中学校の校庭にいたやつだろ。ほのかをどこにやった!」
 私の頭の中で、ようやく全てが繋がる。
「ほのか?」
「やっとわかった。動物園にいたチャラいのがイチゴ、馬鹿力なのがフータ、で、嫌味なあんたがミッチ。あんたたち、三人いるんだな」
「あー、チャラいよねえ。確かにイチゴはチャラい」
「俺とイチゴを同一人物だと思っていたのか。失敬だな」
「俺もイチゴと間違われたー。ぜんぜん似てないのにねえ」
「似てるなんてもんじゃねーよ!」

 SDカードを抜き取ってから、カメラの本体をちかこに向かって軽く放り投げる。ちかこは慌ててそれを受け止める。
「ほのかと言うのが君たちと同じ服を着た女子のことなら、既にナニガシにやられているかも知れない」
「はあっ!?」
「申し訳ない、この世界にこれ以上被害が広がらないよう、尽力させていただく」
「まってミッチ。俺もいくー。きずなちゃん、ごちそうさまでした。またねー」
「申し訳ないって……、おい、ちょっと待て!!」
 私がその言葉を言い終えないうちに、フータとミッチは目の前から姿を消した。

9へつづく

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